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太陽

「やめなさい! やめないと……」

 キョウが大粒の涙を零しながら叫び、薊の腕にすがりつく。

「やめないとどうするのです? 貴方に何ができる? 私はね、下賤な者も嫌いだが、貴方のように貴族でありながら何の能力も持たぬ出来損ないも大嫌いなのですよ」

「ううっ……!」

「悔しかったら武器の一つでも作ってみるといい。ハハハハ!」

「ぐあああああああっ!!」

 笑いながら、今度はボクの左足に深く刀を突き刺してきた。

 遠くなる意識の向こうで、斬られるのも構わず必死の形相でこっちに向かって来ている土忌が見えた。

 不機嫌な顔で黒装束を蹴散らして向かってくる血狐が見えた。

 そして、絶叫しているキョウが見えた。

「ああああああああ!!」

瞬間、キョウの前で、光が爆ぜた。

 プリズムのような煌めきが、集束して結実する。

 それは、ガラスの透明さと、水晶の輝きを併せ持つ、美しい剣となって宙に現れた。

 だけど、その剣は他の誰にも見えていないようだった。

 ボクは、頭が焼けつくような激痛の中、右手をのばし、その剣を掴んだ。

「見ろ。これほどに脆弱(ぜいじゃく)で己の身すら守れない人間が王子だと? あり得ぬ!」

 薊はすがるキョウを突き飛ばすと、刀をボクの足から引き抜き、振り上げた。

「さぁ、死ぬがいい」

「うおおおおおっ!」

 そのガラ空きになった胴を、ボクは思い切りガラスの剣で切り裂いた。

「……は?」

 薊は、自分の腹から真一文字に噴き出した鮮血に驚愕の表情を浮かべた。

 のみならず、その傷口が発火した。

「ぐああああっ!? な、何が起きた!?」

 呻き、たたらを踏む薊。

「あ、熱い! 太陽に焼かれるようだ!? 何だこれはああっ!!」

「キョウは出来損ないなんかじゃない……見えなかっただけ(、、、、、、、、)なんだ!」

「なん……だと?」

「これが、キョウの生み出した剣だ!!」

 薊の血を受けて、ガラスの剣の刀身が露わになっていた。

 赤く血に染まるガラスは、妖艶なまでに美しい輝きを放っている。

「えっ……これを……私が?」

「バッ……バカな……よくも……貴様ァ!!」

 腹部を炎に包まれたまま、怒り狂った薊が刀をキョウに向ける。

「させるか!」

 ほとんど体当たりのように突っ込んで、ガラスの剣を薊の胸に突き刺した。

「ぎゃっ、ぐわあああああああっ!!」

 同時に剣が消え、代わりに薊の全身から炎が噴き出した。

 太陽の輝きに似た、圧倒的な火力が薊の体内から爆発する。

 薊は、黒装束の燃えカスだけ残して、文字通り灰となって消えていた。

「……勝っ……た?」

 ぺたりと、その場にへたり込む。

「ぐっ」

 すると思い出したかのように、肩と太ももから激痛が襲ってきて、ボクの意識はそこで途切れた――

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