血狐
「ちょっと!」
自然と叫んでいた。
隣で土忌が蒼白になるのが見えた。
けど、止まれない。
「勝手に呼び出しておいて、虫けらだの飼うだの何様のつもりよ!」
血天を睨みつける。
「何と無礼な! 下賤な人間風情が!!」
ハゲオヤジが顔をゆでダコみたいに真っ赤にして刀を引き抜いた。
しまった、そう思った時にはもう遅い。
左右に侍ってたたくさんの白黒服たちがボクに剣を向けていた。
絶体絶命。
と、その時――
「よい」
血天がそれを制した。
「し、しかし、恐れながら大夜様を侮辱した者を許すわけには」
と、ゆでダコ。でも血天は気にしてすらいない。
「『何様だ』などと言われたのは初めてだ。くだらんなりに楽しめた。道化の言葉にいちいちわめくな。それに――」
誰が道化よ、そう言おうとした瞬間――
「殺すのはいつでもできる」
「!!」
蛇のような黄金の瞳が、ボクを射抜いた。
全身の毛穴の一つ一つに鋭い刃が突き刺されるような感覚。
文句を言うどころか、身動きすらできない。
汗が吹き出し、手足が痙攣する。
いつでも殺せる、その言葉は全く誇張でも偽りでもない。
漫画や小説に出てくる殺気というものが、これほど強烈だと思わなかった。
瞬き一つできなくなったボクは、土忌に持ち上げられて運び出された。
お姫様だっこなんていいものじゃない。
肩におなかを乗せた、まるで米俵みたいな運び方だった。
部屋を出ようとする際、入り口近くの壁に寄り掛かる金髪碧眼の少年の姿が目に入る。
年はボクと同じくらいだろうか、真っ白な羽織の下は半ズボンだったけど、不思議と似合って見えた。
その横を通る形で土忌が出て行こうとすると、
「ククッ、面白いペットが来たものだね」
にやにや笑う少年。
「だ、誰が……ペット……よ」
「……へぇ、父さんの殺気受けてまだ喋れるんだ。ますます面白いや」
父さん……?
じゃあ、コイツは……。
「血狐様。お戯れを……」
土忌がそう言うと、金髪の少年――血狐は露骨に顔をしかめた。
「お前に話してない。黙ってろドブ犬」
「……は」
酷い事を言われたっていうのに、土忌は恭しく礼をした。
「フン……もういいよ。行っちゃえ」
いけすかないヤツ……!
体が動いたらぶっ飛ばしてやるのに……。
廊下まで出てしばらく歩いていると土忌が口を開いた。
「ぶっ飛ばすのはやめておけ。殺されるのがオチだ。あれでも大夜様の血を引く十二王子の一人だ。王位継承権は無いがな……」
「な、なんで、ボクの考えてる事がわかったんだよ」
「お前は顔に出すぎる。一生ギャンブルはしない事だ」
……ぐぬぬ。