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20/21

溝鼠

「なん……で?」


 テュミアは目の前の状況が理解出来ず、思わずカップを落としてしまった。

 バロックはそれを見逃さず、カップを空中で掴むが、バロックの視線もアルフレッドへと注がれていた。

 一体どういうことなのか。

 テュミアは思考を巡らせ、どうしてこうなったのかを考えるが、答えは全く出てこなかった。

 しかしこのままではテュミアの考える今後の計画に支障を来たす。

 テュミアはすぐに我に返り、バロックに指示を出す。


「バロック!『剣鬼』の治療を最優先!」

「はっ!」


 テュミアの指示を受け、バロックは即座に『剣鬼』の下へ駆け寄り、状態を確認した。

 『剣鬼』の体に目立った外傷は見当たらないが、脈が弱い。

 状態を確認している内に、バロックは『剣鬼』の足首に引っ掻き傷の様なものを見つけた。

 その傷口は腫れ上がり、紫に変色していた。

 その時点でバロックはこの状況に至った原因を把握した。


「毒か」


 そう呟いたバロックに対し、小さく、か細く、苦しそうな声が答えた。


「ご……名、答……」


 その声を聞いたバロックには近くに座り込んでいるアルフレッドに目を向けた。

 外傷では圧倒的に『剣鬼』よりもアルフレッドの方が致命的であり、未だ意識があることに驚きを隠せない。

 しかしバロックは本当に危険なのは『剣鬼』であると直感的に感じ取っていた。

 バロックが状態を確認している内にも脈が感じられなくなり、呼吸もしていなかった。


「『溝鼠』……やはり貴方は油断出来ない相手のようですね」

「光、栄……だな……」

「解毒薬は?」

「ねーよ……んなもん……ごふっ!」


 血を吐いて今度こそ倒れたアルフレッドを見ながら、バロックは急いで『剣鬼』を担ぎ、屋敷の方へと走り去った。


―――――


「……ここ、は?」


 アルフレッドが再び目を覚ますと、先程までいた屋敷とは違い、簡素な照明がぶら下がっている、見慣れない小汚い天井であった。


「私の部屋よ」

「君は……」


 アルフレッドの呟きに答えたのは、アルフレッドが寝ているベッドに腰掛けている女であった。

 アルフレッドはその女に見覚えがあった。

 屋敷にいた使用人らしき女だ。


「応急処置程度のことはしておいたから、今すぐ死ぬようなことはないわ」

「そうか……ありがとう」


 応急処置程度とは言うが、アルフレッドの傷は致命傷であった。

 呼吸もままならない程の傷をある程度治すとなれば、それ相応の薬か回復魔法が必要となる。

 それを理解しているアルフレッドは彼女に申し訳なさを感じた。


「で、君は俺を殺さなくていいのか?」


 申し訳なさを感じたからこそ、アルフレッドは逃げることをしたくなかった。

 アルフレッドの言葉を聞いて女は驚き、目を見開いた。

 アルフレッドは気付いていた。

 屋敷で出会ってから彼女が常にアルフレッドを憎む気持ちで睨みつけていることに。

 そんな彼女が何故アルフレッドを見殺しにせずに助けたのかは謎であるが、アルフレッドとしてはこの恩を返す一番の手段が己を差し出すこと以外考えつかなかった。


「殺したいわ……私は貴方のせいで人生を狂わされたのよ」

「そうか」


 アルフレッドはこの女との接点を思い出せない。

 つまりそれは自ら奥義を放った相手ではないことを意味する。

 奥義を使った相手ならば、アルフレッドは全て記憶している。

 故にこの女はその縁者であるのだろうとアルフレッドは考えていた。

