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ガンツ土木組合

何とか書き上げました。よろしくお願いします。

 地下水路の清掃作業は定期的に行われるため、その都度日雇い依頼が出される。

 定期的にしかないという事は、裏を返せば毎日はないという事。

 基本的に一週間に一度のペースで依頼があるため、その間は他の日雇い依頼で繋ぐしかない。

 しかし地下水路の清掃作業の様に安定して受けられる依頼はそうそうなく、殆どがその場限りで終わってしまい、依頼によってノウハウが異なるのはとてもやり辛いのだ。

 本日アルフレッドが見ている日雇い依頼用の掲示板にはいくつかの依頼が張り出されていた。

 どうしようかと思案していた所、組合職員の一人が新しく掲示板に依頼を張り出した。

 それを見たアルフレッドは張り出された依頼をすぐに剥がし、受付まで持って行った。


「この依頼を受けさせてください」

「か、畏まりました」


 アルフレッドが選んだ依頼は土木工事の日雇い依頼。

 街の外壁の修理作業であった。


「親方、今日はどうぞよろしくお願いします!」

「おう!今回も扱き使ってやるから覚悟しやがれ!」

「おすっ!」


 冒険者組合で依頼の手続きを済ませた後、アルフレッドは早速街の外壁の修理作業が行われる場所まで来ていた。

 そして今回の修理作業を行う上でのリーダー的存在、ガンツ土木組合のガンツ親方に元気よく挨拶をした。

 アルフレッドがこの依頼を即座に受けることを決めたのはこのガンツ親方の依頼であったことが大きい。

 ガンツ土木建設は古くからこの街の土木関連の仕事を請け負っている大きな組合で、今回の様な街の大切な外壁の修理となれば絶対にこのガンツ土木組合に話が行くくらいには信頼と実績を併せ持っている。

 アルフレッド自身、日雇い依頼では度々お世話になっており、ガンツ親方の依頼であれば外れを引くことが無い事は分かっているために即決で依頼を受けたのだ。

 ガンツ親方はドワーフと言う種族で身長はあまり高くない。

 故にアルフレッドは挨拶する際も見下ろす形になってしまうのだが、ドワーフはその代わりに力と器用さを併せ持つ特殊な種族だ。

 だからと言っては何だが、ドワーフはこういった土木関係であったり、鍛冶関係の仕事に付いている人が多い傾向にある。

 挨拶を済ませたアルフレッドは早速今日の作業に入った。

 修理作業の主だった部分はガンツ土木組合の方々が受け持つ。

 そんな中での日雇いの作業は主に材料の運び出しという体力仕事だ。

 外壁に使われている石材は全て綺麗な直方体に切り出されており、作業場の近くに積み上げられている。

 アルフレッドはこの石材を必要な場所に運び、ガンツ土木組合の方々の指示に従って、指定された場所に積み上げていくことにある。

 石材同士を接着させるための特殊な液体の上に積み上げ、液体が渇き、固まる前に位置を修正する。

 これを今日一日中行うのがアルフレッドの仕事であった。


「アルフレッド!こっちにも持ってきてくれ!」

「はい!」

「こっちも足りてねぇぞ!」

「分かりました!」


 外壁の修理は街の安全を維持するのにとても大切な事だ。

 外壁があるだけで街で生活する人々は魔物から隔離されている気持ちになり、安心して日々の生活を営むことが出来る。

 昨日の清掃依頼もそうであったが、アルフレッドはこういった間接的にでも人々の役に立てる仕事を好んでいる。

 そういった依頼が無ければ仕方ない事だが、アルフレッドはあれば必ずそういった依頼を受けることにしている。

 これもまた、彼の覚悟の一つであった。


 太陽が丁度真上を通過する頃、一旦作業を中断し、休み時間となった。

 外壁の修理作業は天気の良い日に一日で終わらせるのが理想であるが、人の体力には限界がある。

 気合と根性を振りかざして仕事をしていそうなガンツ親方であるが、こういった作業員のケアをしっかりと考えている常識人だ。

 作業が中断したことで皆が思い思いに持参した昼飯を食い始める中、アルフレッドは日陰に入り水を飲むだけであった。

 アルフレッドは通常朝と晩の二食しか飯を食べない。

 それは手持ちの金の少なさもあるが、基本的に平民、いや、それよりも少し貧相な暮らしをしている者達にとってはそれが当たり前であった。

 アルフレッド自身は自分の出自に関しては可もなく不可もない一般的な平民と考えているが、そういった貧困層の暮らしをしている平民は全体の二割程度、それ以下となると貧民とされ蔑まれる事となる。

