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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【パキスタン】ラワールピンディ
157/296

157帖 ビザ延長物語・イスラマバード編

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 無情にも僕らは、「イスラマバードへ行け」と言われた。

 もう昼前。今からイスラマバードへ行って間に合うのか?


「もし良かったら、イスラマバードへの行き方を教えて貰えませんか?」

「もちろんだ」


 窓口の係官は丁寧に行き方を教えてくれた。


「まず大通りまで戻り、GTS(公営バス)でイスラマバードのSecr(セクレ)etariat(タリアット)(政府庁舎)まで行きます。そのバススタンドの前にMinistry(ミニストリー) of(オブ) Interior(インテリア)はあります」


 その通りに僕らは大通りに出て、GTSのバススタンドへ行く。暫くするとイスラマバード行きのバスが来たけど、いつも乗ってたギンギラバスではなく、地味な赤色のバスや。

 運転手にイスラマバードまでなんぼか聞くと2ルピーやと言うてた。左2座席、右3座席の車内は狭かったけど、まだ開いてる座席があったんで僕らはそこに座る。

 乗ったんはええけど、どこで降りたらええか分からんと困るし、隣のパキスタン人の紳士風のおっちゃんに、


「このバスはセクレタリアットまで行きますか?」


 と聞くと、


「終点がセクレタリアットだ」


 と説明してくれたんでちょっと安心した。


「ラッキーですね。このまま終点まで乗ってたら行けますね」

「そうなんや。何やったら適当に降りてイスラマバード巡りをしてもええで」

「いやいや、今はそういう事してる場合とちゃいますやん」


 ちょっと余裕が出来ると多賀先輩はいらん事を考えてしまう。厄介な人やなと思てたら、次に停まったバス停で沢山の人が乗り込んでくる。珍しく洋服を着たパキスタン人や子ども連れの婦人達が乗り込んできた。


 そん時、隣のおっちゃんが、「さぁ、立つんだ」と言うてきた。


「さぁ、早く」


 と僕らを押しのけてきて、おっちゃんも立ち、乗ってきた子どもと婦人に席を譲った。周りでも女性やお年寄りに席を譲って立つ人がいっぱい居る。


 そうやな。極当たり前の事やんか。


 と思てたら、さっきのおっちゃんに、


「パキスタンでは、女性や子ども老人には立たせていけない」


 とお叱りを受けてしもた。老人なら分かるけど、若い女性でも立たしてはいけないというのんがパキスタンでは当たり前みたい。

 パキスタンの常識を分かってなくてちょっと恥ずかしい思いをしてたら、後ろの方の席の兄ちゃん達が席を立って、僕らを呼んでた。

 どうやら席に座れと言うてるみたい。僕はさっきのおっちゃんの顔を見る。


「さぁ、座らせて貰いなさい」

「いいんですか?」

「ああ、いいよ。パキスタンでは旅人にも席を譲るんだ」


 お言葉に甘えて、パキスタンの良き習慣に感謝しつつ席に座らせて貰った。


 ラワールピンディの市街地を抜けると暫く砂漠が続く。砂漠と言うても荒れ地みたいなもんで工事用車両があるところみると、これから開発される様な感じやった。


 少しずつ街路樹の人工林が見え始めると、きちんと区画整備された街並みになりイスラマバードに入ってきたんが分かった。大きな通りが碁盤の目の様に東西南北に走り、比較的新しい建物が目立ち始める。高層ビルも少なからずある。まだ空き地の区画もあり、新しく作られた「首都」って感じやわ。


 道路にはラワールピンディみたいに馬車やリキシャ(三輪のタクシー)などは走っておらず、バザールはおろか露店や屋台も無かった。あるのは綺麗なショッピングモールの様なもの。街を歩いてる人はシャルワール・カミーズを着ている人も居たけど、洋服姿の人も結構多い。生活圏と言うより、やはりここは政治や経済の街って感じやね。



 1時間弱で終点のセクレタリアットのバス停についた。周りは官公庁ばかりで、歩いてる人はインテリっぽい人が多い。

 バス停のロータリーを出ると付近の案内板があり、よう探すと目的の「Ministry of Interior」があった。しかも目の前にその建物があり、石板に英語語でしっかりと「Ministry of Interior」と書かれてる。