 それ以外にも自分を憎む相手がいてもおかしくないだろうが、可能性としてはそれが一番だろう。


「でも、殺さない」

「何故?」

「復讐は、何も生み出さないから……」

「……そうか」


 そんな聖人のような答えが返ってくるなど、アルフレッドは予想していなかったため呆気にとられる。

 女はそう言ったきり何も話さず、ただアルフレッドの側にいるだけだった。

 アルフレッドとしても見ず知らずの女がいる状況で無防備に眠れる程肝は座っていないため、横になったまま休むことにした。

 沈黙が訪れてどれ程経っただろうか。

 そんな事を考えていると女がまた再び口を開いた。


「ねぇ」

「なんだ?」

「……『神童』と呼ばれた貴方が、何故今は『溝鼠』と呼ばれ、尚且つ『剣神』の奥義を使えるの?」

「……」


 当然の疑問だろうな。

 アルフレッドは自らの経歴の異様さを自覚している。

 誰でもこんな経歴を知れば疑問に思うだろう。

 しかしこの疑問の答えはとても簡単だ。


「俺も、奥義の被害者だからさ」

「そもそも、奥義って何?」

「……奥義なんて格好の良いものじゃない。あれはただの、自殺行為だ」

「え?」


 そう、奥義など、実際に知っていれば馬鹿らしい技でしかない。

 あれはただの自殺行為。

 『剣神』が生涯の最期、敵に倒されるがために生み出した、小細工。

 アルフレッドの言葉の意味が理解出来ない女に、アルフレッドは何故こんな事をこいつに話してしまっているのかと疑問に思うが、次第にその意味を自分で理解した。


「最強の剣士、『剣神』はその生涯において敗北の二文字を知ることはなかった。これはよく知られていることだが、その『剣神』の最期を知る者は少ない」

「そうね、そんなの気にしたこともないけど、年老いて死んだんじゃないの?」

「違う、『剣神』は戦いの中で死ぬ事を望んだ。しかし自らを打ち倒してくれる相手は結局現れなかった」

「じゃあどうしたのよ?」

「『剣神』は、負けを演じたのさ」

「演……じた……?」

「『剣神』はその圧倒的な殺気により、相手に斬りかかる幻影を見せることが出来る。相手はそれに対して動き、幻影の斬撃を凌ぎ、逆に斬りかかる。するとどうなる?」

「『剣神』本人は無防備で斬られ、相手は勝ったように思える……え、もしかして……これが、奥義?」

「そうだ。そしてその後、『剣神』を倒した者は自分の非力さに絶望する。幻影を実物と勘違いし、無防備な相手に斬りかかっただけの勝利に何も意味はないと悟り、『剣神』との実力差に心が折れる」

「じゃあ、奥義を今世まで伝えたのは『剣神』じゃなくてその相手ってこと……?」


 アルフレッドはその問いに対して頷くのみで答えた。

 奥義の起源は確かに『剣神』であるが、今の形となったのは伝承される度に洗練されていった結果だろう。

 『剣神』は死ぬために奥義を生み出し、伝承者は『剣神』になり得る才能ある者の心を試すために奥義を洗練していった。

 最終的にアルフレッドが用いる奥義とは、結果的に強者が無防備な者を斬り倒してしまうということに帰結する。

 奥義は凄まじい技なのだという勘違い、殺気による幻影の見間違い、自らの力に驕り、我武者羅に力を振るうことによって、斬らなくてもいい者を無残に斬り伏せてしまったという事実。

 これら全ては剣士の未熟さ故に起きることであり、もし相手が『剣神』であれば回避出来ることだろう。

 つまり、奥義とは半端に実力がある程、自らの未熟さを自覚し、斬る必要のない者を斬るために剣を磨いてきたわけではないと絶望し、向上心というものがポッキリと折れてしまう、そういったものであるのだ。

