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後日談

あとがき的なものとなります。

「ここが、あの人の墓……」


 とある辺境の山奥に、一人の女が立っていた。

 女の前には足が積み上げられており、簡素ではあるがそれが墓なのだとは分かった。

 名前などは書かれていないが、それが誰の墓なのかを女は知っていた。


「漸く、辿り着いたよ」


 誰もいない場所で、女は墓に向かって話しかける。

 そこに誰もいない事は分かっている。

 そこで誰も聞いていない事は分かっている。

 それでも女は墓に向かって語り出す。


「何から話そうか……取り敢えず『三剣』からにしようか」


 話したい事が山のようにある。

 しかしそれ程長い時間ここにいるわけにもいかない。

 彼女程の存在が、無断でこのような辺境にいる事は許されない。

 そのことが恨めしく思いつつ、女は語る。


「『三剣』は無くなり、『六剣』になったよ。貴方はあまり良い気がしないだろうけど、『神童』の名は未だに残っちゃってる」

「テュミアが『三剣』の復興を目指していたのは……貴方は知らないんだっけ。テュミアは思いの外『亜三剣』の勢力が大きい事に気付いて、潰すよりも吸収してしまおうって考えたらしいよ」

「貴方が死んでからもう十五年、でも十五年程度じゃあまり顔触れは変わってなくて、『六剣』の各流派のトップは殆ど貴方が知ってる人だと思うよ」

「多分、貴方にとってははそんな事どうでもいいよね……きっと気になるのは、『剣神』がどうなったか、そうでしょ?」


 そこで女は一度間を置いた。

 今でこそこの名を口にする事に抵抗を覚えなくなったが、やはり女にとってはあまり好ましい名ではないから。

 しかし報告せねばならないと女は気持ちを切り替え、口を開く。


「エリカ・ディオーラ……今の『剣神』は、エリカだよ」

「あの人、『剣帝』の座を諦めて何処かに消えてる内に別人みたいになってたよ。『剣聖』のカインもそう。貴方と関わってた人はとても変わった」

「戻って来たエリカは凄い勢いで駆け上がっていって、その勢いのまま『剣神』になった。その時にエリカはこう言ったんだ」


『私は剣、私が私である限り、剣が折れる事はない』


「奥義を受けたことが無いエリカがこんな事を言うなんて私ビックリしました」

「それからえっと……五年間?『剣神』としてエリカはその座に居座っています」


 女は墓の裏に回り、墓を背するようにして座った。


「後は何を話すべきなんだろう……街の人たちは元気にしてるよ。でも、去年神父様が亡くなられた」

「神父様の代わりに来たシスターもとてもいい人で、私に良くしてくれたよ」


 一息つき、女は深呼吸をする。

 呼吸を整えると、女は腰に提げていた剣を鞘から抜き放つ。


「……私、あれから冒険者になりました」

「剣を習って、強くなって、いろんな冒険をしました」

「『溝鼠』の話も聞きました」

「私、ビックリしたんです。だって、皆さん『溝鼠』の話をする時、凄いとか、偉いとか、褒め言葉しか出て来ないんです」

「私の知ってる貴方は、とても怖い人で、とても優しい人」

「優しいくせに、私のために悪人を演じてくれていた……私はそう思っています」

「きっと貴方は、私には冒険者なんかじゃなくて、もっと真っ当な職業に就いて欲しかったんだとは思います。その為に神父様の所へ預けてくれたんでしょうし」

「それでも私は冒険者になりたかった……少しでも、貴方のようになりたくて……」


 女は立ち上がり、剣を振り上げ、墓に向かって振り下ろす。

 剣は墓を両断し、音を立てて崩れていく。

 女は涙を流しながら口を大きく開け、叫ぶ。


「私は……我が名はシャーリ―・フォルマン!現『神童』であり、『剣神』エリカ・ディオーラを御前試合にて打ち倒し、次代の『剣神』となる者!」

「そして――」


「――御託は良い。かかって来い」


 シャーリーの叫びを遮る声が、シャーリーの背後から聞こえて来た。

 シャーリーはその声に反応し、即座に後ろに振り返った。

 視線の先にいた人物、それは死んだと言われていたアルフレッド本人であった。


「……驚きはしません」


 確信があったわけではない。

 ただ、信じたかっただけ。

 あの人が、そう簡単に死ぬだなんて、シャーリーには考えられなかったから。

 だから、こんな墓は見たくもなかった。

 しかし、こうなればもう、するべきことは決めていた。

 シャーリーは目元を袖で拭い、目の前のアルフレッドを見つめる。


「十五年もすると、ガキも立派に成長するもんだ」

「……貴方を倒して、貴方に認められてから、私は御前試合に挑みます」

「そうか、だったら、お前に勝ったら俺がその試合に出てみるかな」

「では、いきます!」


 剣を構え、シャーリーはアルフレッドとの間を一瞬にして詰め寄る。

 アルフレッドはそれに反応し、腰に提げた剣を抜き放ち、シャーリーの剣戟を防ぐ。

 鍔競り合いとなり、しばらくの間見つめあう二人。

 互いに何処か笑っているようにも見えた。

 その後も二人の勝負は続き、最後にはただ一人だけがその場に立っていた。


「……これで勝ったなんて、思いませんから」


 真剣で切り合っていたというのに、地面には血の一滴も付いておらず、シャーリーの側にはアルフレッドの影も形もない。

 あるのはただ一つ、壊れたアルフレッドの墓であった。

 遠くの方から馬が駆ける音が聞こえてくる。

 シャーリーを探している者達がこんな所にまで来たということだろう。

 恐らく情報元はテュミア。

 いつまでも気に食わない貴族だが、テュミアがいなければこの場所に辿り着くことは出来なかった。

 それだけは感謝しよう。

 血の付いていない剣を一度払い、鞘に納めると、シャーリーは墓に向かって頭を下げた。


「ご指導、ありがとうございました」


 この日、一世一代の大勝負が御前試合にて繰り広げられた。

 後に、『剣神』はこのような言葉を残した。


『我が生涯に悔いがあるとすれば、未だ師に辿り着けていないことだろう』と。

今までご愛読ありがとうございました。

この作品を完結出来たのは全て皆様のおかげです。

作品についてのメタ話や今後について、活動報告に少しだけ後で書いておこうかと思います。

ではまたどこかで。

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