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~山登り~

  ~山登り~

奈緒子と約束していた山登りの日。花火大会以来、お互いが変に意識してあまり上手く喋れてなかった。「ピーンポーン」家のチャイムに思わずドキッとする。「ゆーたーかー!また寝坊?」いつもと変わらない奈緒子の声がそこにはあった。


バスに乗って、電車に乗って、またバスに乗って目的地の山に着いた。子供でもお年寄りでも安心して登れる言わば初心者の山だ。奈緒子は僕の手を引っ張り「さぁ行くわよ!」と意気揚々としている。僕も行くぞと心に決め、最初の一歩が進みだした。


目的の山頂まで大人で30分、子供なら1時間くらいの距離だ。途中に休憩所がいくつもあり、山頂ルートまでしっかり整備されていて想像していた山登りとは少し違った。

「豊、大丈夫?辛くない?」息を切らしながら奈緒子は心配そうに声をかける。「だ、大丈夫だよ」都会暮らしの長かった僕は体力の無さを痛感した。


何度も休憩をしてやっと頂上に着いた。


「うーん」僕は背伸びをして山頂から望む初めての世界を見る。小さくて一人だけでは、何も出来ないと思っていた僕がここまで頑張れたのだと心の中は達成感で満たされていた。

奈緒子はキョロキョロ辺りを見渡すと一目散に目的の場所まで走って僕を手招きした。

「豊、ここから観る景色は絶景だよ!」奈緒子は両手を横に広げ何度も深呼吸をしていた。

「うわぁ」綺麗な景色に思わず声を漏らす。


「凄いでしょ?」自慢げに奈緒子は笑顔で僕に微笑んだ。

奈緒子は遥か遠くを見つめながら「この場所は、お父さんとの思い出の場所でね、お父さんが親友と呼べる友達が出来た時に、その友達だけに教えていいって言った場所なんだよ

と教えてくれた。


僕は何も言えなかった。けど、僕だけが寂しい思いをしているんじゃない、誰にでも寂しい思い、辛い気持ちを抱えて生きているのだと中学生にしては少し大人びた事を考えてしまった。「奈緒子、正直に言うと僕は最初、この町に来るのが嫌だった。けど奈緒子やケンちゃんと再会して、本当によかった。本当にありがとう」

 奈緒子はキョトンとした顔をしたと思ったら今度は急に笑い出した。


「私もこの町が嫌なの。だけどこの町が好き。」今度は僕がキョトンとした顔になった。「私が矛盾してることを言ってるのは自分でもわかってるよ。けどね、本当にそうなの。この町を嫌っていても、この町はいつでも私を迎えてくれる。どんなに辛いことがあってもここだけは私を笑顔にしてくれる。

だからこそ、この町が嫌いなの。」僕は理解出来なかった。奈緒子も僕の表情からそれを察してくれてただニコニコ笑っていてくれた。二人で見た景色は本当に美しかった。


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