「ミニストリー・オブ・インテリア。インテリアは内装とか内部とか……。あっ! つまり、『Ministry of Interior』って『内務省』ってことですやん」

「まじか。俺、日本でも内務省って行ったこと無いぞ」

「ええ! 外務省は有っても、日本には内務省は無いでしょう」

「そうなんか。そやけどそんな役所に一般人が行ってもええんか?」

「しゃぁないですやん。そこへ行けと言われたんやから。取り敢えず受付で聞いてみましょう」


 流石は政府の機関。入り口にはライフルを持った警備員が居る。

 受付に行ってみると、期待した綺麗なおねーちゃんは居らず、太ったおっちゃんが怖そうな顔をして待ち受けてた。


「ビザの延長に来たんですけど」

「それなら4階に行ってくれ」

「おおきにです」


 僕らは階段を登って4階へ行き、「Foreigner(フォリナー) Regist(レジスト)ration(レーション)(外国人登録)」と言う窓口の前にできてる列に並んだ。30分程で順番が回ってきて申請書を書く。

 申請書には、パキスタンに居る理由を書く欄が有ったんで、英語で作文を書いた。


「北野。理由欄ってなんて書いたんや?」

「ええっとー、『僕は1か月間、パキスタンを観光しました。どこも美しく感動しました。人は優しく、食べ物は美味しかったです。まだ観光していない所があるのでビザを延長して欲しいです』と、英語で書きましたで」

「ほほー、やるやないか。俺にも見せてくれや」

「ええー、写さんといてくださいや」

「ああ、大丈夫や」


 僕のを見て、やっぱり写しながら書いてた。幾らか単語を変えてたし、まぁええやろうと思た。

 書けた申請書とパスポートを提出して、1か月の延長手数料96ルピーを支払う。


「よし、これでビザの延長も終わりやな。そやけど北野。お前よう気が付いたな」

「ああ、ビザの有効期限ね。ですよね。危うく切れるとこでしたね」

「ほんまや。助かったわ」

「いえいえ。そやけど、クエッタから考えるとめちゃくちゃ時間掛かりましたね」

「そうやなぁ。長かったなぁ」


 それから椅子に座って待つこと1時間。呼び出されるとパスポートと英語で書かれた証明書の様なものを渡され、これでやっと終わりやと思ってたら、


「この証明書を持って、FRO(外国人登録事務所)に行って下さい。そこでパスポートにスタンプされます」


 と係官に告げられた。


 え、ええっ!


 僕は聞き間違えたかと思てもう一回聞く。


「ラワールピンディのFROに行って下さい」


 間違えは無かった。


 RPGの続きや……。


「多賀先輩。またFROに行かなあきませんやん」

「まじか。ここで終わりとちゃうんかい」

「ええ。もうRPGになって来ましたね」

「面倒臭いなぁ」

「ほんでもしゃぁないし、今から直ぐ行きましょか」

「いや、取り敢えず飯や。腹減ったわ」


 この時点で既に2時を回ってる。直ぐにFROに向かってたら良かったんかも知れんけど、僕らは内務省を出て安いレストランを探し遅めの昼食を食べてからまたGTSのバスに乗ったら、ラワールピンディの市街地に入った途端に渋滞に巻き込まれ、結局FROに着いたんは5時前やった。


 バス停から急いでFROに行ったんやけど、入り口は鉄格子の扉が閉められ、そこに「Closed」という札が掛けてあった。


「あちゃー! 間に合いませんでしたね」

「くそー。飯食わんかったら良かったなぁ」


 そやし「直ぐ行こ」言うたんや……。


「まぁしゃぁないし、月曜日に来るかぁ」


 僕らはトボトボ歩きながらホテルに向かう。ちょっとは進展したけど、結局今日1日使こてもビザは延長出来んかった。ビザの有効期限が切れるまであと4日。


 月曜日には絶対に成し遂げなあかん!



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 やっとビザの延長が出来ると思ったのに……。月曜日に持ち越しです。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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