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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】サルサンク
243/296

243帖 青天の霹靂、寝耳に水からの

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 なんか言い難くそうなハディヤ氏やけど、やけにニヤニヤしてる。


「そのー、キタノは……、ミライと仲が良いみたいじゃないか」

「はい。仲良くしてますよ」

「だからキタノ……、ミライと結婚してくれないか?」


 へっ!! どこからどうしてそんな話しが持ち上がってるんや。青天の霹靂、寝耳に水とはこの事か。


「え、えっと……」


 ハディヤ氏はどんどん話しを続ける。


「つまりだなぁ……、ミライを嫁さんして、そしてこの家を継いで欲しいのだ」


 いやいや、ハディヤ氏はまだまだ若いやろ。家を継ぐって、そんなに早く隠居してどないすんねん。ってか、ミライを僕の嫁さんにするやなんて、ミライは一体どう思てるんや。


 あかん、頭がパニックになりそう。ここは落ち着いて……。


「家を、継ぐんですか?」

「そうだ。今直ぐって訳ではない。私もまだまだ働けるからな。あははは。それは良いんだが……。ミライの事はどうかね、キタノ」


 どうかねって言われても、そんな結婚なんて考えてもみんかったわ。


「ミライは少し大人しいが、キタノが来てからと言うもの明るく活き活きしてる。キタノはミライの事が嫌いか?」


 確かにええ子やし、好きやけど……。


「ええ、ミライはええ子ですよ。僕も嫌いではありません。一生懸命尽くしてくれるし、可愛いし……」

「それなら問題は無い」


 ハディヤ氏はパンっと手を打つと、少しホッとした顔をしてソファーにもたれ掛ける。

 その時ドアのノック音が聞こえてドアが開くと、ミライが入って来て僕らの前のテーブルにチャイを置いてくれる。


 ミライはハディヤ氏の顔を見た後、やけにニヤニヤして微笑んでる。昨晩にハディヤ氏と話してた事って言うのはこの事やったんか。そやから今日はテンションが少し高かったんかな?


 という事は、ミライは僕との結婚を望んでるん? 僕はミライの「お兄ちゃん」やったはずやで……。


 取り敢えず落ち着こうと思てチャイを一口飲む。なんや味が分からん様になってるわ。

 ミライが部屋から出て行く時に、ハディヤ氏はミライに何か言葉を掛けてる。この話しは任せとけとでも言うてるんやろか?

 ミライはなんか嬉しそうに部屋を出て行った。


 それからもう一口チャイを口に含み、カップをテーブルに置く。それを見計らった様にハディヤ氏は口を開く。


「どうだい。イイ話しだろう」


 これからの旅の事を考えるとなんとも返事が出来へん僕は、考えてる振りをするしか出来んかった。そんな僕を察してか、ハディヤ氏は申し訳なさそうに話し出す。


「まぁ、急にこんな話をして申し訳なかった。返事は旅から帰ってきてからでいいんだ。それからゆっくり考えてくれてもいい。私もミライも、妻もキタノの事は大歓迎だよ。あははは」


 ほんでも、もう結論が出たみたいにリラックスしてるハディヤ氏。僕は愛想笑いをするのが精一杯やった。


 その後は話しが変わり、旅の具体的な計画の話しになる。来週の月曜日に出発して、水曜日に帰ってくる。日程と詳しい行き先はハディヤ氏がハミッドさんと話しをしてくれる様や。

 この旅の話が煮詰まれば煮詰まるほど、僕はハディヤ氏とミライから逃れられん様な気がしてきて、旅の話は上の空でなんか息苦しくなってきたわ。


 話しが終わり、部屋を出る時には僕の世話係にミライを付けてくれたことを一応感謝しといた。

 ハディヤ氏は、


「全て任せておけ」


 とえらい満足そうにしてたわ。



 旅の事もそうなんやけど、ミライとの事も降って湧いてきた話やし、僕は頭が混乱してる。

 少し頭を冷やそうと、ハディヤ氏の書斎を出ると僕はそのまま外へ出る。

 屋敷前のテラスの椅子に座り、夜風に当りながら月夜を眺める。


 どうしたらええんやろ。ミライとの事を断って旅だけ行くのんもなんやしなぁ。

 まぁ、返事は帰って来てからでええとも言うてくれてるし……。ほんでもやっぱり早目に断った方がええんやろか……。


 考えれば考える程頭が混乱してくる。この局面をどう対処してええのんか、どんどん困惑してくる。

 落ち着こうと思て目を瞑るけど、浮かんでくるんはめっちゃニコニコしてるミライの可愛い笑顔やった。


 暫くなんも考えられへんさかいボーッとしてたんやけど、心臓がバクバクしてるんが身体に伝わってくる。


 プハーっ!


 思わず息をするのを忘れてたわ……。

 深呼吸を何度もやって、ほんでタバコに火を点ける。


 フゥーーっ!


 と、思いっきりタバコの煙を吐き出す。風に流されて行く煙を眺めながら自分の行く末を考える。


 このままミライを嫁さんに貰い、この家を継いだら日本には帰れへんのやろか。やっぱり日本にも帰ってみたいしなぁ。

 まぁそれは無いにしても、またここへ戻って来る事にはなるやろなぁ。


 ほんでも、ミライを連れて日本に行ってみるのも面白そう。こことは全然違うし、ミライはめっちゃ驚くやろな。ほんで日本のいろんなとこを旅してミライに見せてやりたい。


 そうや! ハディヤ氏はまだまだ現役で働けるんやし、暫くミライと一緒に日本で暮らしても問題は無いやろう。外国人の嫁さんを連れて帰って来たら、親父や母さんもびっくりするやろなぁ。


 そや、多賀先輩にも会わせてみたいな。びっくりするかな?

 いや、待てよ。多賀先輩の事や! あの人もどっかで綺麗な嫁さんを見つけて日本に連れて帰ってくるかも知れんぞ。そやけど可愛さで言うたらミライは負けへんで。

 綺麗さで言うたらアズラに劣るかも知れんけど、可愛さやったら日本でもアイドルとか女優ぐらいにはなれるもんを持ってる。

 それやったら日本語もちょっとは話せる様にしといた方がええんかなぁ……。


 あかんあかん! ミライを嫁さんに貰う前提で妄想してるわ。


 冷静になれ冷静になれと思て、いろんなパターンをシミュレートするねんけど、やっぱり頭の中はミライの事しか浮かんでけえへんかった。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 なんかとんでもない方向に話は進んでいます。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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