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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】サルサンク
215/296

215帖 朝の水やり

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 まだ涼しい空気の中、昇ってくる朝日を見ながらユスフ、ゼフラと一緒に丘を下ると左手に大きな農場が見えてくる。


 こんだけの砂漠の農地に水をやるのは大変やろなぁ。


 と思てると、みんなバケツを取りに行き川の方へと歩いて行く。ムスタファやオムルは天秤の先に大きなバケツをぶら下げて川へ行く。

 農地の更に下の方では、エンジン音が唸ってる。ゼフラと一緒に降りてい行ってみると、川からエンジンポンプで水を汲み上げ水撒きをしてるガディエルさんとハミッドさんの姿があった。


 なるほど、これなら水やりも楽やな。


 そう思てたけど、畑の真ん中にある道路より向こうには届かへんみたい。そこへは皆がバケツで水を運んでる。


 遠い所は人力かぁ。


 ポンプのホースを伸ばしたらええのにと思て、ガディエルさんに話し掛けてみると、


「これ以上ホースを伸ばすとこのポンプでは水が出せなくなる」


 と言う事やった。エンジンポンプの性能限界なんやろう。そやけど毎日の水運びも大変やなぁと思てた。

 下の方を眺めてると、遠く道路の向こう側にラヒムさんの姿が見える。


「あそこまで行ってみよう」


 と指をさすと、


「うん」


 とゼフラが頷き、同時に走り出した。僕は手を引っ張っていかれる形で後を追う。


 随分と下まで降りて来てしもた。道路を渡って更に降りて行くとそこは稲作がされてる田んぼやった。ラヒムさんは川から引いてきた水の量を調整をしてるみたい。


「ジャポンでも米は作っていますか?」

「はい、私の実家でも米を栽培してます」

「そうですか」

「日本では大量の米が収穫出来ます。余ってしまう程沢山です」

「おお、それは凄い。是非、ジャポンの米作りの方法を教えて欲しい」

「ええっすよ」


 そう言いながら僕は田んぼを眺める。どうやら直まきで育成してるみたい。まぁ台風とか来おへんからそれでもええんやろけど。


「日本ではこうやって育ててます」


 と地面に絵を書いて説明する。またその利点も説明するとラヒムさんは、「ウン、ウン」と頷きながら聞いてくれた。


「それはいいアイデアですね!」

「でしょう!」

「キタノが来年の春まで居てくれるなら是非そのやり方を挑戦してみたいよ」


 と言うてくれたけど、そんなに長く居らへんやろから何とも言い返す言葉が出んかった。


 長々と話してしもた。暇そうなゼフラに、


「あっちに行こう」


 と指差され、手を引っ張られながら上の方に登って行く。


 そこでは日本で言う夏野菜が大量に栽培されてた。トマトにピーマン、シシトウに唐辛子。ハーブ類も結構植わってる。茄子にカボチャにトウモロコシ。西瓜に、あれはメロンやろか。昨日のデザートにも出てたな。


 広大な土地に沢山の野菜が植わってる。その中でも葉野菜はかなり萎れてる感じがする。


 もっと水をやらなあかんなぁ。


 そろそろ太陽も昇って来て暑くなってきてるのに、みんなはまだせっせと水を運んでは水を撒き、そしてまた川へと向かって行った。結構汗だくになってる様やった。


 なんとか泉から水が引けたらええのになぁ。


 と思い、ゼフラを連れて泉の方へ向かう。


「何をするの?」


 もしくは、


「どこへ行くの?」


 と言われてるみたいやし、


「泉の偵察や」


 と伝わらへんかも知れんけど言うてみたら、ゼフラは大人しく付いてきてくれる。

 畑を上がって土手を越えると泉に辿り着く。泉の水面と土手の高低差は2、3メートル。川底からは更に2メートル程ありそうや。そんなに土手を掘り進める事は出来へんから川底から水を引くのは至難の技。ただなんとなく泉の水面からは引けそうな気がしてくる。後はどうやって水を汲み上げるかや。

 そんな事を考えながらボーッと畑を眺めてたら女の子達が帰って来た。


「キタノ。今から朝ご飯の支度をしますから、もう少し待っててね」


 とアズラが優しく言うてくれた。


「じゃ、私も!」


 みたいにゼフラも駆けて行く。まだ男の子達は水やりをやってる様やし僕も行って水汲みを手伝う事にする。


 空いているバケツを2つ持ち、川底へ下りていく。水を汲んで運ぶ訳やけど、両手で30リットル位の水を持っての土手の登りは結構きついし、途中で大分溢れてしもた。そこから畦道を進んで奥の畑に行き、水を撒く。撒いた水は砂質の土壌に直ぐに吸収されてしまうし、表面はみるみる乾いていく。


 これは思ったより大変やぞ!


 そう思いながら何度も往復したけど、7、8回目でヘトヘトになってしもた。


「そろそろ朝ご飯にしましょう、キタノ!」


 オムルから声が掛かって少し嬉しくなる。結構身体に応える仕事や。


 これは水路の作製を真剣に考えた方がええかも知れん。


 そう思いながら屋敷に向かって歩いて行く。


 部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドでゆっくりしてるとドアが開いた。


 誰やろう?


 身体を起こすと誰かが覗いてるんが分かった。


 髪型からするとミライかな?


 ドアまで歩いて行くとさっと隠れる仕草が見えた。


「どうしたん?」

「朝ご飯……」


 やっぱりミライやった。それだけ言い残し向こうに行ってしもた。

 食堂では皆が集まってる。僕が座るとこを探してるとゼフラが「ここ、ここ」と自分の隣を指さしてる。


 隣に座って欲しいんやな。


 そう思てゼフラの隣に座る。朝のメニューはサラダと野菜スープとナン。それと卵の目玉焼き。


 あれ! 僕のだけぐちゃぐちゃになってる。


「これは私が作ったのよ。おいしいよ」


 とゼフラが言うてるみたい。みんな声を殺して笑ろてるんが分かった。


「ゼフラ、ありがとう」


 と言うとニコーっと微笑んでた。

 そこへハディヤ氏がやって来て全員揃う。また、みんな別々のお祈りをして朝食を頂いた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 随分とゼフラに気に入られた「僕」です。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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