黒装束
「あのね、僕は王位なんて興味ないんだよ。楽しければいいのさ。……そういう意味じゃ、お前は面白そうだ。何なら僕の小姓にしてやってもいいけど?」
「何だよ胡椒って。もしかしてバカにしてる?」
「……知性は足りないみたいだね」
「あ、それは絶対にバカにしてる!」
もう、どいつもこいつも!
いや、そんな事より、ケガしたキョウだ。
「キョウ、大丈夫かい?」
「は、はい。かすり傷です……」
彼女を抱き起こす。
言葉とは裏腹に、傷は決して浅くない。
ボクの羽織を引き裂いて傷口に巻きつける。
なかなかうまく破れずに、気づいたらボクの服はずたぼろになっていた。
――と、そこに、
「何の音だ! 大丈夫か!」
土忌が飛び込んできた。
そして、ボクたちのぼろぼろの着衣を見て、
「血狐! 貴様、鏡たちに何をした!」
怒りに燃える瞳で血狐に飛びかかった。
その手のひらから太刀の如き骨の剣を生み出し、一直線に斬りかかる。
「……ドブ犬が」
血狐は髪を引き抜き、血で染めて扇に作り替え、その血扇で刀を受け止める。
「いい加減死んどく?」
扇は複数のナイフへと変わり、その切っ先を土忌に向け――
「ちょっと待った!! 土忌、違うってば!」
「うるさい! どいてろ!」
二人は超人的な動きで斬り結ぶ。
「だからそんな事やってる場合じゃないってば!」
そうこうしているうちに崩れ落ちた灯篭の影から、黒装束が立ち上がった。
ダメージは、ほとんど見られない。
あんなに強烈に石灯籠に叩きつけられておいて、とんでもないヤツ……!
「……む」
やっと土忌も黒装束に気付いて血狐との小競り合いを止めた。
ちょうどボクを挟んで部屋の入り口側と奥側で視線が交差する。
「……」
黒装束は視線を切り、刀を握りしめてボクの方へ寄ってくる。
「土忌! 血狐じゃない! コイツがボクらを襲ったんだ!」
「何だと! 貴様何者だ!」
黒装束は答えない。
「フン、正体を隠したってムダさ。ドブ犬にはわからないみたいだけど」
血狐がにやにや笑いながら言う。
「ねぇ、薊」
「……!」




