表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【中国】吐鲁番
44/296

44帖 酔っぱらいのムスリム?

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す


 ロバ車タクシーの少年ヤシーンと別れて旅館の部屋に戻ってみると、日本人の旅行者がベットに座ってる。若そうやけど顔に髭がたんまりあって、如何にも旅慣れたって感じの人や。


「あっ、こんにちは」

「こんにちはー」

「どこから来たのですか」

「北京からきました」

「そうじゃなくて……えーっと、僕は東京から来ました」

「ああ、僕は京都です」

「俺は滋賀からです」

「どこへ行ってきたのですか?」

「ロバ車で2時間ほど観光ました。カナートとかモスクとか……」

「なるほど。料金はいくらでしたか?」

「2時間で20元ですわ」

「それは結構吹っ掛けられましたねえ。大体1時間5元が相場ですよ」

「まじっすか。多賀先輩、やられましたね。倍ほどしてますよ」

「少年ヤシーンめ。明日懲らしめたるからなー」

「情報が無いとこんな事になりますね。明日は取り返しましょう。それと……」


 僕はあの事(・・・)をこの人に聞いてみる。


「……駱駝(らくだ)で砂漠を縦断するってできますかね?」

「ああ、ありますよ。僕はやってないですけど、聞いた話ではカシュガルまで400ドルぐらいらしいですね」

「そ、そんなにするんや……」


 僕が夢見てた「駱駝で砂漠の縦断」は消え失せたな。


「そしたら、カシュガルまではやっぱバスですかねー」


 多賀先輩も駱駝を諦めて、バスに切り替えてきた。


「そうですね。2泊3日だったかな。50元ぐらいですよ」

「北野、バスの方がめっちゃ安いやん」

「ですねー。駱駝は無理っすね。明日バスターミナルに行ってみますか?」

「そやな、取り敢えず偵察しに行こか」

「ですね」


 この旅慣れた人、古沢さんに色々と情報を聞かせてもらう。主にお金に関すること。旅に必要な「相場」というのを聞かせてもろた。カシュガルについても、安いホテルとかオススメの店とか色々と。

 ちなみにこの古沢さん、若そうに見えるけどもう30代の大台に乗ってるって言うてた。

 日本に帰っては金を稼ぎ、貯まったらアジアを旅してるとか。すげー人がいるもんや。

 またトルファンはこれが3度目らしいが、何度来てもええとこてやて言うてはった。今回は既に5日もここに滞在しているという。そして各地をぶらぶらした後、また8月にトルファンに戻ってくるらしい。どんだけトルファンが好きな人なんや。

 話を聞いてたらお腹がすいてきた。


「古沢さん、一緒に食べに行きませんか?」

「うーん、僕はいいよ。夜は食べないから」


 食べへんって言われたらそれ以上誘いようがないんで多賀先輩と2人で高昌市场(ガオチャンシーチャン)(高昌市場)横の食堂街に行く事に。


「昨日のウイグル人の店に行こか」

「あの……、僕は隣の漢族の店に行きたいんですけど。綺麗な女の人が居ましたよ」

「ほんまか! ほなそっちの店行こか」


 昼間に見た女の子は居るかなーと期待しながら漢族の店に入る。

 居た居た! 忙しそうにしてるけど、間違いない。


「いますよ、あの子です。めっちゃ可愛いでしょ」

「おおー、まあまあ可愛いな」

「まあまあですか。多賀先輩の基準って結構厳しいっすね」

「そうやで、俺って結構面食いやからな」

「そうですか、なるほど。でもあの子、めっちゃ僕のタイプなんですけど」

「そういえば、美穂ちゃんにちょっと似てるかいな?」

「そうですか。似てるかなぁ??」

「似てるて。顔の輪郭とか髪型とか似てるやろ」

「そうかなぁあ。それよりも、女優で……えーっと、お笑い芸人の嫁さんになった人に似てません?」

「あー、安多成美かぁ。そう言えば似てるなぁ」

「あっ、そうそう!」


 と話していたら、その女の子と目が合うてしもた。

 そして急いで注文を取りに来た。普通に注文を聞きに来ただけやけど、めっちゃドキドキしてしもた。

 多賀先輩は炒饭(チャオファン)(焼き飯)を、僕は素麵(スーミィェン)を頼む。緊張してたんでビールを頼むの忘れてたわ。

 そしたら隣の席にいたウイグルのおっちゃんが日本語で喋りかけてきた。


「ワイン飲むか」

「へ? ワインですか」

「そうだ、ウイグルのワインは美味いぞ」


 と言うてきた。不思議に思たけど、その「ワイン」とやらをコップに注いで貰う。なんで不思議かと言うと、イスラム教はお酒を飲んだらあかんはずや。そやのにこのおっちゃんは何でワインを飲んでる。もしかしてこのおっちゃんはイスラムの決まりを守ってないんかなと思てしもた。


 取り敢えずおっちゃんが言うワインを飲んでみる。その「ワイン」の瓶のラベルには、新疆(シンジィァン)葡萄汁(プータオヂー)と書いてある。

 むむむ?


