階城
外で遠雷がしている。
自室に戻ったボクは、やっと体が動くようになっていた。
「フフッ……流石に肝が冷えたぞ。大夜にあんな口をきくとはな」
「もう、笑うなよ。他人ごとだと思って」
「他人ごとだからな……だが、少し胸がすいたよ」
言った土忌の顔に、ほんの少しだけ陰りが見えた気がした。
「それで……ボクはどうしたらいいの?」
「暫くはおとなしくしている事だ。なにぶん、十三王子など有史以来初の事。誰がどんな行動にでるかもわからん」
土忌はボクの羽織を畳みながら言う。
「おとなしくって言ったって……」
部屋には、衣装ダンスと、ベッドと、鏡台があるくらい。
こんなところでじっとなんて冗談もいいところだ。
せいぜいが景色を見るくらい。
部屋は四方が襖だけど、そのうち一枚はずらすとガラスに覆われた一面が現れる。
部屋はどうやらかなり高いところにあるらしく、下は目もくらむ絶壁だった。
この城は、階城というらしいけど、どうも巨大な塔のような構造みたいだ。
ちなみに、襖は西がドア、東が窓、北がトイレで南がお風呂になっている。
「ふぅ……お風呂って気分でもないしなあ……」
仕方なく外を見ると、大雨だった。
眼下に広がる山々に所狭しと突き立つ鳥居の間を、ごうごうと濁流が流れている。
雨だというのに、雲を貫いて満月の輝きがはっきり見える。この世界は「月が濃い」。
遠雷がしてるだけあって、遠くでいくつも雷が落ちていた。
「雨だね。……なんだろ、あの赤い雷。ねえ、こっちじゃ雷も赤いの?」
「赤い雷……だと?」
怪訝そうに眉を歪めて土忌が窓に近づく。
「……確かに」
「何かまずいの?」
「いや……雷は貴族の到着を示す。赤は……十八貴族の中でも最も位の高い葉鐘家のもの。……葉鐘家と言えば……いやまさかな」
土忌がぶつぶつと呟く。
「……ふーん。あのさ、一つ聞いてもいい?」
「俺はお前の従者だ。いちいち確認などいらん」
「十三番目の王子っていうのが、ボクの世界に送られたんでしょ? 家族とか無事かなって」
「……わからん。わからんが、夜開眼は太陽に弱い。日に触れただけでその箇所から炎が噴き上がり、焼き尽くされる。そうそう何が出来るとも思えん」
「……そう」
ここは嘘でも大丈夫って言ってほしいところだけど、でも嘘じゃなさそうで、それはちょっとだけ嬉しい。
またはぐらかすと思ってたし。
「とにかく、今は休め。謁見が終わった以上、暫くは落ち着くはずだ」
「だといいけど」