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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【中国】北京→吐鲁番(トルファン)
41/296

41帖 4日間の友よ、永遠に

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す


 おっと! 笑い声で目が覚めた。多賀先輩も戻ってきて、3人でワイワイ喋ってる。

 うとうとしてたわ。


北野(ベイイェ)さん、おはようございます」

「油断して寝てましたわ」

「さっきまで、多賀(ドゥォフゥァ)さんの彼女の話で楽しんでいました」

「そーなん。それは僕も聞きたかったなー」

「教授、あの話は絶対に秘密やからな」

「へへへへへ。わかりました秘密にしておきます」

「そんなにすごかったん」

「はい、それはすごい話でした」


 今日は最後の日やから夜通し喋るって言うてたのに、いつのまにか寝てて重大な話を聞き逃してしもた。

 残念やったなあと思いながら時計に目をやると、今まさに日付が変わった。


 5月30日、木曜日。午前0時。

 列車は徐々にスピードを落とし、真夜中の哈密(ハーミー)に到着する。


「それでは私はここで降りますので」

「そうか、(ファン)さんはここで降りるんや」

「へー、こんな夜中やのに大丈夫なん」

「はい、ここから2時間ほど歩いたら家に着きます」

「大変やね。気をつけて帰ってね」

「樊さん、写真送るからね。楽しみにしててね」

「はい、よろしくお願いします。お弁当ありがとうございました。楽しい旅でした」

「こちらこそ。色々話し聞かせて貰ってありがとう」

「じゃあ樊さん、元気でね」

「はい、さようなら」

再见(ツァイジェン)

再见(ツァイジェン)!」


 樊さんは列車を降り、手を振りながらホームを歩いて行った。

 多分、二度と会うことはないやろう。ほんの数時間やったけど、樊さんと出会えた事は一生忘れんよ。楽しかったで、樊さん!

 窓から手を振ってたけど、樊さんはすぐに闇に消えてった。


 窓の外の空気はとても冷たい。砂漠の夜は寒いわ。



 列車はまた闇の中を静かに動き出した。残った3人でなんとなく顔を見合わせてた。


「毎日毎日、三日間もよう喋りましたね」

「そうやなあ。ほんまによう喋ったな。僕らはもう親友やで。真の朋友(ポンヨウ)やで」

「そうですね、朋友です。あなたたちのことは絶対に忘れません」

「僕も! ほんなら、僕が日本に帰ったら教授に手紙を書きますわ」

「私も書きますよ」

「よっしゃ文通しよか」

「多賀先輩、英語で書かなあきませんよ」

「わかってるわ。俺かて手紙ぐらい書けるわ」

「そしたら、教授があの彼女と結婚したら新婚旅行で日本に来てくださいよ」

「そうですね、日本に行けるといいですね」

「是非来てください。案内しますよ」

「京都とか広島とか行ってみたいですね」

「僕は京都に住んでるんで、いつでも案内しますよ。ただし日本に帰ってきてからね」

「その時は是非お願いします」

「俺は滋賀県を案内するで」

「滋賀県って何処ですか?」

「京都の隣や。ええとこやで」

「是非、お願いします」


 中国人に滋賀って、どこ案内するんやろ? まあええわ。


 その後は、これから旅をする上で注意しなあかん事を細々と教授がアドバイスしてくれた。ガイドブックに載ってないような細かい事で、常に助かるなぁと思た。


 それから、とりとめもない事をうだうだと話してたけど、知らん間に教授も多賀先輩も寝てしもてる。


 僕は一人、窓から外を眺めてる。途中、何度か駅に停車したが乗り降りする人は無かった。

 まだ辺りは真っ暗なままやった。



 列車が駅に停車して目が覚めた。僕もいつの間にか寝てたみたい。

 5時26分、鄯善(シャンシャン)に到着。多賀先輩と教授は寝たままや。

 窓の外はまだ闇に包まれている。そやけど月明かりやろか、ほんの少し景色が見える。

 南側は荒涼とした大地に建物が少しある程度で、もちろん人は居ない。北側には山が間近に迫ってる。山と言うても日本の山とは全然違ごて草木は一本もない。

 ここ鄯善といえば「さまよえる湖」ロプノールの北東岸に当たる場所やけど、当然湖なんかは見えるはずもない。頭の中で昔の湖の風景を想像してみるものの、なかなかイメージできんかった。


 列車はゆっくりと動き出す。ここからは斜面を登ってるんか、全然スピードが出ない。歩いた方が早いんと違うかと思うぐらいゆっくりと進んでる。

 下りになると急にスピードが出るけど、しばらくするとまた登りなんで非常に遅くなる。そんな事を繰り返して列車は進む。


 東の空が徐々に青くなってきた。そろそろ夜が明けるみたいや。



 7時55分、吐鲁番(トゥールーファン)(トルファン)に到着。

 教授に再会を誓ってお別れをした。

 中国人の旅人(ワン)さん、そして乘务员(チォンウーユェン)(フゥァン)さんにもお別れを言うて僕らは列車を降りた。


「教授元気でね。また会いましょう」

「ありがとうな。そしたらまたどっかで!」

「手紙を待っていますよー」

「必ず書きます。必ず日本に来てやー」

祝你(ヂュニー)一路平安(イールーピンアン)!(旅が無事でありますように)」

「Good bye! さよなら」

「さいなら」

再见(ツァイジェン)


 別れを惜しむかの様に、この砂漠に空から冷たい雨が降ってきた。


 列車はプラットホームを離れてった。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 やっとトルファンに着きました。さて、どうやって砂漠を越えるのでしょうか。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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