 そしてそれはアルフレッドも同じであった。

 いくら『神童』などと持て囃されていた所で、奥義の前には無力であった。

 とある伝承者を殺してしまったことを境に、アルフレッドの心はへし折れた。

 折れてしまった心を修復する事は難しく、廃人のようになっていたアルフレッドに手を差し伸べて来たのが、別の伝承者。

 そいつから奥義を学び、そいつを殺した事で、今のアルフレッドは完成した。


「どうだ?馬鹿げた話だろう?」

「それで、貴方はこれからどうするの?」


 女はアルフレッドを心配そうな顔で見つめる。

 そんな事を聞かれるとは思っておらず、アルフレッドは一瞬答えに迷う。

 しかし、最終的に答えはいつもと同じだ。


「ここに留まるわけにはいかないからな、また別の街に行って溝鼠みたいに生きるよ」

「そう……」


 アルフレッドの答えに対し、女は悲しげな表情でそう呟くだけだった。

 何故こんな顔をしているのか、そんな事アルフレッドにだって分かっている。

 だが、仕方ない。


「少し、眠る……」

「……うん」


 アルフレッドは自分の体を理解している。

 故に、もう目を覚ます事はないと理解していた。

 女は何も言わずにアルフレッドを見送るつもりらしい。

 アルフレッドの受けた傷は致命傷であった。

 そんな傷を受けて、助かるなんて話が馬鹿らしい。

 もし助かるとしても、それは伝説に謳われる幻の霊薬くらい使わねばならないだろう。

 現にアルフレッドは痛みを感じる事はないが、ベッドのシーツは真っ赤に染まっている。

 まさか自分がベッドの上で死ねるとは思ってもいなかったが、これはこれで良いとしよう。

 何も成し遂げることが出来なかった人生だったが、きっと、希望はある。

 『剣鬼』がそれを見せてくれた。

 ならばきっと、他にも存在することだろう。

 次代の『剣神』を目にすることが出来ないのは心残りではあるが、もしかしたら、あいつかもしれないな……。


「一つだけ、頼みがある……」

「何?」

「北の辺境、シミナ村から西に見えるフィオル山、そこに……俺の……」


 言葉の途中で、アルフレッドの体の力が抜け、ベッドに倒れた。

 女はそれを見つめ、アルフレッドの瞼をそっと閉じ、静かにその場で泣き崩れた。


―――――


「はっ!?こ、ここは!?」

「落ち着きなさい、ここは貴方の部屋よ『剣鬼』」

「そ、そうか……」


 数日後、毒が抜け、体力を回復した『剣鬼』デュークは目を覚ました。

 目を覚ましたデュークは自分に貸し与えられたテュミアの屋敷内の部屋であることを確認すると胸を撫で下ろした。

 そんなデュークに対し、テュミアは冷たい目付きでデュークを見つめる。

 それに気付いたのか、デュークは安心した表情が瞬時にして強張った。


「それで、私は貴方をどうすればいいのかしら?」

「すまない……いえ、すみませんでした……で、ですが次こそは必ず『神童』を――」

「――死んだわよ?」

「……え?」


 テュミアの問いかけに対して謝罪の後、今一度チャンスを貰うべく弁解を試みようとしたデュークであったが、自らの言葉を遮られて発せられたテュミアの言葉に息が詰まった。

 正直、理解したくなかったのだとデュークは心の中で感じていた。

 かつて『神童』と称された存在であるアルフレッドに、過去、自分が唯一勝てないと感じたあのアルフレッドに、奥義を使用されても尚ここまで腐らずにいられた自らの目標であったアルフレッドに、デュークは正々堂々と戦い、勝つことで、自分の前に聳え立つ壁を壊せる気がしていた。

