40帖 彼女のはなし
今は昔、広く異国のことを知らぬ男、異国の地を旅す
6時53分、柳园(柳園)に到着する。
ここからバスに乗り換えて南へ行くと敦煌に行ける。
シルクロードの中継点、東西の文化の交差点や。そんな雰囲気を是非味わってみたいし、千佛洞(莫高窟)も見てみたいところやけど、今の僕には不可能です。残念。
そんなこと思いながら外を見てたけど、もう7時やのに外が異様に明るいのに気がつく。
「それは時差です。列車などの公共のものは全て北京時間で統一されてます。それでは困るので乌鲁木齐(ウルムチ)では2時間ほど時間を遅らせて暮らしています」
と教授が教えてくれた。
「そしたらややこしくないですか」
「そうですね。たまに間違えることもあるけど、問題なのは列車やバスの時間ぐらいですから大丈夫です」
ほほー。東西に長い国はこんなこともあって大変やな。今後、時間は北京時間なんか現地時間なんか確認せんとあかんと思た。
「そしたら僕の時計はどないしたらええですかね」
「列車を降りるまではそのままでいいと思います。それで、街へ行ったら時計がありますから、それに合わせれば大丈夫です」
なるほどな。
列車は柳园を出発。それやのに多賀先輩は戻ってけーへんので心配してた。もしかして柳园で置いてきたかなと思てしもた。
しかし残念ながら(?)多賀先輩はすぐに現れた。
「多賀先輩、どうしたんですか」
「あんな、向こうにおもろい中国人が居るしちょっと喋ってくるわ」
と言うてギターを持って行ってしもた。
おもろい中国人って何やろうと思て僕も行ってみることに。
隣の車両のボックス席を覗いてみると若い人民と多賀先輩が親しげに喋ってる。
「Hello! Nice to meet you!」
えらい陽気なヤツや。樊さんとは全く正反対。色白で金持ってそうで、おしゃれな服を着てて、見た目は金持ちのボンボンみたいな感じやった。
その青年人民は王さんと言い、多賀先輩と同じ28歳。やっぱり多賀先輩と同じように仕事を辞めて中国の各地を旅行してるとのこと。ゆくゆくは外国を旅行をするつもりやと言うてた。
多賀先輩とは息が合うのか何やら打ち合わせをした後、王さんは銀色のハーモニカで、多賀先輩もギターを弾いてセッションを始めた。何の曲か全くわからんかったけど二人は大いに盛り上がってたし、周りの乗客も結構ノリノリやった。
しばらく二人の様子を見て、僕は自分の席に戻る。
「多賀さんはどうでしたか」
「王と言う人とハーモニカとギターで演奏してたわ」
「面白い人ですね」
「うーん。しばらく帰ってこーへんやろうから、三人で何か喋ろか」
「そうですね。明日はもうお別れやから、今晩はじっくり語り合いましょう」
「その前に、お腹が空いたし晩御飯食べよか」
車内販売で回ってきたおばちゃんからお弁当を買うた。教授も買うたけど、樊さんは買わんかった。
「樊さんは食べへんの」
「あー、私はお金がもったいないので我慢します」
「そう言わんと、もうすぐお別れなんやから一緒に食べよ」
と言うて、僕はおばあちゃんのとこに行ってもう一つお弁当を買うてきた。
それを樊さんに渡すと喜んで食べてくれた。
お弁当を食べてたら、北京站の事を思い出した。それで教授に聞いてみる。
「そういえば北京站に居た女の子は誰なん」
教授は恥ずかしそうに喋り始める。
「あれは……、僕の彼女です」
「やっぱりそうやったんか。北京に彼女を置いてきたんか」
「はい。彼女は今、北京の大学で勉強をしています。哲学の専攻です」
「ほほう。どこで知り合うたん?」
「彼女とは西安大学の研修会で知り合いました」
「へー、そうなんや。彼女は何歳なん?」
「二十歳です」
「おお、いいねー。それに結構可愛かったよねー」
「そうですよね。ありがとうございます。へへへへ。僕もとっても気に入っています。でも彼女は北京で、僕は乌鲁木齐に居るのでめったに会えません」
「それは残念やなあ。寂しいやろ」
「まあ。ひと月に1回ぐらいは会えるので……。後は電話です」
「ほんなら北京に行った時は、彼女とイチャイチャするの」
教授は急にニヤニヤして涎を垂らしながら喋った。黙って弁当を食べていた樊さんもニヤニヤ笑ろてた。
「いやその辺は……ガールフレンドですから。へへへへへへ」
「そうか、ええなー」
「へへへへへへ」
涎が止まってへんぞ。飯粒を飛ばすな!
「そしたら彼女と結婚するんか」
「そうですね。彼女が大学を卒業したら結婚することにしています」
「おお、それはおめでとう」
「ありがとうございます」
「ところで。樊さんは結婚してるん?」
「結婚はしていません」
「彼女は居るんか?」
「私の村には若い女子は居ません。一番若い女の人で34歳です。だから僕には彼女は居ませんよ」
「そうか、早く彼女を見つけられたらいいね」
「僕が知ってる限りでは、農村部では独身の男性が多いです。これも一人っ子政策の影響なんですよ」
「なるほど、難しいなぁ中国は」
また中国の現状を知ることになってしもた。
教授に詳しく聞くと、農村では働き手の男の子が生まれてくる事を望むそうや。戸籍には子どもを一人しか登録せえへんらしい。そうせんとお金の面で優遇されないらしい。もし貧しい家で女の子が生まれたら、戸籍に入れなかったり養子に出したり、最悪は売りに出したりするそうや。
いくら人口抑制政策とはいえ、なんかとても悲しくなってきた。
それで女子が少なくなってるから、独身男性が多いとか。
なるほどなぁと思て樊さんを見てたら、今度は彼が質問してきた。
「あなたは祖国に彼女はいるんですか?」
「私もそれは聞きたいですね。へへ、へへ」
女の子の話になると教授の顔はにやけて、涎が垂れてくる。
「いますよ。日本で待ってくれています」
「可愛いですか」
「めっちゃ可愛いですよ」
「プロポーションは……いいですか?」
何を聞いてくるんや。教授はスケベやな。ほんなら教授が羨ましがる様にちょっと盛ったろ。
「もうそれはそれは。おっぱいは大きいし、腰はくびれて、お尻もプリプリよー」
「それはいいねー。羨ましいねー。へへへ。じゃあ、北野さんはいつも彼女を喜ばせてあげたのですね。へへへへへへ」
そんな事はしてへん……けど。教授は勝手に想像をして盛り上がっている。ホンマにスケベな顔してるわ。逆に樊さんは少し照れてた。
「そうやけど多賀先輩はもっとすごいで。あの人は……、僕が知ってるだけで彼女が9人も居るで」
「ええ、そうなんですか。なんと羨ましい。ドゥォフゥァさんが戻ってきたらじっくり聞いてみましょう。へへ、へへへ」
僕もじっくり聞いてみたいね。会ったことあるのは二人だけやし。
その後も中国と日本の「女の子」の特徴や違いを話して盛り上がった。
窓から入ってくる風が少し涼しくなってきた。
列車は9時20分に尾亚(尾亜)に到着する。ここからは新疆维吾尔自治区(新疆維吾爾自治区)になる。
ということは、いよいよ塔克拉玛干沙漠(タクラマカン砂漠)に足を踏み入れる事に。
ただ、外は真っ暗なんで何も見えません。
つづく
続きを読んで下さって、ありがとうございました。
次回は、オアシスの街、トルファンに降り立ちます。
もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。
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