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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【中国】吐鲁番
43/296

43帖 ウイグル美少女とカナート

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す


 ロバ車タクシーの少年がこっちへ寄って来る。


「さあ、観光に行きましょう」


 約束をちゃんと憶えてたみたいやな。


「なんぼすんのや」

「1時間で15元です」

「15元か。400円ぐらいやったらええか」

「相場が分からんっすからね。まあ取り敢えず行っときましょか」

「どこへ行きますか」

「えーとね、どこでもええけど、必ずカナートに行ってくれるか」

「分かりました。それでは初めにモスクにへ行きましょう」

「モスクて何や?」

「イスラム教のお寺ですわ」

「よっしゃ、行ってみよか」


 僕らは荷台に乗ると、少年はロバに鞭を打って動かした。


「お前、なんちゅう名前や」

「僕の名前は、ヤシーンと言います」

「ヤシーンか。そしたら『少年ヤシーン』って呼ぶわ」

「わかりました」

「少年ヤシーンは何歳なん」

「僕は18歳です」

「おお、若いのう」

「少年ヤシーンは、日本語上手やな」

「はい、日本人の旅行者に教えてもらいました。日本語が話せると観光の案内で稼げます」


 大通りに出て南に向かう。


「なるほど、そうやって働いてんねんや。観光客が居らんかったらどうすんの」

「いつもは畑で野菜や果物を作っています」


 なるほど。ロバ車タクシーは副業ね。

 途中、中学生ぐらいと小学生の少年たちが運転しているロバ車とすれ違ごた。そんな歳でも運転できるんや。免許は要るんやろか?

 少年ヤシーンの友だちみたいで、ウイグル語で何か喋ってた。少年ヤシーンは「日本人のお客をとったでー」みたいな感じで喜んでる。中学生らは羨ましそうな顔をしてた。


 それにしても日差しがきつい。4時やというのにめっちゃくちゃ暑い。

 そうや! 現地時間では2時やった。一番暑い時に観光に出てしもたわ。時差があると時計を合わせるんが面倒くさいなと思たけど、やっぱり移動の事を考えて北京時間のままにしておく。

 因みに気温はなんと34度やった。


 しばらく行くとモスクに着く。初めて見るモスク。中国語で清真寺(チンヂェンスー)と書いてある。モスクの中にはムスリム(イスラム教徒)しか入れへんので僕らは外から写真を撮るだけや。

 そんなに大きくはないけど、丸いソフトクリームのような屋根が特徴的で、緑や青のタイルで装飾がしてある。こういう建物を見ると異国に来たなぁという実感が湧いてくる。日本では見たこと無いしね。


 大通りを右に曲がって西に進んで行くと、左手にバザールがある。屋台がいっぱい出てて、そこそこ賑わってた。買い物客のほとんどがウイグル人のおっさんや。女の人も少し居ったけど、おばさんとおばあさんばっかり。でもみんなカラフル布を頭に被ってるんで目立つ。


 ロバ車はひたすら西へ西へ。民家が増えてきて、街の中心から外れに来たんが分かる。大通りから細い路地に入りると、そこは住宅地の中やった。


「少年ヤシーン、どこへ行くねん」

「とっても暑いので、ロバに水を飲ませに行きます。僕の家はすぐ近くです」

「お前の家に行くんか?」

「家に寄ってから、カナートに行きます」

「なんやねんそれ」


 細い路地をくねくねとロバ車を進める。なんか住人に変な顔で見られてるような気がした。ちょっと不安。

 さらに路地を奥に進むと少年ヤシーンの家に着いた。家の様子からあまり裕福では無い様や。


「ここが僕の家です。ロバに水を飲ませるので待っていて下さい」


 隣の家にもロバがいるみたいで、急にロバ同士が鳴き出した。

 初めてロバの鳴き声を聞いたが、顔も悲しそうな感じやけど、鳴き声も哀愁が漂ってた。その鳴き声を聞いているとロバがかわいそうに感じてきた。


 少年ヤシーンは家の中に向かって何か叫んだ後、ロバに水を飲ませる。

 しばらくすると家の中から可愛い女の子が出て来る。

 肌は白くて顔の彫りは深く、目は大きく二重で、透き通る様な瞳をしてた。頭はきれいな黒髪を三つ編みにしてる。

 大きくなったらめっちゃ美人になりそうな顔やった。


「僕の妹です」

「かわいいなあ」

「えへへへ」


 皿にメロンを切って持ってきてくれた。


「食べてください。これはサービスです」


 少年ヤシーンが言うと、妹さんが僕達に振る舞ってくれた。下を向いていたので顔はよく見えない。

 暑くて喉が渇いていたので二切れずつ頂いた。よく冷えてるし、甘くてジューシーや。


「妹さんは何歳ですか」


 妹さんに聞いてみたけど下を向いて黙ったまま。日本語が分からんかったかな。


「14歳ですよ」

「むっちゃかわいいなあ。美人になるで」


 と多賀先輩が言うとパッと顔を上げた。少し不安そうな顔をしてる。僕と目が合うとすぐに家の中に入ってしまった。あとひと切れ食べたかったし、もう少し妹さんの顔眺めてみたかった。それぐらい綺麗やと思う。


