表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【パキスタン】パスー→カリマバード(フンザ)
173/296

173帖 エアメール

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 Dear 憲さん


 この前は電話と絵葉書を送ってくれてありがとう。フンザと言う村にいてるんですね。こんなに綺麗な花がたくさん咲いてる所なんて、私も行ってみたいです。


 ところで身体は大丈夫ですか。病気や怪我はないですか。それだけが心配です。病気になったらすぐに病院に行ってくださいね。


 先月からうちの新聞で日曜日に「シルクロード」の特集をやっています。

「憲さんはこの辺を行ったんかなぁ」と母と話をして、憲さんの旅を想像してます。だから私も憲さんと一緒に旅をしてる気分になっています。


 憲さんが行くと言ってたイラクの方は少し落ち着いてきてるみたいです。だけどイラクの北部ではまだ戦闘が続いているそうです。充分に気をつけてね。戦争に巻き込まれたりしない様に、安全なところに行ってね。


 私の方はと言うと、夏休み中に文部省の研修で日本一周をすることになりました。私も旅をします。憲さんと違って船で一周するだけですけどね。でも行った事が無い所なんで楽しみにしています。お土産を買っておきますね。


 それから電話でも話したけど、この前の日曜日にも憲さんの下宿に行ってきました。お掃除をした後、部屋でゴロンとしてたら自然と涙が溢れてくるの。憲さんのいない4畳半の部屋がとても広く感じて、寂しくて寂しくて涙が止まりませんでした。

 そしたら、同じ下宿のカメラマンをやってる憲さんの先輩さんがやって来て、隣の喫茶店でご飯を奢ってもらいました。今度会ったらお礼を言うといてね。

 喫茶店のおばさんも、憲さんから絵葉書が届いたって喜んではりましたよ。


 それで喫茶店から一人で帰る時、やっぱり涙が出てきました。早く帰ってき欲しい……けど、憲さんの大切な旅です。だからわかってるんやけど、でも早く会いたくて仕方がないです。また一緒に遊びに行ったり、山へ行ったり、お話したりしたいです。帰ってきてまた会える事を楽しみに待ってます。


 それでは身体に気を付けて、旅を頑張ってね。また、手紙を下さい。


 from 美穂



 うーん、会いたいなー。

 会いたい、会いたい、会いたい……。

 そして、グッと抱きしめてみたい……。


 美穂の事を思い出してたら目頭が熱くなってきた。



 7月30日、火曜日。

 昨日の氷河強行脱出行動のせいで疲れ果て、10時まで寝てしもた。僕は今日、またKarimabad(カリマバード)へ戻るつもり。三雲さんはGilgit(ギルギット)まで行く。早速移動の準備をして、食堂で朝昼兼用飯を食べた後、ホテルを出る。


 待つこと20分程でギルギット行きのギンギラバスがやって来た。例の如く満員やったんで僕らは屋根の上に乗る。1時間半程で、カリマバードの村が見えてきた。


「ほしたら……、またどっかで」

「そやね。またどっかで会えるやろ」

「そうそう、ギルギットではMedina(マディーナ) Caff(カフェ)のオーナーに宜しく言うといてください」

「おお、分かった。僕もそこに泊まるわ」


 バスがGanish(ガニッシュ)のバスストップで停まる。僕以外にも数人の欧米人がバスを降りたんで、三雲さんは座席の方に乗り直す。


「お元気で」

「またなぁ」


 ドアが閉まり、バスはギルギットに向けて暑い日差しの中を走り出す。そして陽炎の中に消えて行った。



 カリマバードまで登ってきてホテルに着くとオーナーのじいさんが笑顔で迎えてくれた。


「おお、我が息子よ。よく帰って来たね」

「ただいまです」

「よかった、元気そうだな」

「ええ、ちょっと疲れてますが……。そうそう、ホテルとか手紙とか手配して貰ってありがとうございました」

「いや、気にしないでくれ。それより氷河は楽しめたかい?」

「はい、大きくてびっくりしました」

「そうか、それはよかった。さぁ座りなさい。チャイを入れよう」


 チャイを飲みながら、じいさんにPatundas(パトゥンダス)に登った話しをする。じいさんは笑顔で僕の話しを聞いてくれてた。

 こんな間近で長々と話したことは初めてやった。じいさんの顔を見つめながら話してると、僕のホンマの祖父に思えてくる。痩せこけた頬と目の感じが、僕が高校3年の時に亡くなった母方の祖父と似てる。久し振りに祖父と話せた様な気がして嬉しくなってしもた。


 続きはまた晩飯の時に話しましょうと、その後僕は部屋に行く。今日の宿泊客は僕だけみたいで宿泊棟は人気が無かった。


 僕はベッドに横になって昼寝をする。

 ところが僕は急にお腹が痛くなって目を覚ます。パスーで山に登り始めてから一回も行ってなかったし、漸く便意が来たと喜んでトイレに入る。

 汚い話やけどカッチカチの物が出た後軟便に変わり、ここ3日分の便が一気に出ていった。そして最後は便が水の様になり、昼に食べたナンやさっき飲んだチャイまでが出てきた様な感触やった。


 一体僕のお腹の中で何が起こってるんや。


 と不思議に思い、直ぐに日本から持ってきた和漢の胃腸薬を30粒飲むと、なんとなく落ち着いた感じがして僕はまた昼寝を続けた。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 「美穂」からの手紙を読んで心は癒やされてたのでしょうが、内臓には何か異変が起こってる様です。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