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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】サルサンク
220/296

220帖 操業開始

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

「おおー!」


 ポンプの排出口から水が出る。これはさっきホースに入れた水の分や。そして一旦水が止まり、ボコボコっと音が鳴った後に再び勢いよく水が飛び出だした。


「おおっ。やったー!」

「ワォー!」


 みんな小躍りして喜んでる。そこへハディヤ氏もやって来た。


「ガディエルさん。エンジンを止めて下さい」

「OK」


 エンジンを止めて貰い、ホースとポンプの吸入口から外す。

 ポンプからホースを抜いても水は勢いよく出てる。


 やったー。成功や!


 ホースの先を水槽の中に入れると、無色透明の水がどんどん溜まっていく。試しに10リットル位のバケツに何秒で溜まるかやってみたところ、6秒やった。


「おお、毎分100リットルってとこですね」

「それは凄いぞ。でかしたぞ、キタノ」


 ハディヤ氏しも大喜びや。ハグをして僕を褒めてくれる。


「この方法なら、農地も拡大できそうだな」

「ええ。畑の向こうの東の方にも広げられそうですね」

「そうだな。ガディエル、早速検討してくれ」

「分かりました」

「それにしてもキタノ。大変素晴らしい事をやってくれた」

「おおきにです」

「では、今日はこれでお終いにして夕餉にしよう」

「そしたらお父さん。今日は夕方の勉強はしなくていいの?」


 みたいな事をムハマドが聞いてる。


「ああ。お前たちもよく頑張った。今日は無しでいいぞ」

「やったー!」

「ヤッホー!」

「いぇーい!」


 と、少年達は喜んで屋敷に帰って行く。

 後片付けは、ガディエルさん、マンスルさん、ラヒムさんがやってくれると言うので、お言葉に甘えて僕も屋敷に向かって歩き出す。するとミライが寄ってきて恥ずかしそうに少しハニカミながら一言、


「ありがとう」


 と言うと、駆けて行ってしもた。


 この日も晩飯の時間に旅の話しをする。子ども達がとにかく喜んで聞いてくれる。中々外国に行けないらしいので、僕の話はめっちゃ目を輝かせて楽しんでくれた。


 晩飯を楽しく過ごした後、僕は部屋に戻ってのんびりする。一応明日は、いつも通りにみんなで早起きをして畑や水の様子を見に行こうと言うてたけど、今どうなってるか少し気になってくる。

 見に行こかどうしよかと思てたら、ドアがノックしてミライがチャイを持って入って来る。

 僕はなんとなくミライの態度や行動が気になってたから、


「どうぞ」


 とソファーに座る事を勧めてみる。また直ぐに帰ってしまうかなと思てたら、この時はすんなり座ってくれた。

 落ち着かへんのか癖なんか髪の毛をいじってる。多分くせ毛を気にしてるんやろう、その事がめっちゃ気になってた。


「くせ毛やけど似合ってるよ」


 と言うてみたけど、彼女の返事は、


「私だけなの」


 といい返してくる。


「お姉さんは?」


 と聞くと首を振ってる。


「そしたら、おじいさんかおばあさんはどうやったん?」

「おばあさんは、私と一緒なの」

「ほんなら、おばあさんに似たんやね」


 と言うと下を向いてしまう。

 僕はチャイを飲みながら俯いてるミライを眺めてた。


 確かにミライ以外はみんなストレートヘアや。みんなみたいに長く伸ばして括ってみたいんやろか?


 そう思いながらチャイを飲み、ミライの事を考える。


 いつも口数が少ないのは、そういう髪の毛の事で劣等感でも持ってるんやろか。もしそうなら、自信を持ってもっと明るく過ごせる様にして上げたいと思うようになってくる。


「ミライ。今から水の様子を見に行かへんか?」


 と聞くと、顔を上げてニコっとしてる。そやし僕はリュックからヘッドライトとランタンを出し、ランタンを点けてミライに渡して一緒に屋敷を出る。


 やっぱり砂漠の夜は大分涼しい。明かりも無いし、空気中の水分も少ないから星がめっちゃよう見える。


「星が綺麗やね」


 と言うとミライはコクリと頷いてた。

 星を見ながら水槽のとこまでやって来る。溢れた水が流れてる様やしちゃんと機能してるみたい。溢れた水はユスフとアフメットが掘ってくれた溝に沿って流れ、途中から砂に染み込んで消えてる。明日の朝が楽しみになってきた。


「ほな帰ろか」


 屋敷に向かって歩き始めたけど、ミライの姿が無い。振り返るとまだ水槽の所でランタンを抱えて立ってる。


「ミライ、行こう」


 と言うても動かへん。戻ってミライの顔を見てみると、すっと溢れ出る水槽の水を眺めてる。ずっと見てるとミライはしゃがみ込んだんで、僕も一緒にしゃがみ込む。ミライは少し笑ってる様や。


「どうしたん?」


 と言うてもニヤニヤ笑うだけや。また髪の毛を触ってるし。やっぱり癖なんやろう。


 それを見てたら、不意に立ち上がったミライは屋敷の方へさっと歩いて行く。

 僕も立ち上がり、途中で立ち止まったミライに追いつくと、ミライは僕にランタンを返して屋敷に向かって走って行った。


 一体なんやったんやろう?


 不思議な感覚に見舞われたと思てたら、なんでかドキドキしてきた。



 8月22日の木曜日。日の出前に起きて外へ出てみると、子ども達はみな水槽の回りに集まってる。


「スビハエル(おはよう)」

「スビハエル!」


 今日は、まだ寝てるんかゼフラは来てないみたい。

 そこへガディエルさんとマンスルさんがエンジンポンプとホースを台車に乗せて運んで来る。

 ホースを繋いで水撒きをすると、ポンプで川から水を吸い上げる負荷が減った分、昨日撒いてた範囲より更に遠くへ水が飛んでる。ほぼ畑の全面が水撒きできそうやから子ども達はもう水汲みをせんでもええみたい。


 ほんなら子ども達は何をするんかなと思てたら、ラヒムさんがトラックに乗ってやって来る。そのトラックの荷台からカゴを降ろすと、ラヒムさん、ムスタファ、オルムの指示でみんな一斉に野菜の収穫を始める。


 その様子を見てるとラヒムさんが話し掛けてきた。


「キタノのお陰で子ども達の水汲みが無くなった分、私達の収穫の仕事をやらせる事にしたよ。これで私達の仕事が軽くなったね。ありがとう」

「なるほど」

「その分、今度は畑の拡張作業が増えたけどね。ははは」


 そうは言うてたけど顔は笑ろてる。まぁ僕がした事は良かったんやろう。

 まだ気温も低い清々しい朝やったけど、それ以上になんか気持ちええ感じがしてた。


 そこへハディヤ氏がやってくる。僕の顔みるなり寄ってきたいきなり握手された。


「本当に素晴らしい。ありがとう。ありがとう」

「いえ、大した事では無いですよ」

「そうだ。ちょっとこっちへ来てくれ」


 ハディヤ氏はガディエルさん、マンスルさんも呼んで東へ歩いて行き、畑を抜けた所で立ち止まった。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 無事機能してて安心しました。これで子ども達の負担も減りましたね。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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