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エルフの薬師

累計アクセスが200を越えました。

ありがとうございます。

 以前、ドワーフについて語った事があっただろう。

 小さく、それでいて力が強く、手先が器用なとても個性的な種族だ。

 そんなドワーフ以外にも、この世界にはヒューマに姿が似ており、知能を一定以上持つ亜人種と呼ばれる種族が存在する。

 その中にはドワーフ以上に代表的な種族がいる。

 長く尖った耳を持ち、魔法の扱いに長け、亜人種の中では最も長命な種族、その名もエルフ。

 魔法は生まれながらに適性を持っていなければ扱うことの出来ない特殊な力だ。

 ある者は火を操り、またある者は水、風、様々な、奇跡とも表現すべき事象が発生する。

 ヒューマの中にも適性を持つ者はいる。

 しかしその数は少なく、適性を持つだけであれば半数程、戦闘で使える程強い力を持つ者となるとまた更に少なく、大体適性を持つ者の中で十人に一人いれば良いくらいだという。

 当然の事ではあるが、アルフレッドには適性は無い。

 もし持っていたならばアルフレッドも十級などではなかっただろう。

 魔法の適性があるだけで冒険者の階級は高くなり、戦闘で使用出来る程のものであれば最低でも五級以上が約束されているとか。

 少し話を戻そう、今はエルフの話。

 アルフレッドが何故突然エルフの話をし始めたかと言えば、そのエルフが今からの目の前にいるからであった。


「また世話になる」

「いえ、仕事ですんで、報酬さえ貰えれば大抵の事は喜んでしますよ」

「有り難い」


 エルフの外見的特徴である長く尖った耳を持つ、正真正銘エルフの彼女はティータさん。

 貿易都市ならではの、この街に様々な物が流れてくる事から、古くからこの街で薬屋を営んでいる薬師だ。

 今回アルフレッドが受けた依頼は薬の調合の手伝い。

 しかも今回の依頼はアルフレッドへの指名依頼であり、報酬がとても良い。

 何故このようにアルフレッドが呼ばれるのかと言えば、それは彼の嗅覚に寄るところが大きい。

 地下水路で平然としていられる程アルフレッドは悪臭に強い、いや、慣れていると言った方が適切だろう。

 そしてこの薬の調合もまた、凄まじい臭いが伴う作業であり、そういった人物でなければ鼻が潰れてしまう危険がある。

 故に、下手に誰かに頼める依頼ではないため、アルフレッドに指名依頼がいくのは道理といえる。


「本当であれば娘に手伝わせるんだがな……」

「まぁ仕方ないですよ」


 ティータさんは見た目によらず一人娘がいる。

 いや、見た目に惑わされてはいけないだろう。

 彼女とはこの十年間の間に何度も会っているが、アルフレッドの記憶では見た目が全くと言っていいほど変わっていない。

 しかしそれもエルフという種族であれば当たり前だろう。

 長命な彼女らは老化がとても遅く、老け始めるのは100歳を越えてからだという話なのだから。

 故にティータさんはその若々しい姿とは裏腹に、アルフレッドの一回りも二回りも、もしくはそれ以上の年齢であってもおかしくないのだ。

 アルフレッド自身、聞くのが怖くて未だ彼女の年齢は不詳のままだ。

 そしてその彼女の娘であるが、こちらに関してはアルフレッド自身しっかりと推定年齢が把握出来ている。

 何故ならその子の幼少期を知っているからだ。

 アルフレッドがこの街で冒険者を始めた頃、その子はまだ2、3歳であり、十年経った今では12、3歳くらいになっている。

 そんな彼女の娘が何故薬の調合を手伝わないのかは理由があり、それはエルフの魔法適性にあった。


「お母さん!またそんな『溝鼠』なんか雇って!」

「フィーナ!またそんなこと言って、失礼だろう!」

「そんなの雇って薬なんか作らなくても、私の魔法で治せばいいじゃん!ベーっだ!」


 突然調合室に現れたフィーナと呼ばれた少女はアルフレッドに向けた暴言を吐き捨て、ティータさんの叱責を意にも返さずそのまま何処かへ行ってしまった。

 ティータさんは申し訳なさげにアルフレッドの顔色を伺うが、アルフレッドにとって暴言を吐かれる事など日常的な事であり、何よりフィーナは昔からアルフレッドに対してあのような態度を取っていた。

