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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【中国】北京→吐鲁番(トルファン)
37/296

37帖 ホームシック

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す


 5月28日、火曜日。朝の5時38分。

 列車が止まって目が覚める。北京から1206キロ走って西安(シーアン)に到着。列車は河南(フェァナン)省から陕西(シャンシー)省(陝西省)に入ってた。


 周りを見るとまだみんな寝てたんで、そーっとホームに降りる。

 外は結構寒く気温は15度を下回ってる。朝靄の中、駅舎のすぐ南に巨大な構造物が見えた。古の都、長安の城壁や。どこまで続いてるんやろう? 西の方は霞んで見えへん。町一個分を城壁で囲んでるんやから相当でかいわな。


 西安つまり昔の长安チャンアン(長安)といえば、昔から日本人が来てはる所や。阿倍仲麻呂とか空海とかなら授業でも習って知ってる。ちなみに西安市は奈良市や京都市の姉妹都市である。

 また秦の始皇帝と楊貴妃の逸話も有名な場所。そんなことより僕にとって重要なのは、小学生の頃にTVの特集で見て憧れた「丝绸之路(スーチョウヂールー)(シルクロード)」の出発点であること。だからここからが僕の本来の旅のスタート地点なんです。


 あと付け加えておくなら、やはり大雁塔の存在。もとは唐の第三代皇帝高宗の母を供養するために建てた仏教寺院やけど、なんと言っても尊敬する元祖バックパッカーの玄奘(シュェンザン)(三蔵法師)が印度(インド)から持ち帰った教典を翻訳をした場所や。因みに僕は敬虔で信心深い仏教徒です。

 その他にも見所のある都市やけど、残念ながらやっぱり見て回ることはできへん。また来ることが有ったら是非見てみたい。


 いずれにせよ「この西安の地に立ったことには変わりない」と思とくことにした。


 間もなく出発しそうやったんで急いで列車に戻る。

 ほんの10分程度やったけど、命懸けでこの地へやってきた日本人、そしてここから遠い異国へ旅立った僧侶の思いをなんとなく感じることができた。そんな気がした朝やった。


 席に戻ってみると、みんな眠たそうな顔で座ってる。

 早速、多賀先輩に昨日のアタックの結果を聞いてみた。


 結果は簡単に言うと「あなたに興味はない」とのこと。思わずみんなで笑い転げた。でも多賀先輩はちょっと真面目な顔やった。「すんません、多賀先輩」と思たけど、笑いは止まらんかった。

 それでも話自体は結構できたみたいで、名前は(フゥァン)さん。多賀先輩より一コ下の27歳。好きな色は青。自宅は北京らしい。それ以外にも色々と話をしたらしいが、決定的やったんは北京に旦那さんが居るということ。つまり既婚者やったということでした。


「もうこの話は終わり!」


 あんだけ頑張ってたのに、残念でした。ということで多賀先輩はそっとしておくことにした。その後は誰も喋らんかったけど、教授からも公安の奥さんからもクスクスと笑い声は漏れてた。


 僕は昨日満足に寝れてないんで、座席の下で眠らせてもろた。みんなは気分転換に多賀先輩が持ってきたトランプで遊んでる。

 僕は列車の揺れが心地よく、すぐに寝付けた。



 2時間程で列車が停車して目が覚める。

 宝鸡(バオジー)(宝鶏)に8時9分到着。ここでは20分ほど停車するらしいので、多賀先輩とホームに降りてみる。

 例によって移動式の屋台がいっぱい並んでる。僕は包子(パオズ)を買うて食べながら周りの景色を堪能した。

 北の高台には立派なお堂が見える。南に大きな山脈があり、西にも山があった。今まで平地ばっかりやったんで少し新鮮な景色に思える。


 この街も歴史的には大変重要なところで、歴史の時間にも習ったあの「黄河文明」の発祥の地らしい。

 宝鶏はまたの名を陳倉(チェンツァン)と言い、三国志やゲームに出てくる重要な拠点のひとつ。ここの近くには司马懿(スーマーイー)(司馬懿仲達)と诸葛亮(ヂュグェァリィァン)(諸葛亮孔明)が命をかけて戦った五丈原という場所がある。「死せる孔明、生ける仲達を走らす」という有名な言葉はご存知であろう。今でも「诸葛亮」と言えば、知恵のある人、機知に富んだ人を指す言葉らしい。

