~冬の出来事~
「ゆーたーか-!お茶碗取って!!」奈緒子の声が僕の家で響く。
「う、うん...」心臓の音が奈緒子に聞こえてしまうのでは...と思うほどドキドキしている。
中1の思春期真っ盛りの僕は、同級生の女子が3日間も二人きりで1つ屋根の下で生活するなんて想像もしていなかった。
この町では町民の人が亡くなると、子供を除いた町民全員で、山を下りた先にある市内で葬儀を行う。しかし大雪により雪崩が発生して山道が封鎖されて帰って来れないと電話があったのは僅か1時間前の出来事であった。
僕の母親から、「女の子1人は危険だから家にいらっしゃい」と電話があったんだーと笑いながら奈緒子は淡々と家に上がる。
「豊の家すごくない!?冷蔵庫大きい!」まるで修学旅行に来た学生のテンションで僕に質問攻めだ。
「豊の部屋って何もないの?私はどこで寝ればいいの?お風呂は?ごはんどうする?」
楽しそうにしている奈緒子をよそに、僕は胸の鼓動ばかり気にしていた。
テレビがない我が家にとって、夜は会話がないと耳鳴りがするほど静かでラジオだけが唯一の楽しみなほどだった。
「ごはんは私が作るから、あなたはお風呂沸かして!」と夫婦みたいな会話をして楽しむ奈緒子。
「お風呂やったことないんだけど...」と言うと、「ええ?嘘でしょ!?」といちいち大袈裟に驚く。
お風呂、料理、布団敷き全て奈緒子がやってくれた。
「奈緒子はすごいね」僕は純粋に感激して褒めた。
「豊が何も出来ないだけでしょ!」照れながら笑う奈緒子。
奈緒子が作ったハンバーグはとても美味しく、まるで洋食屋のハンバーグの味を彷彿とさせた。
その日、奈緒子は母親の部屋で寝た。僕は同じ空間に奈緒子がいると思うだけで寝付けなかった。




