大夜・血天
「うわぁ……」
広い。
広いなんてもんじゃない。
イタリアかどこかの大聖堂を思わせる、広大な室内。
天井は巨人でも住んでいるのかというほど高く、膨大な蝋燭が立てられたシャンデリアが並ぶ。
一方で床は千畳……なんてレベルじゃないくらい、地平線みたいに畳が敷かれている。
その畳の中央に、これまた赤絨毯がしかれていて、左右にそれぞれ白と黒の服を着たたくさんの人々――と言っても人間じゃない――が立っている。
一番奥には、天を衝くような長大な背もたれをした金色の椅子があって、真っ赤な髪をした男が座っていた。
――コイツが、ボクを召喚した大夜・血天とかいうヤツか。
退屈そうに頬杖をついていて、こっちを気にした様子なんかまるでないけど、ソイツが同じ空間にいるだけで、心臓を鷲掴みにされるような圧迫感を覚える。
檻のない状況でライオンの前に立たされるような、空気から伝わる恐怖。
赤絨毯の上を進み、近づくにつれ、その感覚は強くなる。
中世の皇帝みたいな豪奢な服の上に陣羽織という、珍妙な服装だというのに、そこから放たれる威厳は尋常じゃない。
壮年男性のように見えるけど、もっと若くも見える。
死人のように血色の悪い肌は、それでいて張りに満ちて強い生命力を感じる。
オーラとでも言うんだろうか、ソイツのいる部分だけ、黒く落ちくぼんで見える。
――バケモノ。
とんでもない、怪物。
人型をしている事が、信じられない。
……確かに、こんなのに歯向かったら、殺される。
いや、機嫌を損ねるだけで死ぬだろう。
そんなボクの緊張を見抜いたのか、手を握る土忌の力が強くなった。
そのまま、血天の前に連れ出される。
前と言っても、5mは先だ。それでも、台風が直撃したような圧迫感を感じる。
「仰せにより、罷り越しました」
身をかがめる土忌。
ボクもとりあえずその真似をして頭を下げた。
「フン……よい、楽にせよ」
心底つまらなそうに血天は言った。
土忌もボクも、頭を上げる。
すると、血天とボクらの間に、ハゲたおじさんが現れていた。
「元老議員・薊の名において、ここに十三王子の儀の開始を宣言する」
議員なのか。引き締まった体と武骨なあごひげから、軍人さんかなとか思ったけど。軍刀みたいなの下げてるし。
この薊さんとやらは、ボクの方に一瞬、さげすむような視線を投げた。
なんだかヤな感じ……。
「祭司をここに」
「は」
左右に並ぶ人の列の中から、頭からすっぽり黒いフードに包まれた影法師のような人が出てきた。
「それでは、伝統に従い、初代大夜・血紺陛下の予言を朗しまする」
影法師はうやうやしく礼をすると、むにゃむにゃと唱え始めた。
「赤なる王の第十三の王子、十五の齢となりし時、昼界に送るべし。然る後、人の子を代わりとせよ。祝福されし王子、太陽を束ねし剣持ちて全てに打ち勝たん。其が大いなる時代の先触れとならん」
最初はお経かなと思ってたけど、どうもボクがおかれている状況を言っているらしい。
十三番目の王子を人間の世界に送り込んで、代わりに誰かを連れてこいって事?
それが、ボクって事か。
――ちょっと待て。
じゃあ、今、人間の世界に、バケモノが送り込まれたって事?
まさかボクの家族のところじゃないよね?
ぐるぐると不安が渦巻く。
そのうち、呪文めいた祭司の言葉は終わった。
「では、大夜様。裁定を」
「……くだらん。カビの生えた予言が好きならそうするがいい。虫けらがどうなろうとどうでも良い。適当に飼っておけ」
ぶちっ、そんな音が自分の中で響いた。




