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ヤマさん、初めてのおつかい。

「ヤマさんや、薬の材料の在庫が少なくなってきているから、買いに行って来て貰えるかい?」


この世界に来て二週間、早朝から雑用をしながら薬草やその他の素材や道具の勉強をしていると、師匠から声をかけられた。

師匠からは、ばぁさんと呼んで良いと言われたが、店の中で弟子がばぁさん呼びするのもどうかと思い、師匠と呼ぶことにしている。


「何を買いに行ったら良いやか?」


「店の名前と場所、あと買って来て貰いたい素材はこのメモに書いておいたよ。見本を見せてあげられたら良いんだけど、既に乾燥させたり砕いたりと、加工した物しか無くてねぇ。簡単に絵を描いたんだけど、分からなかったら店の人に聞いたりしながら、ゆっくり買って来て良いからねぇ」


そう言う師匠からメモを受け取り、内容を確認する。

師匠には大変申し訳ないが、幼児が描いた様な、丸と棒で組み合わせたガタガタの絵では、フォルムするら全く想像がつかなかった。


「店の手伝いや、材料の下処理とかあるけん、すぐ帰ってくる」


「今は忙しい時期でも無いし、今日はする事が無いんだよ。自分の買い物をしてきても良いから、気にせずゆっくりしてきなさいな。そうさね、お風呂はお願いしたいから、夕飯までに帰ってこれたら良いよ」


「なら、魔術師ギルドに寄って来ても良いやか? あそこ図鑑とか有るから、勉強がてらメモの素材を調べてみたいんやけど」


「それが良いねぇ。あそこには最新の図鑑も有るし、こまめに調べるのは良い事だよ。お茶でも飲みながらゆっくり調べておいでな」


そこで外出の準備を整えると、仕入れ用のお金の入ったポーチと、素材を入れる鞄を持って店を出た。

鞄は3種類。背負うリュック型と、肩に斜め掛けするショルダーバック。そしてベルトにフックを引っ掛けて太ももに固定する長方形のバックだ。太ももバックだけは正式名称が良く分からないが、採取人とかが

使う物らしい。


師匠から用意された鞄を何の疑問もなく身に着けたが、この鞄のサイズと数からして、買い出しの量は沢山あるんじゃないだろうか。

まぁ、師匠が一人で一度に買いに行ける量では無いので、こんな時こそ役に立たねばなるまい。


まずは魔術師ギルドのある街へと向かう。

メモを見たところ、素材を売っている店も、魔術師ギルドの周辺に集まっているようだ。


二週間ぶりに住む街から出た俺は、少し道を間違いながらも、無事魔術師ギルドまでやってこれた。

ちょうど依頼を受ける魔術師が集まる時間帯らしく、受付には列が出来ていた。


本の閲覧スペースも、受付に並んでいる仲間を待っているメンバー達で、そこそこ埋まっていた。

一人掛けスペースは全部埋まっているので、空いている席に相席させてもらおう。


さっそく喫茶カウンターにギルドカードを提示して、飲み物を注文する。

この世界の飲み物はサッパリ分からないので、本日のおススメと言うのを頼んだ。


本日のおススメは『ジート茶』。柑橘系の香りの、少しピリッと辛みのするお茶だった。

旨味もあるので、お茶と呼ぶか出汁と呼ぶかで悩む味だ。ジート茶という名称なので、お茶なのだろうが、お茶漬けの出汁にしても問題は無さそうな気がする。むしろお茶漬けの出汁にしたい。

米が無いので、主食のテッチの実で代用して、焼きおにぎり茶漬けでも作ろう。


脳内の自分用買うものリストに、ジート茶を加えて、図書スペースで図鑑を探す。

調薬素材図鑑という棚から、丁度良さそうな本を3冊見つけたので、それを片手に空いた席を探す。すると中央辺りにある6人座れるテーブルに、4人で座っているグループを見つけた。

受付に一人行っていたとしても、一人分の席が空くだろうと考え、相席をお願いしに向かう。


近づいてみるとその四人グループは、自分と同年代くらいの男性二名。エジプトの壁画みたいな、黒い犬の頭をした人物が一名。水色の鱗で覆われた、サンショウウオみたいな人物一名の、異種族混合型のグループだった。


