表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【パキスタン】カリマバード(フンザ)
164/296

164帖 先祖はギリシャ人?

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 晩飯の時、日本人は僕だけやった。欧米人は沢山いたけど特に一緒に話すことも無く、僕は山の写真集を見ながら一人で食べて早々に部屋に戻った。一人きりの晩飯は久しぶりやったなぁ。やっぱり少し寂しい。



 7月21日、日曜日。

 今日も昼近くまでベッドでゴロゴロして、起きたら坂の上のレストランまで行って昼飯を食べる。そこに昨日会うた同宿のドイツ人青年達が居って、僕を見つけると近くに寄ってきた。


「明日、私達はPasu(パスー)氷河にトレッキングに行くのだが、あなたも一緒に来ないか?」


 と誘われる。


「すんません。まだ体調がすぐれないんで遠慮しときます」


 と断ってしもた。そんなに体調が悪い訳では無いけど、一緒に行って気を使うほど精神に余裕が無かったんで丁重にお断りした。


「その代り、僕はテントを持ってるから貸してあげよか?」

「おお、それは素晴らしい。でも日帰りなので大丈夫です」

「わかりました」

「それでは、またね」

「気を付けて!」


 食事後、僕はレストランを出て坂を登り、二叉路を学校の方とは違う左へ進む。畑の中を少し行くと住宅地に入った。


 ある家の前では、10歳位の女の子と中学生位の女の子が弟らしき小さい子をあやしてる。

 挨拶をして写真を撮ってもいいかと聞くと、お姉ちゃんは直ぐに家の中に入ってしもたけど、妹は弟を抱きかかえお清ましをしてた。カメラを向けると、ニコッと笑ってくれる。透き通った青色の瞳とカールした様なくせ毛が印象的やった。お礼に鉛筆を一本渡すと英語で「ありがとう」と言うてくれた。


 更に奥へ行くと、空き地で4人の少年たちが「石蹴り」の様な事をして遊んでる。僕を見つけると駆け寄ってきて、やっぱり昨日の小学生の様に英語で質問してきた。一通り質問が終わると今度は僕のカメラを指差し、


「写真を撮ってくれー!」


 とせがんできた。

 カメラを向けると4人は思い思いのポーズをしてくれる。日本で言うならば戦隊モノの決めポーズの様な事をして格好つけてた。それが面白くて、「もう1枚、もう1枚」と言うて何枚も撮ってしもた。

 写真を撮ってると、畑の方からおっちゃんの声がした。振り向くと僕を呼んでるようや。


 傍に行ってみるとおっちゃんはジャガイモの収穫をしてた。


「おまえ、これを食べないか」


 みたいなことを言われた。このおっちゃんの言葉はウルドゥー語では無い様な気がする。それと英語は話せないみたい。

 さっき飯を食べたばかりやったけど折角誘ってくれたのに断るのもなんやから僕は頂くことにした。おっちゃんは嬉しそうに掘り起こしたジャガイモを麻袋に詰めて担ぎ、家の方へ歩き出す。そこへさっき写真を撮った少年のひとりが駆け寄り、その麻袋をおっちゃんから受け取って担いで行った。


「ここが私の家だ。中に入りなさい」


 日干しレンガで出来た家は簡素やったけど、外より少し涼しく感じる。居間には絨毯が敷いてあり、壁には農具がいっぱい立て架けてある。電球はあるんやけど付いてないんで、入り口からの光だけを頼りに僕は絨毯の上に座った。


 座って待ってると、奥からおっちゃんが銀色の鍋と皿を持って来る。後から少年が果物を皿に載せて持ってきてくれた。おっちゃんが鍋から茹でたジャガイモを皿に載せてる時に、少年は僕の事をおっちゃんに説明してるみたいやった。ジャガイモに塩を振って渡してくれる。


「さー食べなさい。果物も食べなさい」


 おっちゃんが言うた事を少年が英語に訳してしてくれるんやけど、まだあまり英語を知らんのか、少年が言うたんは一言、


「eat(食べろ)」


 だけやった。3人でジャガイモを食べる。塩だけの味付けやったけどほのかに甘く、レストランで食べたフライドポテトよりこの茹でたジャガイモの方が美味しく感じる。果物はリンゴと葡萄。リンゴは丸ごとやったから葡萄を頂いた。薄黃緑色の大きな実は甘くて少しの酸味と苦味があったけど、乾いた身体にはめっちゃ美味しく感じたんで一房の半分ぐらい頂いてしもた。


 その間、僕らは身振り手振りと頼んない少年の英語の通訳で話した。

 いろんな話しを聞かせて貰ろたけど、理解出来たんは半分以下やと思う。それでもおっちゃんは喋る事を止めへんかったし、僕はウンウンと頷きながら聞いてた。


 そんな話しで分かった事は、実はこのおっちゃんは少年のおじいさんで、歳はもう80歳らしい。81歳の半分寝たきりの僕の祖父と比べるとめっちゃ元気やし若く見える。流石は長寿の村や。


 それと、この村の人々の先祖は大昔にどうやらギリシャやトルコの辺りからやって来たらしい。「アレクサンドロス」がどうのこうのと言うてたし、紀元前に行われたアレクサンドロスの東方遠征の時に一緒に来た人々の末裔やと言いたいみたい。それを聞いた時は信じられへんかったけど、青い目をした人も多いしパーマみたいなくせ毛の人も居るし、顔立ちもアーリア系とは違うさかい、もしかしたらホンマかも知れんと思た。


 1時間程の長居をしてしもた。久々に地べたに胡座をかいて座ったし腰が痛なってきたんで、僕はお礼代わりに少年に鉛筆を渡し、おじいさんと孫のツーショットの写真を撮って家を出た。

 外は日差しが強く、眩しくて暑い。

 もう一度振り返ってお礼を述べ、僕はホテルへ向かう。2人は入り口に立って手を振ってくれた。


 今日も晩飯は一人で食べる。部屋に戻ってからは窓を開け、月明かりで微かに見える白い山と空いっぱいの星を見ながらのんびりとする。昼と違ごて涼しい風が気持ちいい。ちょっと寒いかな。

 それを我慢しながら夜が更けるまでアレクサンドロスの東方遠征を想像しながらボーっとしてた。

 なんかめっちゃ贅沢な気がした。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 この地方だけ「ブルシャスキー語」という独特の言葉を使うそうです。アレクサンドロスの東方遠征の話もまんざらではない様です。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