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広く異国のことを知らぬ男  作者: すみ こうぴ
【パキスタン】ラワールピンディ→ペシャワール
128/296

128帖 高いから、買って

 今は昔、広く異国(ことくに)のことを知らぬ男、異国の地を旅す

 ありがたくも紳士パキスタン人のおじさんのお陰で馬車のおっちゃんとのトラブルが終わった後、僕らはホテル「Asians Inn(アジアンズ イン)」に入った。そやけど、残念ながら今日は満室やから無理と言われた。

 他のホテルの当ても無いし、こんな夜中にそう簡単に移動もできん。そこで近くで安いホテルは無いかと受付のおっちゃんに聞いてみたら、


「向かいのホテルに行ってみろ」


 と言うてくれた。


 通りの向かいにあるホテルは「Maharaja(マハラジャ) Hotel(ホテル)」。4階建ての建物の2階より上がホテルになってる。階段を登って受付に行こうとしたけど、寝不足と疲労でこれが結構きつかった。


 やっとの想いで受付に到着。山に登るより辛かったわ。

 受付のおっちゃんは優しそうな感じの人で良かった。ロビーのソファーには、ここも日本人の定宿なんやろう、日本人らしき人が漫画を読んでた。


「アッサームアライクン」

「アッサームアライクン。部屋は空いてますか?」

「ありますよ。30ルピーと50ルピーの部屋がありますが、どちらにしますか」

「多賀先輩、どうします」

「決まってるやろ」

「じゃー30ルピーの部屋で」


 宿泊の手続きをしてると、ソファーの日本人が話しかけてきた。


「さっき、道路で揉めてましたよね」

「ええ」

「何があったんですか?」

「馬車の運賃の問題で……」

「ああ、よくあることだね」


 ちょっと感じの悪い奴やった。聞こえてたんやったら助けに来んかいと思た。


 僕らの部屋はなんと一番上の4階。そこまで最後の力を振り絞って、一歩一歩階段を登る。僕は部屋に入ると直ぐにリュックを下ろし、そのままベッドに横になって眠った。



「暑いなー」


 と言う多賀先輩の声で目が覚める。布団も掛けんとそのまま寝た僕も汗をかいてた。


「おはようございます」

「おはよー」


 直ぐに起きて窓を開けたけど、太陽は既に高いとこに昇ってて、入ってくる風は生温かった。

 窓から見る街の風景はほぼ茶褐色の土色で、やたらと電線が張り巡らされ、アンテナがいっぱい立っててごちゃごちゃしてる。車のエンジン音やクラクション、人の声で通りは昨晩と打って変わって賑やかやった。

 外は活気があったけど、僕らはまだ寝ぼけてた。


「昨日の夜の事ですけど、あんだけ時間掛けて喧嘩したのに、結局日本円にしたら、35円か70円かの違いでしたね」

「そやなー」

「最後は7円で揉めてましたからね」

「うーん」

「それやったら早よ払ろて寝たら良かったわ」

「……」

「そやけど、どうします? これから」

「うーーん」

「観光しますか」

「そうーやなー」


 まだ多賀先輩は寝ぼけてるし、本気出してへん。それはなんで分かるかというと、メガネを掛けてないからや。何か考えたり行動する時は必ずメガネを掛けるちゅう事がこの旅で分かったし、従って今は何を聞いてもあかんと思て僕から、


「取り敢えず、飯、喰いにいきません?」


 と提案した。


「そうしよかー」

「ついでにホテルも変えましょう。昨日のAsians Inn(アジアンズ イン)やったら20ルピーで泊まれるて言うてはったし」

「分かった、飯行こ」


 リュックを担いでホテルを出て、1階のレストランに入った。

 やっぱり都会はちょっと値段が張る。フンザで食べた2倍以上の値段がする。それでもめっちゃお腹が空いてたし、15ルピーのチキンカレーを注文した。


「これからどないします。ラワールピンディは特に観光するとこありませんで」

「そうや」

「そうやって……」

「いやな、あそこ行きたいねん。えっとー、あのガンダーラや」

「ああ、Taxila(タキシラ)ですか?」

「そうそう、そこ」

「ほんならタキシラ行ってそのまんまPeshawar(ペシャワール)まで行きませんか。タキシラは確かペシャワールの途中にあるんですよ」

「ええがな。おもしろそうやん」

「よっしゃ。ほんなら飯食ったらバスターミナルですね」

「うん。そやけどペシャワールは何があるんや?」

「へっ! ああ、えーっとAfgha(アフガ)nistanニスタンの国境に近いんですけど、アフガニスタン難民キャンプがあるんですよ。僕はそこへ行きたいんですよ。それに今、アフガニスタンは内戦中なんでホンマは入れへんのですけど、国境まで行ったらなんとかなるかも知れませんで」

