手紙
「……俺の事などどうでもいいだろう」
「いいわけないだろ!」
「うるさい! お前は自分の事だけ考えてろ! いいか、俺は情報を集めにまた出てくる。絶対にここを動くなよ」
怒鳴りつけるようにそう言って土忌は部屋を出て行った。
胸が、急に締めつけられる思いがした。
「……何で、何でそこまでしてくれるんだよ……。ボク……あいつの事なんにも知らないのに……」
「土忌様は……きっと、鏡様とご自分を重ねているのでは、ないでしょうか」
おずおずとキョウが言う。
「えっ?」
「あの方は、昨日、鋭い爪で戦っておられました。あれは、血天様と敵対して滅ぼされたガ族の能力です。……おそらくは戦奴としてここにいるのではないでしょうか」
「アイツ……そんな事、一言も……」
いや、ヒントはあった。
アイツは「お前もツイてない奴だな」って言ったじゃないか。お前も、って。
頭が鈍器で殴られたみたいにくらくらする。
従者?
夜開眼たちからすれば、ていのいい奴隷じゃないか。
それなのに……ボクは、そんなことも知らずにアイツにいつも甘えて……。
だけど、アイツはいつも、涼しい顔で助けてくれた。
「……カッコつけて、バカ」
それから、しばらくキョウと話して過ごした。
「あれ?」
ふと、襖の隙間から封筒が差し入れられているのに気付いた。
さっきまでは絶対に無かったはずだ。
「何だろ?」
封筒を開けてみると、「急ぎ、灯篭の間に来られたし。土忌」と書かれた紙切れが出てきた。
「灯篭の間? キョウは知ってる?」
「は、はい。城の灯篭の明かりを管理する大灯篭が置かれた部屋で……たしかすぐ近くです」
「……何の用なんだろう?」
考えても仕方ないので、とりあえず向ってみることにした。