 剣を再び手に取ったデュークだが、未だ奥義を食らった代償は心の中で小さく蠢いている。

 それを払拭したいとも考えていたから、今出来る全力でデュークは戦った。

 しかし、現実はデュークの思い描いていたようにはならなかった。


「呆けているところ悪いけど、こっちにも時間が無いのよ。結局貴方はどうして負けたのかしら?最初の一撃で全て決まったのではなくて?」


 テュミアの言葉を耳にしてデュークは正気を取り戻し、テュミアと向き合った。

 そしてどう答えるべきかを逡巡し、口を開く。


「……俺は、失望したんだ」

「失望?」

「俺の知る『神童』は、ヤバかったんだ……なんて言えばいいのかな……雰囲気が、他の剣士と違ったんだ」

「貴方の知る『神童』は十年前のアルフレッド、つまり奥義を受けた後の『溝鼠』の筈でしょう?」


 テュミアはアルフレッドに関する情報をその広い情報網によって殆ど得ていると言っても良い。

 そのテュミアが調べることの出来なかったアルフレッドの情報はその出自と、姿を眩ませた十五年前から十年前までの五年間のみ。

 その五年間には謎が多く、奥義の伝承者との出会いや白化病を気にかけていた理由に関してはこの空白の期間が重要であるとテュミアは考えていた。

 つまりアルフレッドが奥義の伝承者と会ったのはその間であり、デュークが出会ったのは『神童』ではなくなった後の『溝鼠』として生活を始めた辺りのアルフレッドの筈である。

 それなのに何故デュークがアルフレッドに対してそのような評価をするのか、テュミアには理解出来なかった。


「『剣神』の奥義は極論を言えば殺気で幻を見せる、言わば幻術の類だ。それを作り出す為には何が必要だと思います?」

「……知らないわ」


 相手に殺気で幻を見せる。

 これに関しては確実な情報である。

 何せテュミアの情報網に引っかかった奥義の伝承者全てが最終的にそう口を割ったのだから。

 しかしそれをするために必要なものというのが分からない。

 それ相応の特別な訓練が必要かも知れないが、恐らくデュークがテュミアに聞いているのはそういうことではないということだけは分かっていた。


「成程……そういうことですか」


 考えていても埒が明かず、デュークに答えを求めようとしたその時、傍に控えていたバロックが声を上げた。

 即座にテュミアはバロックに視線を送った。


「お嬢様、覚えておいででしょうか。奥義の生まれた理由を」

「確か、『剣神』が死ぬためだったかしら?」

「えぇ、そうです。そしてそれが形を変え、今や『剣神』を見極めるために使用されている」

「それがどうしたのかしら?」


 どうにもバロックの様子がおかしい。

 いつもならば淡々と必要最低限の言葉で話を済ますのに、『剣神』や『神童』に関する話題に関しては饒舌になる。

 実際に剣を手にしたことにないテュミアには分からない、剣を持っている者にしか理解できないものでもあると言うのだろうか。


「ここで一つお聞きしたい。デューク様はアルフレッド様を今でも『神童』とお思いか?」

「当然だ」

「どういうこと?あれはもう『溝鼠』でしょう……?」

「お嬢様、我々は既に『神童』の術中にいた、ということです」

「よく……分からないわ」


 頭がこんがらがるとはこの事だろう。

 出自不明の子供が訓練を受けて『神童』となった。

 空白の五年を経て『溝鼠』となった。

 『溝鼠』とデュークが出会った。

 『溝鼠』は生活を続け、テュミアと出会った。

 そして今、『溝鼠』は死んだ。

 これだけの筈だ。

 なのにこの二人は他に何があると言うのか。

 テュミアは既に考えることを放棄しかけていた。


「では言い方を変えましょう。『溝鼠』が、今も尚『神童』であるとしたら?」

「……『溝鼠』が『神童』?そんなの同じ人物なのだから当然……ま、まさかっ!?」

「お気付きですか?」


 バロックの言葉など既にテュミアには届いていなかった。

 頭の中に電流が走るが如き気付きを経て、テュミアは思考の全てを自らが持ち得る情報の整理に充てていた。

 『剣神』の情報、『三剣』の情報、『神童』計画の情報、アルフレッドの情報、自らが体感した『溝鼠』の情報、『剣鬼』からの情報、奥義の伝承者から得られた情報、その他関係のある物からない物まで、テュミアの頭の中で渦巻き、それが集束していく。

