十三番目
数日後。土忌の手当てのおかげでようやく立てる程度に回復した頃、ボクは再び血天呼び出しを受けていた。
あのだだっ広い謁見の間の奥に、血天が腰かけている。
自分の息子をたくさん無くしたというのに、やっぱり退屈そうに、気だるげだ。
ボクはまだ一人で歩くのには難儀しているので、土忌とキョウが両側から支えてくれていた。
それが、心強い。
血狐のヤツも、謁見の間の片隅から見ているみたい。
「……フン、薊を殺したか」
「正当防……」
「構わん。人間如きに負ける者が悪い」
こちらの言葉も聞かず、面倒そうに言う。
「それより、貴様、玻璃ノ剣を扱えるそうだな」
「ハリノケン?」
「玻璃は硝子。透明な剣の事だ」
土忌が耳打ちしてきた。なるほど、なんか日本史の教科書で見た気がする。玻璃とか瑠璃とか。
「それが何?」
「祝福されし王子、太陽を束ねし剣持ちて全てに打ち勝たん。初代大夜の遺した予言だが……この王子とは、十三番目ではなく貴様の事なのか? ククッ、なんの冗談だ」
太陽を束ねし……剣。
確かに、薊は太陽に焼かれるように死んだ。
キョウが作った剣は、太陽の力を秘めてるって事……?
「夜開眼に太陽の輝きは強すぎて見えぬ。触れることも当然能わぬ。人の子の前にその剣が現れたも、運命というヤツか」
くつくつと笑う。
なんとなくコイツがわかってきた。
とにかく飽きてるんだ。
長い長い寿命の中で、あまりに強すぎて身の危険もなく、ただただ飽きてる。
コイツがボクの召喚を許したのも、予言とやらを信じたからじゃない。
退屈しのぎの余興の一つだったに違いない。
そう考えると、なんだか怒りが込み上げてきた。
「別に殺しても良かったが……まぁ放っておいた方が倦怠を紛わせられそうだ」
……ああ、そうだ、と血天。
「王子どもが死んだのでな。喜べ。お前をその代わりにしてやる。どうせ誰であろうと余の代わりなど務まりはせぬ」




