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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【イラク】サルサンク
214/296

214帖 大家族の晩餐

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 その日の晩は、大広間で僕の歓迎会が催された。大きな絨毯を幾つも敷かれた広間の上座に座らせて貰う。隣にハディヤ氏が座り、その隣にムスタファ、オムル、ムハマド、そして元気になったカレム、ユスフ、アフメットの順に座って行く。どうやら年齢順の様や。

 その更に下座に中年位のおじさん2人と30代位のおっさんも座る。ハディヤ氏によると住み込みで働いてる人達で、農作業や雑用をする使用人みたいらしい。結構年配のガディエルとマンスルにラヒム。もう一人ハミッドという人が居るけど、今は南部に行ってるらしい。


 暫くすると女性たちが次々に料理を運んで来てくれる。年齢の上からアズラ、メリエム、ラビア、ミライ、エシラの順で、一番下がゼフラ。ハディヤ氏には奥さんとの間にアイシャ、エリフ、ミライの3人の娘が居るけど、上の2人は結婚して既に他家に嫁いでいる。残るはミライ一人。あとは全て所謂戦争孤児で養子やそうや。


 一番年下のゼフラも頑張って食事を運んでる。その姿を見てハディヤ氏は、


「一番甘えたなのだが、一番良く働くいい子だ」


 とまるで孫を見るように愛でてる。


 そして食事の準備が終わり、奥さんも席に着くとハディア氏から挨拶があった。その中で僕の紹介もあり、僕がお辞儀をするとみんなもぎこちない形でお辞儀をしてくれた。


 そして食事前のお祈りが始まる。びっくりしたんが、そのお祈りがみんなバラバラな事。イスラム風にキリスト風、それ以外にもいろいろとあって皆それぞれの形でお祈りをしてる。一つにまとめる事もせずみんな自分のやりたい様にやってるっていうのは、それだけでハディア氏は寛容さが分かった。


 僕も手を合わせて「いただきます」と言うとハディヤ氏も真似をしてくる。ほんまにおもろいおっさんや。

 食べ始めると、一番年下のゼフラは自分の皿を持ってハディヤ氏と奥さんの間に入ってくる。まだ甘えたい年頃なんやろう。


 それからハディヤ氏は一人ひとりに何か話を聞いてる様や。ムスタファから順番に、多分今日あった事を聞いてそれにハディヤ氏がコメントをしてる。クルド語なんで何の事か分からんかったけど、そういう所にもハディヤ氏のみんなに対する愛情が伺えた。

 当然カレムは今日溺れた事を報告してる。僕の名前が出てきたんでそうやと思うけど、ハディヤ氏は僕の肩を組んで、


「本当にありがとう。あなたは命の恩人だ」


 みたいに笑顔で何度も肩を擦られてた。

 するとゼフラが急に立ち、絨毯の真ん中まで行き、


「キタノはシューッとジャンプをして、ドバーンと水に入って、スイスイと泳いでカレムを助けたのよ」


 みたいな事を言いながら僕がカレムを助けた時の様子を真似して、みんなの笑いを誘ってた。


「そう言えばキタノはどうやってここまで来たのだ」

「ええーと、中国から列車やバスでやって来ました」

「おお、それは面白い。是非、皆に旅の話をしてくれないか」

「いいですよ。英語でもいいですか?」

「それじゃ僕がクルド語に訳して皆に話しますよ」


 と通訳を買って出たんはムスタファやった。


「よし。ムスタファに頼もう」


 どことなくムスタファはハディヤ氏に一目置かれてるみたい。ハディヤ氏には息子が居らんから、自分の息子の様に頼りにしてるとこが伺える。


「では、まず5月。日本の大阪と言う所から船に乗って中国の上海に着きました」


 なんかもう大昔の事の様に思えたわ。

 僕が言うとムスタファがクルド語に訳して皆に説明してる。みんな「ウンウン」と頷いて目をキラキラと輝かせて話を聞いてる。多少盛った所もあったけど、ムスタファが上手いこと話してくれたんで笑いも起きて楽しい夕餉が過ごせた。

 今日はパキスタンに入った所で話は終わり。続きはまた明日という事になった。


 その後チャイを頂きながら、ガディエルさんやマンスルさんの話を聞いていた。どうやら畑の農作物の話をしてる様や。ちょっと気になって話を集中して聞いてたら、


「キタノにも我が農場を是非見て欲しい。明日、案内しますよ」


 と若いラヒムさんが言うてくれた。


「それはいい。我が子達も手伝うから是非見て下さい」

「はい。お願いします」

「ちょっと朝が早いですが大丈夫ですか?」

「ええ、構いませんよ」


 と言う事で、明日の朝5時に起きる事になる。

 その後、部屋に戻りシャワーを浴びてベッドに横になる。いろいろあった今日の事を思い出してたら直ぐに寝てしもた。



 8月21日、水曜日の午前5時。

 日の出前に起きてみると、もう既に庭から子ども達の声が聞こえてる。服を着替えて直ぐに出てみると皆がわーっと寄ってきた。男の子も女の子も一番小さいゼフラ以外はみんな来てた。


「スビハエル」

「スビハエル!」


 どやらクルド語で「おはよう」の意味なんやろ、


「スビハエル」


 と僕も言うと、親指を立てて「グー!」とムハマドが言うてた。

 僕はユスフとアフメットの小学生コンビに手を引かれ丘を下りだす。すると後ろから泣き声を上げながらゼフラ走って来る。どうやら寝坊をしたみたいや。ゼフラはまだ6歳なんでこんな早起きは辛かろうにと思てたら、


「ゼフラはいつも朝の農作業には来ないんですよ」


 とオムルが説明してくれる。


「今日はキタノも来るから起きたんじゃないですか」


 と冗談ぽくムスタファが言うてる。その通りなんやろう、追いついたゼフラはアフメットの手を外して変わりに僕と手を繋いできて、なんか言うてる。


「一緒に行こうと言ってます」


 とムスタファが説明してくれた。

 僕はユスフ、ゼフラと手を繋ぎ、歩いて丘を下った。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 なかなか居心地が良さそうです。この旅はどうなってしまうのか?


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。

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