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一級冒険者

頑張って早めの投稿です。

 この世界にて最強とは誰か。

 そういった話で出てくる人物の名は答える者によって異なる。

 そもそも何をもって最強とするのか。

 それが明確に定まっていない限り、答えなど一生出ないだろう。

 しかしそれが剣の道に関するものであれば、殆どの者が同じ人物の名を挙げる。

 『剣神』と呼ばれたその人物は、それ程までに強かったという。


 日常を生きるアルフレッドにとって最強などというものは何をおいても金であると考えている。

 金がなければ生活出来ない。

 金無しで生活出来るほど、アルフレッドは野で生きる術を知らない。

 それでよく冒険者などと言えるなと非難されるだろうが、十年もの長い間十級に居続けているのは伊達や酔狂ではない事実であり、殆ど街から出ていないのだから仕方ない。

 傍から見ればただの平民とそう変わらないアルフレッドは、珍しく依頼を受けず街の人ごみに紛れていた。

 今日は街全体が活気に満ちている。

 その理由は至って単純で、この世界に数人しか存在しない一級冒険者の一人がこの街に来ているのだそうだ。

 アルフレッド自身は大した興味は無いのだが、これのせいで今日は依頼自体がとても少なく、止む無く暇を持て余すことになってしまったので、適当に見物客に交じってその姿を一目くらい見ようと考えたのだった。


「止めとけばよかった」


 浅はかな考えだったとアルフレッドは今更ながらに後悔していた。

 世界で数人しかいない一級冒険者。

 各地の強力な魔物を討伐するために何処か特定の地に留まることが無い彼らを、折角自分たちの住む街に来ているのだからと一目見に行きたいと思う事は当然と言えよう。

 しかしその量が尋常ではなかった。

 朝一番に冒険者組合に行った時はまだいつもの街の雰囲気だったからと油断していた。

 今や広場にいるという件の冒険者見たさに野次馬が集まり、アルフレッドは帰る事も出来ず流れに身を任せるしかなくなっていた。

 こんなに集まっていて皆ちゃんと見れているのか疑問であるが、まぁ一種のお祭り気分でこの現象自体を楽しんでいたりするのだろうか。

 だが、この状況を素直に喜ぶことは少しだけ間違いである。

 一級冒険者がこの街に現れたという事は、それ相応の危険がこの近くに迫っているという事でもあるのだから。


「「「おぉおおおおお!!!」」」


 広場の方向から何やら歓声が聞こえて来た。

 冒険者が何かをしているのだろうかと思い、アルフレッドは少し強引に人ごみを掻き分けて広場の方に向かっていく。

 何とかして広場まで辿り着くと、広場の噴水前で二人の男が向かい合って剣を構えていた。

 先程の歓声はこれのせいかとアルフレッドは納得し、同時に他の者と同様に少し楽しみであった。

 片方が一級冒険者であり、片方が挑戦者なのだろう。

 装備している武器や防具を見ただけでどちらが一級冒険者なのかは一目瞭然であり、既に挑戦を終えて伸びている敗者たちが挑戦者の背後で倒れていた。

 一級冒険者は長剣を右手に持ち、刃は下を向いており、あまり構えているようではなく、対する挑戦者は緊張しているのか両手で構えている剣が細かく震えているのが見て取れた。

 因みに一級冒険者は挑戦者を甘く見て手加減しようとしているわけではない。

 あれが彼の正式な構えであるのだ。

 一級冒険者、カイン。通称『剣聖』。

 『剣神』が扱ったと言われる三つの剣術、長剣術、両剣術、双剣術をそれぞれ継承した『剣神』が生涯に持った三人の弟子、後に『剣聖』、『剣王』、『剣帝』と呼ばれるようになった彼らの技術を習得した者の中から唯一その名を名乗る事を許された者の一人、それが今この広場にいる観衆の全ての視線を集めている人物、カインである。

 数人しかいない一級冒険者の中の三人はこの『三剣』であるらしいが、話によれば『剣帝』はそろそろ世代交代の時期に差し掛かっていると聞く。

 既に誰が継ぐかは決定しているようだが、一体どんな奴がなるのやら。

 一介の冒険者以下のアルフレッドにとっては程々に興味はあるが、どうしても知りたいほどの事でもなかった。


「「「おぉおおおおお!!!」」」


 先程聞こえて来たものとほぼ同じ歓声が聞こえて来たと思えば、アルフレッドが考え事をしている内に勝負が決まってしまったらしい。何という早業だろう。いや、もしくは相手が弱過ぎただけだろうか。


