薊
黒装束の体がびくりと跳ねる。
観念したのか、黒装束は顔を覆う頭巾を外した。
そこから現れたのは、元老とか言っていたあのハゲオヤジ。
「な……薊様……なぜあなたが」
「フフン、頭が悪いなドブ犬。僕に継承権はない。鏡にもね。あるのは十三番目だけさ。だからこそ、アイツを呼び戻すには鏡が邪魔だ」
「……その通り。わかっているなら邪魔は控えて頂きたい。これは国政に関わる事なのです」
ハゲオヤジ――薊は再び刀を構えてボクに向ける。
「何自分が正しいみたいに言ってんの? おかしいよね? その言い分が通るなら暗殺なんてしなくていいもんね」
「……」
「お前、元老のくせに元老院通さずに事を図っただろ。よっぽど都合の悪い事が決まったのかな? しょせん元老院なんてお飾り。大夜には逆らえないもんね?」
いたぶるように、血狐が言う。
「言えないなら言ってやろうか。それは父さんがきっと鏡を――」
「人間に王位継承権を与えるなど! あってはならぬ事!」
薊は顔を真っ赤にして叫んだ。
「は?」
血狐を除く全員の目が驚愕に見開かれる。
「例え、十三王子を呼び戻すまでの繋ぎに過ぎぬとしても、下賤な人間がその座に収まるなど許されぬ! ただの一瞬も許されぬ!」
「ああ~やだやだ。つまんないプライドに縛られた貴族どもは滑稽極まりないね」
「高貴なる血の誇りを失った貴方にはわからない!」
吠えるように薊は言った。
心底くだらなそうに血狐が肩をすくめる。
「……事情はわかった。わかったが……鏡を害すというなら俺が許さん」
土忌が骨の剣を手に、前に出る。
「フン……貴様も下賤なガ族か。引っこんでいろ」
薊が指を鳴らすと、黒い影が次々部屋の中に飛び込んできた。
数は十以上。それらは全て黒装束に身を包み、ナイフで武装している。
「ちっ、私兵か。用意のいい事だね……」
「くそっ! 逃げろ鏡!」
あっという間に血狐と土忌は取り囲まれる。
二人は多分相当に強いんだと思う。決して黒装束集団に負けていなかった。
でも、数の差は大きい。
入り口側は大混戦で、とてもこっちを助けになんか来れないだろうし、こちらからそれを抜けるのも無理だ。
そして、奥に逃げようにも、薊は奥側にいる。
ボクにもキョウにも戦うどころか武器もない。
絶体絶命。
「……だからって!」
ボクは拳を固めた。
「か、鏡様! 危険です!」
あろうことか、キョウはまたボクをかばおうと前に出る。
その肩を掴んで脇によける。
「キョウ、ボクはキミにも、みんなに守られてばかりだった。だからこそ、ボク自身が戦う意思を見せなくちゃ、ズルすぎる」
流されるだけなんてゴメンだ。
そしてそのせいで他の人が傷つくのは、もっとゴメンだ。
「ほう、卑しき輩にしてはいい覚悟だ」
薊はにやりと笑い、刀をフェンシングのように突き出した。
咄嗟に身をひねったけど、とてもかわしきれるものじゃない。
「ぐうっ!」
左肩に刀が突き刺さり、激痛が脳を走る。
「鏡様! あ、貴方なんて事を!」
「無駄に抵抗するからだ。おとなしくしていればひと思いに殺してやったものを……」
「あああああっ!!」
言いつつ、刀をぐりぐりとねじ込んでくる。
何が……ひと思いに……だ。
楽しんでる……くせに!




