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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】サルサンク
217/296

217帖 灌漑方法を考える!?

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 完全に食客扱いの僕は、何かお礼でもせなあかんと思い席を立つ。

 アズラが、


「どこへ行くの?」


 と聞いてきたんで、


「ちょっと泉を見に行ってくる」


 と言うて食堂を出る。


 中庭では男の子とゼフラがサッカーに夢中や。屋敷を出て土手を上がって泉に着く。


 こんなに水が湧いてるのに、なんとか畑に引けへんやろか?


 エンジンポンプで汲んでもええけど水撒きにも使うし、なんか別の方法を考えなあかん。

 問題はこの土手。高さは凡そ2メートル半で畑まで約10メートル。僕は畑と泉を何度も往復しながら考える。


 うーん。トンネルを掘るにはショベルカーが要るなぁ。もっと手軽な方法は……。


 そうか! サイホンの原理や。でもこの高さと距離で出来るかな?


 実家にある水槽や池の水を汲み出した事はあるけどちょっと心配。取り敢えず実験やと思て手頃なホースを探しに屋敷に戻る。

 屋敷の裏の納屋の様な農具が片付けてある倉庫を見つけて探ってみる。入り口を入って直ぐ右手に白い長めのホースの束があった。


 これをちょっと借りよう!


 長いホースを引きずりながら歩いて行くとホースが急に軽くなる。


 あれっ!


 と思て振り返ると、ミライがホースの後ろを運んでくれてた。


「ミライ、ありがとう」


 と言うと少し照れながら頷いてた。

 なんとか土手まで運んで来て、フーっと息を漏らしてるとミライが不思議そうな顔で見てくる。


「ああ、これから泉の水をあっちの畑に流すんよ」


 そう言うても「なんのこっちゃぁ」みたいな顔をしてる。


「まぁやってみたらわかるわ。こっちを泉に入れといて」


 と言うて一方をミライに渡す。もう一方を持って畑に伸ばす。長さは余裕で1つ目の畑の途中まで伸びた。土手からの高低差も3メートル以上あり、これならサイホンの原理で水を引けそうや。


 こちらにやって来たミライに、


「泉の中にホースを入れたか?」


 と聞くと頷く。そしたらこっちのホースの先を、ちょっと汚いけど口に咥えて思いっきり吸う。口で吸うては鼻から息を吐き、それを繰り返す。息を緩めると逆流しそうやったから水は確実に上がって来てる。

 ほんでもある程度まで吸ったら、それ以上は抵抗があって吸えへん。ホッペタが痛くなってきたわ。


 口で吸う方法は無理かぁ。ほんなら……。


 と泉の方へ歩いて行く。ミライも不思議な顔をしてついて来る。


 ホースを引っ張って端から水の中に入れていく。端から水が入っていき、どんどん泉の中にホースを沈める。全部沈めたら、こっちのホースの端っこを折り曲げて水が抜けん様にする。


「ほんなら行くでー。それっ!」


 と折り曲げたホースの先を持って土手を上がり、引きずりながら畑へ急ぐ。引っ張り始めると結構な重さや。ほんでも途中をミライが持って引っ張ってくれるし、なんとか畑まで辿りつけた。


「OK、ミライ、ストップ! こっちへおいで」

 ミライがやって来た。


「見ててやー。ほれー!」


 折り曲げて密封してたホースを伸ばすと、ホースの先から水が流れ始めた。


「わー。凄い!」

「へへへー」


 ホースからどんどん水が流れてくる。


「凄いねー。なんで水が出てくるの?」

「えーっと、サイホンの原理ってやつ」

「何それ?」

「うーんと……」


 困った僕は地面に絵を書いて説明する。


 分かったんかな?


 なるほどーって感じでミライは頷いてた。その間にもどんどんと水は出てくる。

 そやけど、ホースの先から出た水は直ぐに砂漠の砂質土壌に吸い込まれていくんで溝を掘っても流れて行かへん。


 もっとホースを太くして大量の水を長さなあかんのやろか。長くすると負圧でホースが潰れてしまうさかい丈夫なもんやないとあかんなぁ。


 このホースで内径20ミリ位。もっと長くて大きな径の丈夫なホースがあったら沢山流れると思う。


 まぁ取り敢えず実験は成功や。さてこれからどうするか?


 するとミライが提案してくれた。


「これは凄いよ。お父さんに言いましょ」

「そうやね。そしたら、僕はちゃんと図を描いて説明するわ」

「じゃーキタノは絵を描いて。私はお父さんを探してくるわ」


 一旦二人で屋敷に戻る。


 中庭では、まだ少年達がサッカーをしてる。よく見ると、疲れたか早起きで眠たいのか木陰のベンチでゼフラが居眠りをしてる。


「ヘイ、キタノ。一緒にサッカーをしようぜ!」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

「みんな、キタノは凄いのよ。畑に水を引いたわ」


 みたいな事をミライがクルド語で言うてくれた。それを聞いたみんなは、走って畑の方へ走って行った。

 ミライもなんか嬉しそうや。


 僕は部屋に戻り、リュックからクロッキー帳を出して設計図を描いてみる。


 泉と川を配置し、土手と畑を描く。屋敷はここ。

 そうやった……。畑の中央には屋敷までの車道がある。畑の下にも車道があり、その下の低地は田んぼや麦畑。下の車道までは傾斜が付いてるからなんとか流れるやろう。


 そうか!


 中央の車道までホースを引いて、そこに大きな水槽かなんかで水を溜められたら、ここからエンジンポンプで全面に水やりが出来るやないか。届かへん所はバケツでやったらええ。これで大分子ども達の負担は減るはずや。


 これはなかなかええぞ! 後は資材が手に入るかやな。


 そう思てたら窓の外から子ども達が呼んでる声が聞こえてきた。外を覗いて見ると頭から水を被ってビショビショになって喜んでる。


 ああ、ホースで水を掛けてきたんか。


 僕も嬉しくなってしもて外へ出てみた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 なんとかサイホンは使えそうです。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。

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