表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

土忌

 ――そもそも。

 ボクがこの世界に来たのは昨日の夜の事。

 その日は新月で、なんとなく星を見ようと、自宅の寝室の窓から顔を出した時だ。

 空に、月があった。

 あれ? おかしいな、今日は満月だったっけ?

 そう思った次の瞬間、月が赤く染まった。

 それが、月なんかじゃなく、真っ赤な瞳だと気付いた時には全てが遅くて。

 瞳から伸びた無数の手に掴まれて、そのまま引き込まれた。

 そこで気を失ったらしくて、気付いたら四方を障子に囲まれた畳敷(たたみじ)きの異様な部屋にいた。

 部屋には土忌が居て、一言、

「お前もツイてない奴だな」

 と言った。

 今にして思えば、癪だけど、まったくその通りだった。

 それからは、頭がパンクしそうな事の連続。

 ここが人ならぬ夜の種族・夜開眼が支配する夜界だとか、それも大夜(たいや)の名を冠する王・血天(けってん)が支配する城の中だとか、土忌も夜開眼とか、ボクが王子として召喚されたのだとか、もうぐちゃぐちゃ。

 だけど、実際に起こっている以上、信じざるを得ない。

 昨日、たまたま見た夜開眼同士の小競り合いでは、互いに猛スピードで殴り合い、石灯籠が発泡スチロールのように粉々になっていた。

 夜開眼はボクらが呼ぶ吸血鬼が、一番近い概念だと思う。

 日の光に弱いが、怪力無双でそれぞれが特殊な超能力を持つという。

 おとぎ話のような存在――

「っていうか、やっぱり王子とか納得できないよ、まだ、生贄として捕まったとかならわかるけど……いや、ホントは生贄(いけにえ)で騙されてるんじゃ……」

「馬鹿の考え休むに似たりだな。説明しただろう。あくまでお飾りだと。単に儀礼的な意味にすぎん」

 言われたけど。

 でも意味がわかんない。

「儀礼儀礼って……そんな事よりいつボクは帰れるの?」

「……いいから、急げ。大夜様の謁見に遅れれば首を刎ねられても文句は言えんからな」

 この話になると、毎回はぐらかされる。

 ……帰さないつもりなのかも……。

 いや、まずは謁見とやらに出て、少しでも情報集めなきゃ。

 悲観するのはそれからでいい。

「知ってるよ。冷酷非情な夜の王さまなんでしょ?」

「わかっていない。二度と人前でそんな事を言うな。遅刻しなくてもお前の首が飛ぶ」

 語気強く、土忌が言う。

 う……確かに、うかつだったかも。

 そうこうしているうちに、巨大な襖の前についた。

「よし、これから謁見室に入るぞ。事前に言った通りおとなしくしていろ。これから先は貴族しかいない。人間を見下しきった、な。だから何も喋るな」

 土忌の緊張が、掴まれた手から伝わってきた。

 生唾を飲み込む。

 いいじゃん。やってやろうじゃん。

 人をこんなとこに呼び出したヤツの顔、拝んでやる。

 やがて襖が自動ドアのように左右に開き、巨大な部屋が現れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