 妹さんもそうやけどバザールに居ったおばさんも彫りが深くてヨーロッパ系の雰囲気がある。もうここはモンゴロイドが多い東アジアでは無い。中央アジアや。そう実感した。

 そういえば少年ヤシーンも彫りが深くてイケメンやね。


「お待たせしました。それじゃあ行きましょうか」

「メロン、ごちそうさんでした」

「いえいえ。お父さんと作っているのでいっぱいあります」


 そう言うて再びロバ車を走らせる。さっきより気持ち早くなったようや。

 さっきの妹さんのことを考えていた。めっちゃ可愛いねんけど、14歳やったら中学生やんな。学校は行ってないんやろかと心配してしもた。


「妹さんは学校に行ってへんのか?」

「行ってますよ」

「ほな、なんで家におったん」

「もう学校は終わってます。午前中だけです」

「なるほどね」


 僕が思うに学校は午前中で昼からは働くんやろと思た。そういえばさっきすれ違ったロバ車の少年達も、荷物を運んでた。子供でも一所懸命働くんや。そういう所やねんなと理解した。


「カナートはまだか」


 多賀先輩は暑さにかなり参ってる。寒さには強いのになぁ。

 暑さを紛らわす為か、多賀先輩はロバの鳴き声を真似してた。たまに多賀先輩の鳴き真似に呼応して、ホンマのロバが鳴いてた。通じたんやろか?


「もう少しです」

「むっちゃ暑いなあ」

「カナートは涼しいので、気持ちいいですよ」


 ほんまに暑くてたまらん。


 少年ヤシーンは家から5分ぐらい行った所でロバ車を止める。

 ちょっとした空き地の隅の方へ行くと、そこに大きな穴があって3メートルほど階段を降りる。そこには水が流れてた。


 長いトンネルの奥からは、水と一緒に冷たい空気も流れてきてめっちゃ気持ち良かった。

 水は透明で澄んでいる。水の中に手を入れてみると、めちゃくちゃ冷たくて10秒ほどで痛くなる。

 天山(ティェンシャン)山脈(シャンマイ)から流れてきた雪解け水やろか。多賀先輩は裸足で水に突っ込んでたけど、20秒もせんうちに「痛い」と言うて足を上げてた。


「冷とうて気持ちええな。ちょっと休んで行こか」

「ほんま涼しいですわ。昼寝でもしたいわ」


 僕らはカナートの中で横になる。天然のクーラーや。

 ウトウトしかけてたら、近所のおじさんやろか、水を汲みに来た。ウイグル語で何か言われたけど分からん。その代わりに少年ヤシーンが話した。

 おばさんもやって来て、冷やしてあったスイカを持って行った。少年ヤシーンはそのおばちゃんとも会話を交わした。生活と密着してるなぁと実感した。


「今の人ら、お前の知り合いか」

「近所の人です」

「何て言うてたんやん」

「こんなところに観光客を連れてきたら邪魔やと言われました」


 確かに、ここは狭い。


「あはは。ここには観光客は来うへんのか」

「はい、ここは観光客用ではありませんから」

「お前の家の近くやから連れてきたんやろ」

「えへへへ」

「ということはやで。ここって観光用のカナートと違ごてほんまもんの生活用のカナートって事ですやん」


 ただトンネルがあって水が流れてて、洗い場のような淵がちょこっとあるだけで何の飾りもない。旅館で見た観光ポスターのカナートとはえらい違いやと思てた。


「なるほど。どうりで何も無いと思ったわ。せやけど観光地化されてないホンマもんが見れて良かったなぁ」

「そうですね。少しだけここの生活に触れる事ができて、いいっすね」


 そう言いながら水の流れを見ていた。

 しばらくぼーっとしてたら、逆にだんだん寒くなってくる。それぐらいひんやりとしてた。

 時計を見ると5時を回ってる。


「そろそろ行きますか」

「そうやな。十分涼しなったし、金もかかってるしな」

「少年ヤシーン! そろそろ行くぞー」

「わかりました。えーっと、1時間経ったのでもう1時間のお金をください」

「お前の家も寄ってたし、負けてくれや」

「わかりました、全部で20元でいいです」


 大分負けてくれた。逆にむっちゃ安なっとるやないか。全然観光地じゃないとこばっかり回ったから、ちょっとサービスしてくれたかな。意外とええとこあるなと思てた。


 カナートを出ると、やっぱり強烈に暑い。暑い。暑い!


 帰りにバザールに寄る。高昌市场(ガオチャンシーチャン)(高昌市場)より店の数も品数も圧倒的に多い。喉が渇いてたんでラッシーを飲んだ。買い物はまた明日じっくりとすることにして、シシカバブーだけ食べることにした。


 ここのシシカバブー屋は、石炭で焼いてる。店と言うても、机の上に焼き器と四つ箱があるだけ。屋台でも何でもない。その代わりか、2本で1元と格安や。

 四つ箱の中にそれぞれ違った香辛料が入っる。黄色いの、赤いの、白黒したやつ、緑のもの。その中から香辛料を自分で選んでつけて食べろと言われた。

 僕は唐辛子の入ってる赤いやつと、白黒の岩塩が入っているやつと2種類食べた。北京で食べたパクくんの店のシシカバブーとまた違って美味しかった。赤いのはピリっと辛くパンチがある。岩塩は肉の甘味を引き出してた。

 肉は固かったけど、香辛料とベストマッチングで噛めば噛むほど味が染みでできた。これが本場のシシカバブーかと感激した。めっちゃ美味い。


 食べ終わると、少年ヤシーンに旅館まで送ってもらう。


「また明日も観光しますか」

「そやな。また行くわ」

「明日も来るか」

「明日も乗ってください」

「ほな、また明日な」

「さようなら」

「さいなら」


 少年ヤシーンと明日の約束をして別れた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 異国情緒が伝えにくくて苦戦してます。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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