「これってただの葡萄ジュースやん」

「ほんまやな。炭酸が入ってるだけでアルコールは入ってへんぞ」

「偽物のワインですね」

「でもこのおっちゃん、これで酔っ払ってるんか?」

「ムスリムは、これで酔っ払いまーす」

「おもろいおっちゃんやな」

「桃のワインもあるぞ。飲んでみろ」


 今度はピンク色の液体を注いでくれた。


「これもただの炭酸入りの桃ジュースやね」

「しかしおもろいなー、こんなんで酔っ払えるんやから」


 おっちゃんの様子を見てみると、ほんまに酔ってるとしか見えへん。

 更に酔っ払ったおっちゃんは話しかけてきた。


「あなた達、日本人ね?」

「そうです」

「日本人、ウイグル、朋友(ポンヨウ)(友だち)」

「なんで朋友なん」

「日本人、戦争で汉族(ハンズー)(漢族)、やっつけた。だから朋友!」

「???」


 初めはこのおっちゃんは何を言うてんのやろうと思てた。そやけど、じっくりと話を聞いてみるとその理由が分かった。その内容はこうや。


 昔、ウイグル民族は「(ドン)突厥斯坦トゥジュェスータン共和国ゴンフェァグゥォ」(東トルキスタン共和国)を建国した。ところが汉族の解放军(ジェファンジュン)(人民解放軍)が武力で占領しに来た。おっちゃんもその戦争で戦ったんやけど、ウイグル民族は汉族に負けて、中国の一部になってしもた。日本人は戦争(日中戦争)でその汉族をやっつけてたから、だからウイグル民族と日本人は仲間なんだ。という理論であった。敵の敵は味方か。なるほどなーと思た。

 と、そこへ頼んだ料理がやってきた。お姉さんにお金を払おうとすると、


「日本、ウイグル、朋友、バンザイ」


 と言うて、おっちゃんがお金を払ってくれた。更におっちゃんは、


「私、バザールでお店してる。あなた、明日、買いにくるね」


 と言うて、腰に付けてた綺麗に装飾された短剣を見せてくれた。

 イスラム風と言うか、ウイグル風と言うか、エキゾチックな感じの装飾や。お土産にええかなっと思て見てた。


「ウイグル、みんな持ってる。明日、買いに来る。安くする」

「わかりました。明日バザールへ行きます」

「安くするよー。安くするよー」


 と言うておっちゃんはお店を出て行った。ちょっとおぼつかない足取りで。

 やっぱりこのジュースで酔うたんやろか?


 僕らは改めて新疆啤酒(シンジィァンピージゥ)(新疆ビール)を頼んで、料理を食べる。

 多賀先輩が頼んだ炒饭はポロと言うウイグル風のピラフで、僕が頼んだ素麵は辛口のウイグル風焼きそばやった。ここは汉族の店やけど、出てくる料理はウイグル風や。メニューの字だけ汉族調の漢字で、中身はウイグル料理やね。

 更にシシカバブーを追加して、明日の計画について話し合う。


「明日、バスターミナルに行ってカシュガル行きのバスを探しますか?」

「それでええと思うで。ほんでバザールに行って、さっきのおっちゃんの店行って、ほんで買い出ししよか」

「そうですね。時間があったら少年ヤシーンを捕まえて、どっか見に行きましょうよ」


 あの古沢さんの話しを聞いてたらトルファンを観光してみたいと思うようになってしもた。


「そうや、お仕置きせなあかんからな」


 そんなことを企んでたら、あの女の子がテーブルにやって来る。

 またドキドキしてきた。


「あなた、日本人ね」


 少し日本語が話せるみたい。


「そうですよ」

「明日も、食べに、来るよ」

「はい。いいですよ」


 と返事をしたら、笑顔で戻って行った。

 ほんの少しやけど喋れたんで嬉しかった。笑顔がとても素敵や。


 僕は明日も来ようと思た。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 また「僕」は何かを期待してますね。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