表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】サルサンク
216/296

216帖 勉強の時間

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 朝食の後、ムスタファとオルムとおじさん3人は再び畑へ行くみたい。残った4人の男の子は居間で寝っ転がったりしてじゃれ合ってる。

 大きい女の子は後片付け、小さい女の子のエシラとゼフラは本を持ってきて読んでる。もちろんゼフラは絵本。

 僕がまだ食堂の椅子に座ってるとゼフラは絵本を持って僕の隣にやって来る。えらい気に入られたみたい。


 ゼフラは絵本を指差しながら、


「ヤーク」


 と言うてる。今度は僕の顔を見て、


「ヤーク」


 と言うてくる。なんやろうと思て絵本を覗いてみると数字の1とアラビア文字が書いてある。数字の読み方を教えてくれてるんかなと思て僕も、


「ヤーク」


 と言うと次にゼフラは、


「ジャポン?」


 と聞いてきた。日本語で何と言うのか聞いてるんやろうと思て、


「いち!」


 と答えると、ゼフラは、


「ヤーク、いち!」


 と言うて次のページをめくる。次は2や。


「ドゥー」

「ドゥー」

「ジャポン?」

「に」

「ドゥー、に!」


 こんな風にゼフラからクルド語を教えて貰い、僕が日本語の読み方を教えながら12までやる。それで絵本はお終い。僕には従姉妹に小さい子が居ったからゼフラの扱いには慣れたもんや。二人で楽しく勉強ができたわ。

 それでも結構疲れたなぁと思てたら、コトっと音がしたんでテーブルを見るとミライがチャイを置いてくれてた。

 なかなか気が利くなぁと思て、


「ありがとう、ミライ」


 と言うと、ススっと台所の方へ行ってしもた。


 なんか避けられてる?


 チャイを飲んでくつろいでいると、突然アズラの声がする。その声でみんな一斉に何処かへ走って行った。

 なんやなんやと思てたら、みんなはカバンを持って戻って来る。

 テーブルに着くとそれぞれカバンの中からノートや教科書らしきものを出して勉強を始める。


 ははぁーん、勉強の時間やな。夏休みの宿題かなぁ?


 6歳のゼフラもちゃっかり僕の横に座って笑顔で勉強し始めた。ゼフラはアラビア文字の書き取りをしてる。アラビア文字は右から書くんやけど、左でペンをもってたゼフラには書きにくそうやった。すると台所からラビアがやってきて、


「右手で書きなさい」


 みたいな事を言うと、ゼフラはハッとしてペンを右手に持ち替えて書き始めた。

 みんな静かに集中してる。


 14歳のムハマドは数学の勉強かな、文字式の計算で悩んどるなぁ。


 立ってムハマドの所に行こうとするとゼフラが「ここへ座れ」とうるさい。えらい気に入られてしもたもんや。

 しかたなくムハマドを僕の隣に呼ぶ。


「これは、これと一緒にして……」


 アドバイスは日本語やったけど、上手いこと通じたみたい。その後はスラスラと解いていく。こんどは8歳のユスフがノートとペンを持ってきた。どうやら丸付けをして欲しいみたい。

 簡単な足し算と引き算やったけど、全部正解。花丸を付けてやったらめっちゃ喜んでた。

 それを見てたゼフラが花丸を書いて欲しいと書き取りのノートとペンを僕の前に置く。大きく花丸を書いてあげるとやっぱり喜んでる。どこの国の子でも嬉しいみたいやね。


 今度は13歳のカレムがノートを持ってくる。昨晩、自己紹介で教師の資格を持ってるて言うたさかいかな。

 そやけどカレムが持ってきたノートはクルド語の作文みたい。


「あー、これは分からんわ」


 と台所の方を見るとミライと目が合う。


「ミライ。ちょっとこれ、見てあげて」


 と呼ぶと、お皿を拭いてる手を止めてやって来る。ほんでカレムに丁寧に教え始めた。

 普段はあんまり喋らへんミライやのに結構話してる。


 なかなか可愛らしい声をしてるんやなぁ。


 なんとか解決したみたいでカレムは自分の席に戻って行く。


「ミライ、ありがとう」


 と言うとまた走って台所に行ってしもた。


 シャイなんかな?


 余所見をしてたら、ゼフラに叩かれる。どうやらもう1ページ書けたみたいで、また花丸を書いて上げると喜んで台所の方へ見せにいった。


 よく見ると男の子の一番年下7歳のアフメットはペンを持ったまま眠ってる。それを見てみんなクスクス笑ろてるけど、朝も早かったし7歳のアフメットにはしんどかったかも知れんさかい、そっとしといてやった。


 向かい側に座ってた12歳のエシラは優等生タイプかな。もう勉強を終えて自分の好きな本を読み始めた。


 その後、何回もノートを持ってくるムハマドとユスフ。ムハマドは数学が苦手みたいで、ユスフは計算が得意。ムハマドはそれでもユスフに負けじと計算のスピードを上げてるみたいや。学年は違うけどお互い切磋琢磨してる様や。


 6歳のゼフラには1時間以上の集中はやっぱり無理なんやろう、


「ヤーク、ドゥー、セー、チュワール、ペーンヂ……、シェシ、……ヘウト、ヘシト……、ノ! デ! ヤーズデ、ドゥ……ワーズデ!」


 もう集中力が切れたんか、また絵本を読み始めてしもた。まぁ、本人は算数の勉強のつもりみたいやけど……。


 それから30分もせん内に、


「勉強時間は終わりですよー」


 とアズラから宣せられると、みんな一斉にダッシュで外へ遊びに行ってしもた。エシラは外で遊ぶよりも本を読んでたいみたい。みんなが遊びに行っても相変わらず読書をしてる。

 暫くするとお姉さん方がチャイを持ってきてテーブルに着く。またミライが僕にもチャイを持ってきてくれた。


「ありがとう」


 と言うとやっぱり下を向いてしもた。

 お姉さん方のお喋りが始まる。

 チャイを頂きながら暫くお姉さん方の話しを聞いてたけどクルド語なんで全く分からへん。それで話が途切れた時に僕から話し掛けてみる。


「みんなは幾つですか?」

「私は19よ。メリエムは18ね。ラビアは17よね」


 と長い髪の毛をたくし上げながらアズラが説明してくれた。


「ミライは幾つ」


 と聞くと、


「16よ」


 恥ずかしそうにボソッと言うてる。髪の毛をいじり、くせ毛なんを気にしてるみたい。


 それからあれこれ聞いて判った事は、アズラはハディヤ氏の紹介で来年結婚するらしい。まだ相手は見たこと無いとか。

 それで結婚について聞いてみたんやけど、メリエムも早く結婚したと言うてる。逆に綺麗な金髪のラビアは結婚はしたくないらしい。因みにムハマドはホンマの弟やとか。確かにムハマドも金髪やった。

 それでラビアは20歳になったらPêşmerge(ペシュメルガ)に入ってKurdistan(クルディスタン)の為に戦いたいと勇敢な事を言うてる。


 やっぱり親の仇を討ちたいんやろか……。


 そう思うと少し悲しくなってきた。


「そしたらミライは?」


 と聞くと、黙って首を傾げるだけ。まだ16やもんな。

 するとアズラやメリエルがクルド語で何か言いまくってる。それを否定するかの様にミライが反応して少し膨れっ面になってる。

 みんなケラケラと笑ろてた。膨れた顔もまた可愛いミライやったわ。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 子ども達が勉強をする姿って平和だなぁって思います。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