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夜しかない世界

 ここは、夜しかない世界――夜界(やかい)

 人間の住む世界――こちらでは昼界(まひるかい)と呼ぶらしい――と、隣り合わせ、そしてほとんど交わることのない世界。

 そこかしこに並ぶ(とう)(ろう)の明かりと、永遠に沈まない月が照らす薄闇の世界。

 あたり一面の鳥居が埋め尽くす幽玄の世界。

 そして、夜開眼(ナイトメア)と呼ばれる人と同じ姿の、でも恐るべき力と長大な寿命を備えた種族の支配する世界。

 そんな世界に、ボクは居た。

 ただの人間であるボクが。

 ボクの名前は、(かがみ)雛菊(ひなぎく)。十五歳の高校生。

 そりゃまあ、男っぽい所はあったと思う。

 母さんは男の子を欲しがってた反動から、ボクが男っぽい事をすると喜んだ。

 だから最初は母さんを喜ばせようとして始めた男ゴッコが、気付けば自分の地のようになっていた。

 ……だけど。

「早くしろ。謁見(えっけん)に遅れるぞ王子」

 なぜボクが王子なんだ。

 百歩譲って、異世界に引きずりこまれた所まではいい。

 いや、良くはないけど、こんな世界が実在するのなら、そういう事もあるんだろう。

 でも、王子っていうのはどういう事だ。

 花も恥じらう女子高生をつかまえて、王子ってなんだよ。

「いい加減にしろ。タイも一人で結べないのか」

 背を向けたまま長身痩躯、黒髪の男――土忌(どき)の奴が、こっちの気も知らずに言ってくる。

 従者だかなんだか知らないけど、ヒトの自室に勝手に入ってきて、急に着替えろと言ったかと思えば、乙女の着替えだって言うのに背を向けるだけで出て行こうともしないとんでもないヤツだ。

 自分は着流しみたいなフツーの服だからいいだろうけどさ。

「う、うるさい」

 男装はしたことはあるけど、自分でタイを結ぶ機会はほとんどなかった。

 クラスメートが面白がってボクでネクタイを巻く練習した事ならあるけど。

「仕方ないじゃないか。ボクは女だぞ」

「じゃあリボンなら巻きなれているのか?」

「うっ……!」

 あんまり、無い。

「ち、違う。ここの服の構造がおかしいんだ。和服と洋服が混ざったみたいな……すごく着にくいんだよ!」

 シックでタイトな服の上に、陣羽織(じんばおり)みたいな羽織を着るのが正装らしい。

 だからタキシードに合わせるようなズボンに、ワイシャツとチョッキを着ているところ。

 それでいてチョッキはボタンじゃなくて小さな帯三つで締める構造になっていて、すごく面倒。

 このタイもネクタイにしては短いし、いまいち巻きにくい。

「話をすり替えるな。……いや、もういい。俺が巻く」

 こっちの事なんておかまいなしに振り向いてきた。

 ボクがシャツの前を閉じてなかったらどうするつもりだったんだ。

「ちょっ……」

 土忌は、勝手にボクの手から黒いタイをひったくると、手際良く首に巻いてしまった。

 巻かれて気付いたけど、これ前で交差して止めるタイ――クロスタイ、だっけ――だ。

「よし、行くぞ」

 土忌の奴がそのままボクに羽織を被せて手を引いた。

「も、もう! 自分で歩けるし!」

 何なんだろうコイツ!

 従者とか下僕とか言う割に、全然かしこまらないし偉そうだし。

 イケメンだからって何でも許されるって思うなよ。

「がるるる……」

 歯をむき出しにして睨む。

「何だサルの真似か。上手いじゃないか」

「ライオン!」

 もー! こいつ、もー!

 ……もういいや。

 とにかく謁見とやらに行かないと。

 障子(しょうじ)(ぶすま)を開けて、赤い絨毯が敷かれた長大な廊下に出る。

 廊下の左右にはたくさんの障子に、石灯籠。

 それでいて上にはシャンデリア。

 やっぱりめちゃくちゃな世界だ。

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