「ほほー、ええんちゃう。それ行こ」


 フンザから降りてきたけど、多賀先輩はあんまり何も考えてへんな。まぁその方が僕がイニシアティブ取れるし都合がええねんけどね。


 飯の後、直ぐにバスターミナルに向かう。そこでタキシラ行きのバスを探した結果、やっぱりペシャワール行きのバスに乗って途中で降りたらええみたい。運賃は交渉の末、5ルピーやった。


「昨日の馬車と一緒やんけ」


 と昨晩を思い出したように多賀先輩はまた怒りだしてた。


 1時間程でタキシラのバスストップに着く。辺りを見回しても遺跡らしいもんは何もない。ほんで近くに停まってたリキシャー(3輪の小型タクシー)の運転手に聞いてみた。


「タキシラミュージアム(博物館)に行きたいんやけど」

「OK、後ろに乗れ」

「なんぼや」

「3ルピーだ」


 これが高いんか安いんか分からんかったけど、日本円で考えたら20円程度やし、それで乗ることにした。


 パキスタンで過ごしてるとホンマに金銭感覚が狂ってくるわ。昨晩、たかが1ルピー=7円にあんなに時間を掛けたんがアホらしなってきたわ。そやけど日本と違う金銭感覚が普通になってきたんかも知れんとも思た。


 15分程度で、タキシラミュージアムに着いた。入場料2ルピーを払ろて中に入る。

 中は少しひんやりして気持ち良かったけど、展示物の殆どは歴史の授業で見た資料集と同じやった。ヘレニズム文化にそんなに詳しくないし、本物を見れたと言う感動はあったけど、それ以外には特になんにも感じへんかった。直ぐに博物館をでて、遺跡の方へ行ってみる。

 いろんな建物の跡やピラミッドみたいな石造りの構造物もあったけど何か物足りなくて、その一つ一つには何の興味も湧いてこんかった。まだ玄奘(三蔵法師)が滞在していたトルファンの高昌故城の方が感動があったわ。


 そんな「なんだかなぁー」って気持ちを覆してくれたんは、帰りに寄った博物館前のお土産屋さんやった。

 なんとそこには、日本のテレビでやってた「西遊記」のドラマのBGMがかかってた。


「In Gandhara, Gandhara They say it was in India Gandhara, Gandhara……」



 ああ、これや!


 この曲があったらもう少し想い入れして遺跡を見ることが出来たかも知れん。そう思たけど、「何でこんなとこで日本の曲が流れてるんや」と不思議に感じてた。


「お客さん、ニホン人ね。オメアゲ、買うね」


 と店のおっちゃんが怪しげな日本語で話しかけてき。やっぱりここも日本人観光客が多いんか?

 その店では、石で作った器や象や亀などの動物の置物がメインで売られてる。しかも日本語の札付きで陳列してある。


「そこのお兄ちゃん。これ買うね。高い(・・)よ。どれも高い(・・)よ」


 それ(・・)に敏感に反応したんは多賀先輩。


「これ、高いんか?」

「そう、高いね。他の店より高いよ。一つ買って下さい」

「高いんやったら買わへんで」

「ほんと、ほんと。高いから、買って。買って。高くするから……」

「そやし高いんやったら買わへんやん」

「ノー、ノー。高いから、買って」

「いや、高いんやろ。そやし買わへんがな」

「高いからーー、買ってーー!」


 そういうおっちゃんを相手に多賀先輩は爆笑してた。


「あほやな、このおっさん。日本人に『嘘』教えられとるで」

「悪い日本人も居ますよね」

「北野かて、トルファンで『サルボボ』って教えてたやないか」

「ええ! それって多賀先輩ですやん」

「お前やろ」


 そんなんで最後に盛り上げてくれたおっちゃんに感謝の気持ちとして、ペナントみたいなもんを5ルピーで買うてあげた。


 その後僕らは、リキシャーに乗ってタキシラバスストップに戻り、20分程待ってまたペシャワール行きのバスに乗った。



 つづく


 続きを読んで下さって、ありがとうございました。


 パキスタンでも日本人観光客は多いです。「悪い日本人」も居て、いろんな所で「変な」日本語で話し掛けられます。


 もしよかったら、またこの続きを読んでやって下さい。


 誤字・脱字等ありましたら、お知らせ頂けると幸いです。

 また、感想や評価など頂けましたら、大変うれしく思います。

 今後とも、よろしくお願いします。


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