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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】スレイマニヤ
259/296

259帖 野ばら

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

「ワーォ。ワー。キャーハッ!」


 手足をバタバタさせてる割に顔は喜んでる。ミライをそっとベッドの上へ降ろし、僕も傍で横になり肘を付いてミライの顔を眺めた。


 澄んだ瞳を輝かせニコニコと微笑んでる。風呂上がりのせいか唇は血色が良く、採れたてのサクランボみたいに潤ってる。


 僕はそっと顔を近づけるとミライの方からキスをしてくる。柔らかくしっとりとして、僕の唇に吸い付いてくる。僕はまた頬から首そして順に下の方へとキスをしよと思てたら、ミライが飛び起きた。


「ねー、お願いがあるの」


 と言い残して布団から出ると、またバスルームの方へと入って行く。なんかゴソゴソしてるし僕も行ってみると、化粧瓶の様な容器を開けてみては中の匂いを嗅いでる。


「どないしたんや」

「えーと、あれよ。あれ」


 と言いながら何かを探してる様や。


「ああ、これこれ!」


 と嬉しそうに僕に見せたんは飴色の瓶で、外国製なんやろ、クルド語やペルシャ文字の表記は無い。しかも英語でも無い。

 よく見ると、「ä」や「ö」や「ü」などのウムラウト記号があるしドイツ語や。蓋を取ってみると甘い花の香りがする。


「これを身体中に付けて欲しいの」


 そんな事を要求するやなんて、なんと大胆な。


「僕が塗ってええのか」

「ええ、お願い」

「わ、分かった。ほんならベッドへ行こう」

「うん」


 ベッドへ小走りに行って飛び乗り、バスローブをドバっと脱いで仰向けで横になるミライ。

 風呂場の薄暗い灯りではなく、眩しい程の部屋の照明の下では、それを目の当たりにするんは流石に罪の意識が湧いてきた僕は、目を逸らしながら、


「まずは俯せになって」


 と言う。


「うん、分かったよ。おにちゃん」


 そんな素直な所が少し幼く思えてしまう。僕は変に緊張しながら瓶の蓋を開け、オイルを手に取り、擦り合わせてミライの背中に両手をそっと置く。


「始めるで」

「うん。ありがとう」


 背中から肩、そして腕に滑らせる。花の香りとオイルでしっとりとした肌の感触がなんとも言えんほど麗しい。今にも齧り付いてしまいたいくらいや。

 それを誤魔化す為に僕は一旦オイルの瓶を取って眺める。なんとなく適当にドイツ語を読んでみる。


「これ、『die(ディ) rosen(ローゼン)』って書いたるし、薔薇の花のオイルやね」

「バラ?」

「うん、赤い花。そうやわ、こんな香りしてたわ」

「へー、赤いお花のオイルなのね。一番上のお姉ちゃんがたまにこの香りの香水を付けてたわ」

「そうなんや。それにこれはドイツ製やしなぁ、結構高そうやなぁ」

「えへっ。すごい贅沢ね」

「そやな。ほんならついでに薔薇の歌を歌ったげるわ」

「歌! 歌えるの?」

「ああ、しかもドイツ語やで」

「なぜドイツ語を知ってるの?」

「大学の講義で習ろてん。歌のテストもあったし覚えてるねん……」


 僕は歌を歌いながら、ミライの身体にオイルを塗る。肌を撫でる様に……。


『Sah ein Knab' ein Röslein stehn, Röslein auf der Heiden, war so jung und morgenschön, lief er schnell, es nah zu sehn, sah's mit vielen Freuden. Röslein, Röslein, Röslein rot, Röslein auf der Heiden.』



 途中、発音を忘れた所はバレへんと思て適当に誤魔化しといた。繰り返し歌いながら背中から腰へ、そして小さなお尻から足へオイルを塗ってマッサージをする。

 3回ぐらい歌を繰り返すと、なんとミライもドイツ語で歌い始める。


「えっ! ミライはドイツ語も話せるんか?」


 グッと起き上がって仰向けになる。豊かな胸が小刻みに震える。思わず見入ってしもた。

 それをミライは恥ずかしがりもせず普通に僕の質問に答える。


「ええ、少しなら分かるわよ。時々やって来るトルコ人はドイツ語を話すのよ。お父さんはドイツ語も話すわよ」

「す、すごいなぁ」

「えへへっ」


 今度は仰向けで。また「野ばら」を歌いながら、恥ずかしさを誤魔化して薔薇のオイルを塗る。なるべくミライの顔を見て一緒に歌いながら、肩から胸へ優しく手を滑らせる。

 胸はとにかく張りがあって気持ちええ。ミライも気持ちええみたいでうっとりとした表情をしてる。そしてお腹から下腹部へ。更に細くてスラッと伸びた足。太ももはこしょばいみたいで笑いながら()とてた。