 まぁこの旅では見ることはできなくて残念極まりない。


 その代わりと言うてはなんやけど、ディーゼル機関車の交換を見ることができた。この先の天水(ティェンシュイ)から鉄道の管理局が西安(シーアン)局から兰州(ランチョウ)(蘭州)局に変わり、ここからはどんどん標高を上げて行くんで機関車も重連運転で客車を引っ張ることになる。僕は思いっきり撮り鉄モードで写真を撮ってたけど、僕以外は誰も見てなかった。


 8時32分、列車は再び動き出した。暫くはみんなでトランプをして遊んでた。



 天水(ティェンシュイ)に11時39分に到着した。ここからは陕西(シャンシー)省(陝西省)や。昼飯の車内販売が始まったんで、また4元のお弁当を買うてみんなで楽しく食べた。


 食べ終えた公安の夫婦が荷物の整理を始めたんでどうしたんやと聞くと、次の次の兰州(ランチョウ)(蘭州)で列車を下りると言う。

 今日まで旦那さんの休暇で、北京に遊びに行った帰りやった。出会った思い出にと、北京で撮った写真を見せて貰ろた。中年のカップルというよりも本当に若いカップルの様な写真やった。記念に「万里の長城」でのツーショット写真を頂いた。


 その後は公安の奥さんも積極的に話に加わってくる。日本では何の仕事をしてたとか、結婚はしてるんかとか、彼女はおらんのかとか、そんな話を延々と聞いてきた。最終的に落ち着くところは、僕の顔は中国人女性にモテるタイプの顔で、とてもイケメンに見えると言う事。公安の奥さんにも大変気に入られてしもた。



 2時22分に陇西(ロンシー)(隴西)に到着した。たった13分の停車時間やったけど、たくさんの物売りが乗り込んでくる。多かったのは果物売り。瓜とスモモを買ってみんなで食べた。

 列車は勾配がきついのか時速60キロぐらいのゆっくりとしたスピードで走ってた。



 それでも5時57分の定刻通り兰州(ランチョウ)に到着した。

 公安の夫婦にはハグをしてお別れをする。


 兰州では乗ってくる人はおらず、6人掛けのボックスは僕と多賀先輩と教授の3人だけになってしまう。

 さっきまで賑やかに盛り上がってたのに、人数が減って急に寂しい感じになってしもた。


 兰州を出ると車窓の雰囲気も変わってきた。

 ここからは兰新线(ランシンシィェン)(蘭新線)を走ることになるが、窓の外にはステップ気候の特徴である背丈の低い草原が延々と広がってる。海抜1600メートルを表す標識もあった。


 陽が沈むと急に気温が下がってきて、窓を開けてると寒く感じる。

 またこの列車は特急であるにも係わらず、ほぼ各駅停車で運行してた。

 駅に止まったけど誰か乗ってくる気配はないし降りる人もおらんかった。

 ここが駅なんかどうなんか分からんような周りに全く明かりも人気もないような所にも止まったりする。


 人も少なくなったことも関係するけど、今夜の車内は静かで物悲しいの雰囲気やった。

 晩飯もまた4元の弁当を食べたけど、誰も一言も喋らんかった。

 そやし今日は早々に寝ることにした。


 列車は1時間ないし2時間おきに駅で停車するんで、床で寝ていた僕はそのたんびに目が覚めてぐっすりとは眠れんかった。


 そのせいか頭がぼーっとしてる。眠いのに寝られん。


 寝付けんでも目を瞑ってた。そうすると色んな思いが勝手に頭を駆け巡る。

 ちゃんと目的があるにも係わらず、なんでこんな所にいるんやろう、なんでこんな所を旅しているんやろう、という疑問が自分の中に湧いてくる。孤独感に(さいな)まれることもあった。

 軽いホームシックやろか? いろいろ理由を付けてみたり、目的を再確認してみたけど言い訳にしか思えず、余計に落ち込んでしもた。

 なんか家に帰りたいわ。


 そやけどいろいろ考えてる内にいつの間にか寝てしもてたみたい。

 日本を出て15日経ってた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 会話無しで書いてみましたが、ダメですかね?


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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