犬っぽい人物と、サンショウウオっぽい人物の性別と年齢が分からない。

ただ相席を頼むだけなので、気にするところでは無いのだろうが。


すぐ近くまで寄ると、サンショウウオみたな人物と目が合った。つぶらな透明感のある青い瞳をキラキラさせて、その人物は首をかしげる。


「なにかご用かしら?」


想像以上に可愛らしい声を発したサンショウウオさんは、どうやら女性のようだ。

俺の見た目は悪役風らしいので、彼女を怖がらせないように、声をかけなくてはいけない。

敬語で喋ると怖いとギィから言われたので、ラフに行こう。


「おはようございます。ちょっと調べ物したいんやけど、この席は空いとるやか? 座ってもかね?」


すると他のメンバーも俺に気づき、荷物を寄せてスペースを作ってくれた。


「どうぞどうぞ。もう一人戻ってきたら、予定を詰めるので騒がしくするかもしれませんが、それでも良ければ、どうぞ」


やはり、一人受付に向かっているらしい。

俺は周囲が騒がしくても気にならないタイプなので、テーブルに本を置いて、遠慮なく座らせてもらう。


「ありがとう。一人席が空いて居なかったけん、座れるだけでも助かったばい」


すると犬頭の人物が頷きながら、重低音の声で同意した。


「この時間帯が一番人が多いからな。一人掛けの席は掲示板のすぐ近くだから、新着依頼の張り込みしている連中が占領するんだ。ほら来たぞ、新着依頼が張り出される」


犬頭の男性が指さす方に視線を向けると、カウンターから出てきたギルド職員が、掲示板にいくつかの張り紙を貼り始めた。

と同時に、一斉に一人掛け席に座っていた人達が、掲示板に殺到する。


「この動きが、あと一時間前後続くからな。その波が引くまで、一人掛けの席は座れないだろう」


「そうなんやね。依頼の争奪戦も大変やね」


「今の時期は依頼が少ないんだよ。この青霧がかかっている時期は、魔獣も魔物も大人しいし、採取に行くのも視界が悪くていけねぇ。そういえば、アンタ大荷物だな。どこかに採取にでも行くのか?」


「いや、ただの買い出しばい。買い出しのメモを貰ったんやけど、メモに書かれた絵だけでは判断がつかんけ、勉強も兼ねてここに調べに来たんよ。無料で飲み物も飲めるし」


成るほどと納得した彼らの元に、受付を済ませた、一つ目の若い男性が戻って来た。


「すまん、皆。べトンの討伐依頼は、既に他のグループが受付完了していたみたいだ。第二希望のキャトンのうろこ採取も同じ。第三希望のリッパーアントの討伐依頼しか受けられなかった」


「げっ!! リッパーアントか。ポーションいくつ残ってた?」


「在庫はあと15本。最近、遠征組が大量に買い占めてるからなぁ。地元の魔法薬師は少なくなってきてるし、高齢化で店を畳んでいる所も多いから、こっちにまでポーション回ってこねぇんだよな。在庫は大事に使うしかねぇぞ。でもリッパーアントか、多めに持って行くしかねぇなぁ」


どうやら地元密着型の魔法薬師の不足は、深刻そうだ。ミミィさんとギィが、俺に地元型の魔法薬師になるように頼んできたのも、なんとなく理解できた。

はやく一人前になれるよう頑張ろうと、気を引き締め、調べものに没頭することにした。


頼まれた物を全て調べ上げ、ノートにまとめた頃には、ギルド内の人数が半分になっていた。

同じ席のグループは作戦会議をしているようで、あまり邪魔するのも良くないと軽く挨拶だけして席をたった。


そしてやって来たのは、一件目の薬草店。


「すみません。コールドベルを30本と、チメタイ花を60本欲しいんですけど、ありますか?」


「見ない顔だな。まぁ、その植物はあるぜ。ただ、この植物は魔法薬師にしか販売できない植物なんだ。身分証と、所属先の分かる物を提示して、書類にサインして貰わないと行かんのだが、持ってきてるか?」


まるで、危険物扱いだな。と思いつつ、身分証とギルドカードを提示した。


「お!! アンタ、ニャンでも魔法薬店の魔法薬師か。あのばぁさん、ずっと従業員探していたけど、従業員どころか、魔法薬師が来たか!! 良かったなぁ。ばぁさん元気か?」


「はい。元気です。俺はまだ師匠の弟子で見習いなんで、あまり戦力になってないんですけどね。これからここにも時々来ると思うんで、よろしくお願いします」


「おう。覚えとくぜ。で、コールドベルが30に、チメタイ花60な。あれ? お前さん、持ち運び用のガラスドームは持って来てるか?」


「ガラスドーム?」


「そう、ガラスドーム。それに入れて保管しないと、溶けるし割れるだろ?」


確かに、図鑑で調べた時に、コールドベルとチメタイ花は『氷結系植物』なので、溶けたり砕けたりするから、採取時と持ち帰りの際には注意が必要って書いてあったな。具体的にどう注意をするのか書いてなかったが、ガラスドームとかいう持ち運び用の入れ物がいるのか。


「………持って来て無いです」


「かぁーー。ばぁさん、自分じゃ運ばないから、ガラスドームの必要性を忘れてたな。ちょっと待っとけ、ばぁさんに連絡入れるから」


そう言って、店主は店の奥へと入って行った。

ところで店主は今、師匠は自分じゃ運ばないって言ってたな。今まで師匠はどうしていたんだ?

疑問に思っていると、店主が奥から戻って来た。


「あー。ばぁさんに確認取ったら、ガラスドームは、ずいぶん昔に落として割ってから、持って無いってよ。余分に金を持たせているから、それでついでに買って来てくれってよ」


「えーと。師匠は今までどうしていたんですか?」


「冒険者を雇って、一緒にやって来て、荷物持ちさせてたぜ。依頼料がかかるから出費がかさんでいたんじゃないか?」


「………師匠」


まぁ、師匠は小さいし、年配だから仕方が無い。これからは俺が何とかしよう。


「じゃあ、ガラスドームも一緒に売って頂けますか?」


「何言ってんだ。ここは薬草屋だよ。ガラスドームは魔道具屋で買ってきな。その間に準備しといてやるから」


そこで、薬草屋で魔道具屋の場所を聞いて、ガラスドームを買いに行く事になった。


ちなみに、この日は魔道具屋に3回向かう事になるとは、この時の俺は予想できていなかった。


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