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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】アルビル
288/296

288帖 市井の人々

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

挿絵(By みてみん)


 手続きが終わった事で肩の荷が降りたのか気持ちが楽になったわ。ミライの顔を覗き込むと、ニターっとした顔で嬉しがってる。


 自治政府の建物から出ると、外は思った以上に明るくて、眩しい。そして暑い。家路に急ぐ人で道路も歩道も、来た時よりは少し混雑してる。相変わらず救急車のサイレンは鳴り響いてた。


「さー、そしたら買い物に行こかぁ」

「えっ?」

「ミライの服やんか」

「あっ、そうそう。忘れてたよー」


 おいおい!


 苦笑いをしてるミライ。


 それ! その、ちょっとおとぼけた表情もめっちゃええねんけど。


 身なりには意外と無頓着なんかなぁ。それともパスポートの件が片付いたし、気が抜けてんのかな? そんなとこも素朴で魅力的に思えてしまう僕ですが、やっぱり綺麗で可愛らしい服を着て欲しい。そう思て僕は街の中心へ向かって歩き出す。


「ショッピングモールとかあるかなぁ」

「街の中心へ行けば、確かバザールがあったと思うの。昔の事だけど」

「まぁ適当に歩いて探そう。ホテルも確保出来たし、時間もたっぷりあるし」

「そうね、暫くアルビルでゆっくりしましょう」

「そうやな。その為に可愛い服を買おなぁ」

「うん! ありがとう、おにちゃん」


 笑顔が溢れて零れ落ちそうや。黄色い服を着てるんもあるけど、煌めく太陽に照らされたその笑顔は、まるでヒマワリの様やった。


 そやけど僕の頭の隅っこには引っ掛かてる事がある。早くSarsank(サルサンク)へ連絡を入れなあかんと言う事。それがずっと気になってたけど、ミライの笑顔を見て僕は、それを暫し忘れる事にする。


 その満面の笑みをもう暫く見てたい……。


 という本音です。


 Kirkuk(キルクーク)通りを北へ歩いて行くと、脇の路地にバザールを見つけた。

 表通りより人は多く、地元の人の御用達って感じのバザール。やっぱりおばちゃんがいっぱい。買い物を手伝うおっちゃんや子どもを引き連れて歩いてる。

 その路地を進んでみて分かったんやけど、売ってるもんは食品や日用品が主で、衣服や装飾品は売ってなさそうやった。

 そやけど野菜や果物、肉類は種類も在庫も豊富で、庶民の台所って感じかな。夕飯の材料の買い出しやろ、大勢の人でごった返してる。


 Arbil(アルビル)の郊外では多分、今も戦闘が行われてるはずやけど、市井では日常生活の風景が流れてて僕は少しホッと出来た。そやし戦争をしてる国に居るんやって事を、思わず忘れてしまいそうになったわ。


 一通りバザールを見てからキルクーク通りへ戻り、更に北へ進む。すると、通りの向こう側にデパートの様な建物か見えてくる。比較的新しく、ショーウィンドウの中は綺羅びやかに見える。


「ミライ。あそこへ行ってみいひんか?」

「うん。大きなショッピングモールだねー」


 初めて見たんやろか、ミライの目が輝いてる。僕はミライの手を引き、大通りを横断した。


 ショッピングモールの外見は、伝統的なアラビア風の造り。そやけど、ちゃんとした鉄筋コンクリートで出来てる。つい最近に出来たみたいで、ミライの記憶にも無いらしい。僕らはガラスの扉を開け、中へ入ってみた。


 入ったところはスポーツ用品のショップで、サッカーボールやシューズ、ユニホーム等が売られてた。

 通路を進むと、ショッピングを楽しんでる、少しお金持ちっぽい家族連れやカップルとすれ違う。

 服装は殆どの人が洋服で、ちょっとばかりおしゃれな様な気がする。ただ女の人はヒジャブ(頭から被る布)を付けてる人が多い。Kurdish(クルディッシュ)(クルド人)の伝統的な服装をしてる東洋人の僕が、逆に浮いてしもてる様な感じを受けたわ。


 建物は、日本のショッピングセンターと同じ様な造り。通路の両脇にはいろんなショップが並んでて、2階までの吹き抜けや。

 中庭には緑地や花壇、池があり、それを囲む様に建物が並んでた。ほんまに戦争をしてる国やろかと思う程、落ち着いた雰囲気。

 そやけど、その割にお客の数は多くは無い。どちらかと言うと、さっきのバザールに比べ、閑散としてる気もする。何か空気感が違う。


 通路を進むと、レストラン街へ入る。どこも高級そうな佇まい。やっぱり客は余り入って無さそうで、中には閉まってる店もあったわ。

 その中で目に入ったんがチャイニーズレストラン。


 流石は華人。ここにも店を出してるかぁー。


 ほんでも、そんな店を見つけてしまうと、久々に中華料理を食べたくなってしまう。


「ミライ。晩ごはんはこの店で食べへんか?」

「へー。ここは日本のレストランなの?」

「いや、中国のレストランや。美味しいで」

「うん、いいよ。私、食べた事ないから楽しみだよ」

「よっしゃ。ほな、早よ服を買おか」

「うん!」


 ミライには、飯より服の方が重要みたい。


 レストラン街の先には家具屋やキラキラと光る金物屋に、水タバコに使う機器を扱ってる専門店等がある。その奥に雑貨屋とか靴屋、鞄屋が並ぶ。ほんで、その先に宝飾品店や装飾品店があり、お目当ての服屋があった。ミライの目はより一層輝き出し、急いで店の中へ入って行く。


 初めに入った店は女性専門の洋装店って感じで、ちょっとしたブティックの様な雰囲気や。Tシャツからワンピースにドレスっぽいものまで売ってる。店員も普通に洋服を着てて、目を白黒してるミライの相手をしてくれてる。僕は僕でミライに似合いそうな服を探す。

 全体的にヨーロピアンな少し大人っぽい服が多かったけど、奥の方にはカジュアルな服も少しやけど飾ってある。


 おお、ジーンズまで置いてあるやん! うーん、ミライに似合いそうなんは……、シャツはこんなんがええんちゃうかな? スカートは……、ちょっとタイトやけど、これがええなぁ。こっちのふわっとしたのも、アイドルっぽくって可愛いかも……。


 等と想像しながら僕なりに目利きをしてたら、ミライが店員と一緒に近付いて来た。


「ミライ。これなんかどうかなぁ? ミライに似合うと思うで」

「どれどれ?」

「ほら、このシャツとスカートの組み合わせはどう?」


 と、僕好みの服を取ってミライに見せてみた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 戦闘が続いてますが、街中は普段通りの市民生活が営まれてます。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。

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