 そして、テュミアは理解に至った。


「ふふふっ……バロック、私は『溝鼠』の尻尾を掴んだ気になっていたようね」

「申し訳ございません」

「気にしなくていいわ。どうせ『神童』は使い勝手が悪過ぎるもの」

「もう俺が答える必要は無くなったようですね」

「えぇ、そのままゆっくり休んで頂戴」


 理解出来たのならばわざわざデュークから答えを聞く必要も無く、テュミアはそう言ってデュークの部屋から立ち去った。

 しかしテュミアは理解することは出来たが、何故そうなったのかまでは分からなかった。

 他人の心など、断片的な情報のみでは理解する事は到底不可能なのだから。


「アルフレッドは奥義修得後、何故『溝鼠』になったのかしら?」

「分かりません」


 屋敷の廊下を歩きながら、テュミアはバロックに対して質問する。

 同じ道を歩んできたこのバロックであれば何か共感出来るものがあるのではないかと思ったが、やはり人によってそれぞれ考え方は違うようだ。

 力ある者がわざわざその力を捨てる理由など、逆に言えばこの世を探しても『溝鼠』くらいかもしれないが。


「じゃあ何故本気を出さずに死んだのかしら?」

「申し訳ございません」


 これも聞くだけ無駄な質問であることは分かっていた。

 誰しもそう簡単に死にたいとは思わないだろう。

 死にたいとのたうち回る者でも、最後には命乞いを無様にするものだ。

 テュミア自身そういった輩を随分見て来たし、今後もそう言う奴らを見続けるものだと思っていた。

 しかしテュミアは今回の事でほんの少しだけ理解することが出来た。

 真に死を望む者は、静かであると。


「同じく剣を持っていた者としての見解は?」

「……」


 バロックは今やテュミア専属の使用人であるが、その過去は殆どアルフレッドと同じく、貴族によって訓練を課せられた元孤児である。

 『神童』計画の前、『剣鬼』『剣客』『剣豪』の流派を確立させるための犠牲者の一人、それがバロックである。

 どういう経緯か、テュミアの曾祖父がバロックを使用人として招き、今に至る。

 当時の記録によるとバロックは犠牲者の中で唯一まともな剣術を用いていたという。

 言わば、『神童』の元となった重要人物である。

 バロックはテュミアの問いに対し、沈黙を貫いた。

 つまり、バロックにとっては剣など何かを気にして持つものではないということなのだろう。

 そう結論付けて話を変えようとした時、バロックの口が動いた。


「今は、お嬢様を守るために持っているつもりです」

「そう……」

「一つだけ、よろしいでしょうか?」

「何かしら?」

「強制された剣は長くは続きません。いつか、何処かで折れるか、捨ててしまう。しかし、私はこの年まで剣を持ち続けております」


 テュミアはこの言葉を聞き、バロックが言いたいことを察した。

 つまり、アルフレッドも同じだと言いたいのだろう。

 同じく孤児として訓練を受け、実力を付けた両者。

 片や仕える主人を持ち、守る為に剣を持ち直した者。

 片や何かが起き、折れず、捨てず、持ち続けるが、持つのみであった者。


「つまり、アルフレッドにも誰かがいた、ということ?」

「そこまでは分かりません」

「死人に口無し。これ以上はただの雑談になりそうね」

「そのようですね」


 結局の所、『神童』と『溝鼠』、この二つの名を持っていたアルフレッドという人物の全てを知ることは既に不可能となってしまっている。

 実際、テュミアはこれだけ情報を集めながら、アルフレッドの本当の力を知ることは出来なかったのだから。

 比較する事も出来ず、関係者の話も過去の話ということで曖昧。

 この世に『神童』と本気で対峙した者が存在しないという奇妙な状況。

 こうなると、テュミアは疑問に思うしかない。

 本当にアルフレッドは『神童』と呼ばれるに相応しい剣士であったのかを。

 いや、違う。

 『神童』に相応しいとは何だ。

 この世に必要なのはそんな小さい存在じゃない。

 『神童』などたかが『神童』、真の強者には似つかわしくない。

 求めるのは、頂に立つ存在であった筈だ。

 テュミアは頭を切り替え、今までの疑問を全て払い去り、歩を進める。


「では、そろそろ建設的な話をしましょうか。『三剣』復興なんて小さなことではなく、もっと大きな話をしましょう」

「御意」

次回最終話です。

今日の深夜にでもあげます。

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