 十年間十級冒険者として生きて来たアルフレッドの収入を一般的な平民と比べると、アルフレッドの収入は一人暮らしという事を考えれば貧困層、そこに配偶者や子供がいるとなれば文句無しで貧民レベルのものである。

 それらからアルフレッドの二食生活は妥当と言えるものなのであるが、それを見かねた人物が一人いた。

 ガンツ親方だ。


「ほら、これでも食え」

「親方……いえ、申し訳ないので」

「良いから食いやがれ!」

「もがっ!?」


 ガンツ親方が差し出してきた握り飯をアルフレッドは喉から手が出るほど心の中で欲しがった。

 美味しそうな白い米を見ただけで口の中が自然と涎で溢れそうになる。

 アルフレッドとてこの二食生活に慣れているだけで、決して腹が空いていないわけじゃない。

 ただ空腹感に耐えられるだけなのだ。

 日雇い依頼は基本的に肉体労働、朝から体を動かして働いていれば当然の如く腹が減る。

 しかし、昼を食べる程に余裕のないアルフレッドは歯を食いしばり、水だけで腹を誤魔化して夜まで懸命に働くのだ。

 そして、そんな姿をこのガンツ親方は見続けて来た。

 十級冒険者=アルフレッド、そうなるくらいにはこの街でのアルフレッドの存在は有名なものだ。

 何より十年間幾度も顔を合わせてきた仲だ。

 これぐらいの施しをしたところで、ガンツ土木組合の組合員がとやかく言ってくることは無い。

 何故なら、今この場にいる組合員の中で、十年以上働いている者などいないのだから。

 握り飯を拒否するアルフレッドの口の中へ、ガンツ親方は強引に握り飯を突っ込んだ。

 口の中へ勢いよく握り飯を突っ込まれ、多少咽ながらもアルフレッドはその適度な塩味を舌で感じながら噛み締めた。

 ほんの少し、塩味が強すぎると思うのは、きっと気のせいだろう。


「なぁ、アルフレッド」

「……何ですか?」

「ウチで働く気はねぇのか?」

「また、その話ですか」


 急に静かな声色になったガンツ親方を訝しみながらも、アルフレッドが呼びかけに返答すると、ガンツ親方から勧誘を受けた。

 ここで言う『ウチ』とは当然ガンツ土木組合の事だろう。

 アルフレッドはその後に自分の口を突いて出てきた言葉通り、これを聞くのは初めてではなかった。

 ガンツ親方には日雇い依頼で何度もお世話になっている。

 日雇い依頼で来た冒険者の中には本業でないからと、手を抜く輩が時折存在し、ガンツ親方はそういった輩が大嫌いであった。

 故に毎度毎度、人での少なさを悔やみながら渋々と冒険者組合に依頼を出していた中表れたのがアルフレッドであった。

 初めはまた他の輩の様に不真面目な奴だろうと決めつけ、どうせならとキツめに扱き使ってやった。

 しかしガンツ親方の思惑に反し、アルフレッドは真面目に働いた。

 次に依頼を出した時も、その次に依頼を出した時も、アルフレッドは真面目に働いた。

 もっと言えばアルフレッドの仕事振りは日に日に洗練されて行き、徐々に組合員の奴らから頼られるほどにまでなっていた。

 ガンツ土木組合の中では、既にアルフレッドという存在は組合員の一人として見ている者も多かったりする。

 そんな事もあり、ガンツ親方は数年前からこのような勧誘を何度かして来ているのだが、決まってアルフレッドはこう答える。


「俺は、冒険者じゃないとダメなんです」


 アルフレッドは十級冒険者である。

 階級は関係なく、彼には冒険者であり続けなければならないのである。

 それは彼の強い覚悟の表れであった。

 もし、この勧誘を受けた場合、彼の生活は貧困層ではなく一般的な平民の生活水準へと上がり、毎日三食食べる余裕が出てくるだろう。

 それでも彼は現状を維持する。

 冒険者であり続ける。

 例え、魔物を討伐することが無くても。


「……お前はすげぇな、アルフレッド」

「俺が、ですか?俺なんかより親方の方が」

「いや、すげぇんだよ……俺はお前みたいにはなれねぇ」

「俺だって親方にはなれませんよ?」


 自分なんて誰よりも凄い事なんてない。

 そう思っているアルフレッドにとってガンツ親方が一体何を言いたかったのか理解出来ずにいた。

 そんなアルフレッドの返答を聞くと、親方は少しだけ笑ってから立ち上がった。


「ははっ、違いねぇ……。よし!てめぇら!作業再開すっぞ!」

「おすっ!」


 何にせよ、今日の作業はいつも以上に頑張れそうだ。

 アルフレッドは気合の入った声を上げながら作業を再開すべく立ち上がった。

累計でもいいからアクセス100越えないかなぁ。

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