月の道
十二王子。
それは、その名の通り血天の血を引く十二人の王位継承者。
そのうち、血狐だけは過去に大きな事件を起こしたらしくて継承権を持たないそうだ。
そして、その血狐以外の全てが全員死んだという。
「……で、それってどうなるの?」
故人には申し訳ないけど、面識も全く無いし、なんの感慨も湧いてこない。
「いいか。よく考えろ。夜開眼は長命な分、子は滅多に生まれない。そんな貴重な王位継承権を持つ者が全滅し、残る王子は三人」
「三人? 血狐とボクだけでしょ?」
「よく考えろと言っただろう。昼界に送られた第十三王子がいる」
「あっ」
言われてみれば確かに。
「そして、継承権を持つのは第十三王子だけだ」
「じゃあ、その人を呼び戻せば……あっ」
「そういう事だ。呼び戻すとなればお前の立場は非常に危うい。王子が帰還したとして、わざわざ人間一人のために送還の儀まで行って帰してやるとは到底思えん」
あれだけ帰れるかを濁していた土忌がはっきりそう言うくらい、状況はひっ迫しているという事。
送還の儀……それがボクが戻るために必要なものか。
「そんな……鏡様はどうなってしまうのです?」
「わかりません。今、大夜様を交えて元老院で話し合いが続いています。考えられる案は二つ、一つめは第十三王子を呼び戻す事、二つめは血狐の継承権を復帰させる事……」
土忌のヤツ、キョウには敬語なんだ。なんだよもー。
でも、土忌が何を言いたいかわかって来た。
「……あのさ、十二王子は何で死んだの?」
「……どうやら、昨晩の満月の儀の情報が漏れ、何者かに襲われたらしい」
夜開眼は、儀礼を重んじる。
満月の儀もその一つで、満月の日に集まり、儀式を行うのだそうだ。
これは、初代大夜・血紺が新月の日に現れ、満月の日に敵を平らげ、国を作った事に由来するらしい。
だから、王位継承者は月に一度満月の光を浴び、血紺の加護を願うという。
重大人物が集まるのだから、当然警備が厳重だし、場所もよほど高位の者にしか明かされない。
「……血狐が漏らしたって言いたいわけだよね」
ボクの言葉に、土忌は小さく頷く。
「あくまで可能性だ。この件で得をする者は一人しか居ない。王位継承者が全滅して得をする者がな。それが血狐というだけ……あくまで推定無罪だが……」
「……でももしそうなら?」
「次に狙われるとしたらお前だ。お前に継承権が付与されるのはまずないだろうが、可能性を全て消し去るのは自然な事だ。今、第十三王子は向こうで手が出せないしな」
「……だよね」
想像はついていたけど、実際言われるとショックだなあ……。
日本で十五年生きて来て、命を狙われた経験なんて一度もない。
「……とにかく、何か起こる前にお前をなんとか帰さねば」
「えっ」
帰すって、今言った?
「か、帰れるの……?」
「……出来る。この城の最上層に月の道と呼ばれる祭壇がある。新月の日にのみ、昼界とそこは繋がる。半月後、新月の日に儀式を行えば……」
「帰れる……!」
「お、お待ちください」
そこに割って入ったのはキョウだった。
「キョウ……」
「いいえ。誤解なさらないでください。私、鏡様の無事が何より大切です」
少し寂しそうに、言った。
「……でも月の道は、最重要施設と聞いています。そこを勝手に使って、土忌様……貴方はどうなるのです」
「あっ……!」