 今に始まったことではないため、アルフレッド自身特に気にしてはいなかったためそのまま作業を続行する。

 先程自分で言っていたが、フィーナは魔法で傷を癒すことが出来る。

 エルフの中でも少数しか使うことの出来ない稀少な才能。

 回復魔法と呼ばれるその特殊な魔法は、使い手によってはどのような傷、病をも一瞬で治すことが出来るという。

 しかしフィーナのそれはそこまで強力なものではなく、主に外傷を治すことが出来るといったもの。

 その力を持っていることが分かってからであろうか、フィーナはティータさんの作る薬を無駄だと言い張り、先程の様に自分の魔法で治せばいいと言うようになった。

 今でもその考えは変わっていないらしく、日々魔法の訓練に勤しんでいるらしい。

 そのため、ティータさんは人手不足から今日の様な悪臭に耐えながら行う調合の際はアルフレッドを度々呼ぶのだった。

 フィーナとしてはその事も気に食わない様であるが、それならば自分で手伝えばいいだろうに、とアルフレッドはいつも思っていた。


「あの子がもし、この店を継がないなら、そろそろ潮時かもね」

「フィーナは何て言ってるんです?」

「……冒険者に、なりたいんだってさ」


 調合が一段落し、換気のために窓を開け放ってゆっくり椅子に座って休憩していると、不意にティータさんが小さく呟いた。

 聞こえてしまった故に、アルフレッドはその原因となっている人物について詳しく聞いてみると、まさかの答えがアルフレッドの耳元に届いた。

 ティータさんとしてもこの事を、それもアルフレッドに言う事は避けたかったようだが、誰かに聞いてもらいたい気持ちが優ったのか、申し訳なさそうに口を開いた。

 それを聞き、しばらく何も言えずにいたアルフレッドに、ティータは少し語り始める。


「回復魔法ってさ、傷や病を一瞬で治すことが出来る代わりに、出来るだけ早く魔法をかけないといけないって条件があるんだ。傷を負ってから時間が経てば経つ程治りは悪くなり、一日でも経ってしまえば魔法の効力は激減する。病なんてのは傷みたいに目に見える変化が分かり辛い。いつから発症していたなんて分かる方が少ない。だからフィーナは、最も傷を負いやすい冒険者の傍にいることで、自分の力を最大限生かそうとしているんだ」

「そうですか」

「……反対、しないんだね」

「他人の人生をとやかく言う資格は、俺には無いので」


 アルフレッドは分かっていた。

 きっとティータさんはアルフレッドが自分と同じようにフィーナの考えを止めさせようという判断をするだろうと期待していた。

 しかしアルフレッドはその期待には応えられなかった。

 アルフレッドは底辺の十級冒険者。

 対するフィーナは冒険者となった時点で回復魔法を重宝され、五級以上は確定するだろう。

 いずれ自分よりも上に立つであろう存在に対し、アルフレッドは何も言うことが出来なかったのである。

 何より彼は十級と言う立場に甘んじている。

 目標がある、信念がある者の歩みを止めることが出来る程、彼女らにとってアルフレッドの言葉に重みは感じられないだろう。

 ティータさんはアルフレッドの返答に少し気分を落とすが、気を取り直して次の薬の調合の準備に取り掛かった。


「今日はありがとう」

「いえ、仕事ですので。またよろしくお願いします」

「ふふっ、そろそろ十級で居続けるのは止めたらどうだい?」

「俺は死ぬまで十級のままですよ」

「……そうか」


 作業が終了し、店の前でティータさんから完了札を受け取りながらそんな会話を交わした。

 アルフレッドの事情を知りつつもそんな事を言うのは、ティータさんなりに彼を心配しての事であったが、昔に比べれば幾分かマシであることは確かであるので、今のところは別段とやかく言う事は無かった。

 十年前の彼を、アルフレッドのあの姿を直に見ている彼女は、今のアルフレッドが一応安定していると分かっているからだ。

 もう十年だ。十年程度などではない。もう、十年なのだ。

 いつ、また再び、アルフレッドの笑顔を見ることが出来るのか。

 ティータさんが心配するのはそれだけであった。


「あら、『溝鼠』じゃない。終わったならさっさと帰ってよね。溝の臭いが鼻に染みついちゃうわ」

「ごめん、お邪魔したね」

「えぇ、邪魔過ぎるわ。もう家には来ないでくれる?」

「善処するよ」


 ティータさんと別れてすぐに道端でフィーナと出くわした。

 アルフレッドは適当に会釈だけして去ろうとしたが、よもや彼女の方から声をかけてくるとは思いもしなかった。

 声をかけられれば流石に答えるしかなく、適当に話に合わせて答えていたが、また指名依頼が入った場合はその限りではない。

 というか本気でアルフレッドに来てほしくないのであれば、自らが家業を手伝えば万事解決するというのにそれをしない辺り、アルフレッドは言葉通りにフィーナに嫌われているとは思っていない。

 逆にアルフレッドとしてはフィーナの言葉は反転して聞く様に勤めているため、大体の言葉が好意的に聞こえるので彼がフィーナを嫌っていることは無い。

 何より幼少期から知っている知り合いの娘さんだ、嫌える道理が無い。

 心の中で彼女の言葉を反転させ、「また来てね」なんて言われているように思いつつ、日頃より少しだけ多い報酬を冒険者組合で受け取り、またアルフレッドの一日は終わった。

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