「今度はおにちゃんにも塗ってあげるね」

「そ、そうか」


 僕もバスローブを脱いで俯せになる。体中を走るミライの手が気持ちよかった。


「次は上を向いて」


 ちょっと恥ずかしかったけど、気にしてへんフリをして仰向けに寝そべる。胸から丁寧にオイルが塗られていく。めっちゃこしょばかったけど、ミライが歌ってくれる「野ばら」を聴いてたら全身の力が抜けていく。

 薔薇の香りとミライの優しい手の感触で、至極の一時やった。


 足を塗り終わる頃に僕は半分目が閉じかけてたけど、それが一瞬で目が覚めた。

 ミライが僕の上に重なる様に乗ってくる。オイルでしっとりとした肌と肌が密着すると、なんとも言えん気持ちええ感触や。いや、ミライの肌と胸の柔らかさが直に伝わってくるさかい、頭の血管も我慢してた気持ち(理性)も切れそうになる。


 僕は思わずミライを抱擁し、頭にキスをする。それだけではたまらん様になって身体を飜えし軽く布団を被ってから、僕のありったけの気持ちを込めてミライに口吻をする。


 ミライは軽く目を閉じ、僕の全てを受け入れてくれてる様や。僕はそのまま耳元から首へ、そしてどんどん下へ顔をずらす。


 するとミライが話しかけてくる。


「ねーねー。おにちゃんのご両親ってどんな人?」

「ええ、両親かぁ……」


 質問に答えながらも、ミライの身体に吸い付く。


「うん。おにちゃんのお父さんってどんな人なの?」

「えーっとなぁ……、物静かやけど、怒ると恐いなぁ。技師をしてるんや。尊敬はしてる」

「ふーん」

「ハディヤ氏みたいに大らかで優しい感じではないなぁ」

「そっかー。じゃーお母さんは?」


 ちょうど胸にキスをしてる時に母の聞いてくるから、おかんのおっぱいを思い出して恥ずかしなってしもた。


「お、おかんかぁ……。まぁ、優しいなぁ。めっちゃ優しいで。それに編み物の先生をしてるんや」

「へっ……。そう……なのね」


 僕のキスに反応してミライの声が浮つく。


「私の……お母さんも絨毯を編んでるわ」

「そっかぁ。ミライは織れるんか?」

「ええ。今習ってる……ところ」

「うちのおかんは、ニットの服とかを編んでるんや」

「わぁーそうなんだ。素敵ねー。仲良く出来るかしら」

「ええ」


 思わず顔を上げてしもた。


「ほら。日本に連れてってくれるんだったら、ご両親に紹介してくれるんでしょう」

「そ、そやな」


 そんな事を言うもんやから、おヘソの下で止まってしもた。


「何が良いかしらね」

「何がや?」

「お土産よー」

「ああ、そう……やなぁ……」


 僕は考えながら、またキスを続ける。


「う、うん。そこは……」


 まだまだおぼこいかな、ミライは。初めてなんやろう、足に力が入って緊張してる。

 そやし僕は一旦戻って腰から背中に向けて顔を動かす。


「ねぇ……、何が……いいかなぁ」


 ほんまに行く気やな。


「ほしたら、絨毯はどうや。小さいのでええし」

「そ、そう……。もう、くすぐったいよ、おにちゃん」


 そない言うし僕は布団から顔を出して、またミライの唇に吸い付く。ほんまに張りがあって柔らこうて気持ちええ口唇。


 ミライはなんか言うてるみたいやけどモゴモゴして分からんし、口唇を離す。


「何て言うたん?」

「今、作ってる絨毯を早く仕上げるわ」

「そうかぁ……」


 ミライが、野に咲く可憐な一輪の薔薇の様に愛おしく感じてしもた。

 僕は、ほんまのほんまに日本に連れて行ってやりたいと思た。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 ほんの一夜が、長い話になってしまいました。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。

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