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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【中国】喀什噶爾
72/296

72帖 闇夜に浮かぶ2つの白い目ん玉

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す


「どうしたんや?」


 パリーサに小声で聞いてみた。


「えーと……、私が寝てるところを上から誰かが覗いてたの」


 パリーサは酷く怯えながら小さな声で訴えてきた。

 周りを見ると多賀先輩も上野さんも、そしてもう一人の日本人青年も寝てる。パキスタン人の方を見ると、暗くて分かりづらいけどゴソゴソしてる人もまだ居るみたいや。確証は無いし疑ったらあかんけど、どう考えてもあのパキスタン人が覗きにきたとしか思えへんかった。

 何しにきたんやろ。パリーサに何かあったら責任取れへんし、それこそ一大事や。


「分かった。僕が見てるからパリーサは寝ていいよ」


 怖がるパリーサをベッドに連れていき、毛布を掛けた。


「ありがとう」


 とパリーサは囁いてたけど、まだ少し震えてるみたいや。

 僕はパリーサのベッドに腰掛け警戒する。眠気はとっくに消え失せてた。


 暫く周りを見てると、ゴソゴソしてたパキスタン人が起き上がってこっちを見てきた。僕が座ってるのを見つけると、すっとベッドに横たわった。怪しいと思て目を凝らす。

 暫くするとまた同じ行動をしてる。僕は限りなく怪しいアイツが諦めるまで居座るつもりでいた。

 するとパリーサが小声で話しかけてきた。


「シィェンタイ、どう?」


 その声はまだ恐怖に怯えてる。


「そやな、僕がここに居てたら誰も来れへんし大丈夫やで」

「ほんとに」

「安心して寝てええで」

「うん、ありがとう」


 それでもパリーサは不安がって目を開けてる。


「まだ暫くここに居ってパリーサを守るから目を瞑って寝えや」

「うん。わかった」


 パリーサは目を瞑ると同時に僕の手を握ってきた。一瞬ドキっとして手を引きかけたけど、パリーサを安心させようと思てしっかり握り返した。


 暫く見てたらアイツの動きが無くなった。もう諦めて寝てしもたんやろか。

 そやけどなんでパリーサを覗きに来たんやろか。そんなに女の子が珍しいか?

 もしイタズラしようとしてたんやっら許せへん。ここは絶対にパリーサを守りきると心に決めた。


 その後は目立った動きは無い。アイツももう寝てしもたんやろか。それから30分くらい見張ってたけど、なんの動きも無い。もう大丈夫かなと思て、パリーサの手を毛布の中に入れる。パリーサはもう寝てしもたみたい。


 僕は自分のベッドに戻り横になったけど、今度やって来たらどうしたろ、どんな技を掛けて撃退しよとか考えてたら寝られんかった。なんかむっちゃ腹が立ってきて興奮もしてた。疲れて眠たいはずやのに寝られん。

 あーそうや、あの王宮の夢の続きをみたいなぁとアホな事も考えてた。


 そんな事を考えながら天井を見てたら僕の足元を黒い影が動くのがわかった。


「来やがったな!」


 って思い様子を伺ってると、急に僕の目の前に白い目ん玉が2つ現れた。

 黒い顔やったから目玉だけが動いてる様に見えた。僕はむっちゃびっくりして思わす叫びそうやったけど、なんとか堪えた。間違いなくパキスタン人の一人や。

 2つの白い目ん玉は僕が起きてるか確認しに来たんやろう。僕が目を開けてるのにびっくりして慌てて部屋を出ていった。僕は起きて靴を履き廊下に出てみる。

 エレベータは動いた形跡がないし、階段も人気はなかった。どこか別の部屋に隠れたか? あの身のこなしからすると、結構若い奴やと思う。何考えてるんや……。

 暫く廊下で様子を見てたけど、人の動きは無かった。


 取り逃がして残念やったけど、もうやって来うへんやろうと思て部屋に戻る。

 ベッドに行くと、パリーサが起きてた。暗くて分かりづらいけど不安な顔をしてる。


「何かあったの」

「いや、なんか人影があったから見に行ってただけや。でも誰もおらんかったわ」

「そうなの。でも……こわいよ」


 パリーサはさっきの恐怖を思い出した様に震え出した。そりゃ怖かったやろな。僕でも驚いたし。


「大丈夫や。追い返してきたし」

「でも、また来たらどうするのよ」


 そうやな。もう絶対に来うへんとは言えんわな。どうしよ?


「シィェンタイ、私と一緒に寝て」


 なんと。でもそれはちょっとまずいかなぁ。


「お願い。お願い……」


 泣きそうな顔をしてる。そんな顔をされるとパリーサを守るって言うたさかいに後には引けへん。


「分かった」


 それやったらと僕は鉄パイプで出来た僕のベッドをパリーサのベッドの横にそーっと移動し、ぴったりとくっつける。


「これやったら大丈夫やろ」

「うん」

「そうや……」


 僕はリュックからトルファンのバザールで買うたウイグルの短剣を取り出しパリーサの頭の横に置く。


「何かあったらコレで攻撃したらええわ」


 と言うと頷いて少し笑顔になった。


「そしたら目を瞑って寝えや。ちゃんと守るから」

「うん。おやすみなさい」

「おやすみ」


 僕もベッドに横になったけどすぐに起き上がり、パキスタン人が居った辺りの空いてるベッドの位置を確認する。奥から2列目の左から2番目と3列目の左端。さっき怪しい動きをしてた奴が居った辺や。朝になって誰かがおったらそいつが犯人やし、文句を言うたろと思てそのベッドの位置を憶えた。


 僕が横になるとすぐにパリーサは僕の手を握ってきた。パリーサを見ると目は瞑ってたし、しゃないなーと思て握り返し僕も目を瞑った。女の子の手を繋いで寝るやなんてしたことないし、なんかドキドキして全然眠れんがな。いろんな事を妄想してたら、ますます目が冴えてきた。


 明日もこんなんやったらしんどいなーて思てた。それやったら……、明日からは思い切ってツインの部屋に変えようと決意した。ツインや言うても16元やったら北京のホテルより安い。それでパリーサが安心して寝られたら僕も寝られるし、それでええやんと自分に言い聞かせて寝ることに集中した。


 ふと目を開け首だけ起こしてパキスタン人の方を見たけど、なんの変化も無かった。

 窓の方を見てみると、カーテンが薄っすらと明るくなってた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 寝てるところを知らない人にましてや異国の人に覗かれるほど恐いもんはありませんよね。

 明日はカシュガルの街を散策します。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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