「誰かもっと手応えのある者はいないのか!」


 当の本人も相手の弱さにうんざりしているようで、観衆に聞こえるくらい大きな声で叫んだ。

 しかしその声に答える者は現れる気配がなかった。

 今までは勢いで挑んでいっていた街の腕自慢達も、あれ程素早く勝負を決められる姿を見てしまえば物怖じしてしまうのだろう。

 潮時か。

 アルフレッドが人ごみを掻き分けて宿に帰ろうとした時、『剣聖』の前に堂々と一人の女が現れた。


「『三剣』が一人、『剣聖』とお見受けする!私は次期『剣帝』候補筆頭、エリカ・ディオーラ!いざ尋常に、正々堂々の勝負を申し込む!」

「ほう、君が……良いだろう。『剣聖』カイン・フォルクス。その勝負、受けて立とう!」


 対峙する次期『剣帝』候補筆頭と『剣聖』、その稀に見る対戦カードに観衆は先程よりも強く湧き上がる。

 向かい合う二人の歳は大体20代中頃、肉体的全盛期であり、技術面ではまだ先代に劣るであろうといった所。

 この勝負が意味する事、それは今世での『三剣』での最強はどの剣術となるのか、その序章という事になる。

 ここに『剣王』がいないことが少々悔やまれるが、この勝負を見れるだけでも儲けものといった所だろう。

 しかしそれよりもアルフレッドには気になることがあった。

 それは、エリカと名乗る次期『剣帝』候補筆頭の姿に見覚えがあり、つい先日串焼き屋に文句をつけていた女だったのだ。

 まさかあの女が次期『剣帝』候補筆頭などとは思いも寄らず、アルフレッドはエリカの登場に二度見、三度見をしてしまったくらいであった。


「いつでもどうぞ、レディファーストだ」

「そう、なら……ッシ!」


 両者が構えを取ると、最初に仕掛けたのは言葉通りエリカの方であった。

 『剣帝』の受け継いだ『剣神』の双剣術はスピードと手数が売りであり、動き出せばその猛攻を止めることは至難の業である。

 対する『剣聖』の長剣術はバランスの取れたこれぞ剣術と言わんばかりの真面目な剣。

 手数の優るエリカの双剣の乱舞は四方八方からカインに襲い掛かるが、それをたった一本の長剣と体捌きで凌ぎ切っているカインの力量は流石『剣聖』というべきであろう。

 これは、持久戦となって最終的にカインに軍配が上がるだろう。

 エリカの実力を侮るわけではないが、相手を見て戦術を選んでいるようには見えない。

 ただ目の前の強敵を倒したいという気持ちだけで剣を振るっているように見える。

 対するカインは最初から殆どその場から動かず、無理に攻勢に出ることなく、最小限の動きで攻撃を凌ぐことにのみ注力している。

 結果として先にバテるのがエリカというのは自明の理であろう。

 もうこれ以上見ることもないかと、アルフレッドは二人の勝負に熱中している観衆の間を縫うように広場から遠ざかり、人ごみの中から脱出した。


「『溝鼠』には退屈な勝負に見えたか?」

「……俺にはよく分からん」


 宿で休むためにふらふら歩いていると、不意に背後から声をかけられた。

 聞き覚えのある声だったのでアルフレッドは振り返ることなくそのままで答えた。

 あの勝負の結果は予想出来るが、それが退屈かどうかはアルフレッドには分からない。

 見る人によるだろうし、アルフレッド自身としてはカインは堅実で、エリカは奔放、足して二で割れば丁度良いのではないかと思うくらいだ。


「貴様なら、どうする?」

「あんな二人に勝負を持ちかけられたら……泣いて謝るかな」

「はっはっは!所詮『溝鼠』ということか!」

「当たり前だ。俺の武器は掃除用具だぞ?」

「違いない!」


 それだけ言い残してアルフレッドの背後から人の気配が消えた。

 一応確認のためにアルフレッドが後ろを振り向いてもそこには誰もおらず、それ以上は気にしない事にしてアルフレッドは宿へと戻って行った。

何だかアルフレッドが強キャラ感出てますが、大丈夫です。

彼は私たちの期待を裏切りません、雑魚です。

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