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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第二章 最終話 おかあさんと一緒 ~I like My Mom~
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第二章最終話(十二)それぞれの旅立ち

 ――コゥゥゥ……


 かすかな音が聞こえる。

 一人目のエリフはログハウスの外に出る。

 エリナが戻ってきてしまったのだろうか?

 エリフは空を見上げる。

 山際に黒点が現れる。

 飛空機の機影だ。


 ――ゴゥゥゥ!


 音と黒点はだんだんと大きくなり、直ぐに銀色の空飛ぶ機体と判るまでとなる。

 全長十メートル程度、左右に広がる飛行翼の前後に四つの大きな筒状の推進機関をもつ飛空機である。

 飛空機はまっすぐログハウスに向かって滑空する。


 一人目のエリフのかぶっているベールが巻き起こる風に揺れる。

 そしてログハウス前の広場手前で機首を上げ、ゆっくりと地面に降りる。

 着陸した飛空機のハッチが開き、中から赤毛の青年がゆっくりと降り立つ。

 そして、ハッチに立つ肩までの銀色の髪をした小柄な女性に手を差し出す。

 そして彼女を地面にゆっくりと導く。

 赤毛の青年は銀髪の女性の肩を抱いてエリフのほうを向き、頭を下げる。


「イリア……、ヨシュアも。

 達者そうだな」


 エリフは二人を見て、黒いベールの口元に微笑みを浮かべる。


「おじいさま。

 ご無沙汰ぶさたしております。

 イリアは戻りました」


 イリア、銀色の髪の小柄な女性はエリフに近寄り頭を下げる。


「ジャックに旅立ちが今日だと聞き、お供するために二人で駆けつけました」


 イリアは顔をあげ、灰色の大きな瞳でエリフを見上げる。

 イリアは二十代後半であるはずだが、幼い顔立ちのためもっと若く見える。

 赤毛の青年、ヨシュアもエリフを見る。


「お供?

 どちらの?」


 エリフは笑いながらログハウスの右側を見る。

 そこにはエリフと全く同じ格好をしたもう一人のベールを被った女性が立っている。

 二人目のエリフだ。

 イリアは予想していなかったためか、二人目のエリフを見て少しおどろいたような表情を一瞬見せる。


「先生の時間軸は今、重なっているのですか?」


 ヨシュアは低く落ち着いた若い声でエリフに問う。


「そうだ。

 そして我々二人は別の旅に出る」


 ヨシュアはしばらく考えるように二人のエリフを交互に見る。


「どちらがより先の先生なのですか?」


 ヨシュアは重ねて問う。


「あちらだよ」


 エリフは二人目のエリフを指差す。


「では決まりね。

 より未来のおじいさまのお供をするわ」


 イリアは断定的な口調で言い切る。

 ヨシュアはゆっくりと相槌あいづちをうつ。


「君たちが来ることは、ジャックやマリアは知っているのか?」


 二人目のエリフはイリアとヨシュアの二人に近づき、問う。


「ジャックは予想しているかな?

 マリアは知らないはず」


 イリアは応える。


「大丈夫なのか?」


 二人目のエリフは微笑ほほえみながら重ねて問う。

 大丈夫かと訊いているのはマリアの癇癪かんしゃくが、といった意味だろう。


「大丈夫ではないとしても知ったことではないわ。

 マリアはジャックとジュニアに任せておけばいい。

 私たちにも優先順位があるのだから」


 イリアは初めて笑う。


「ジャックはともかく、ジュニアにはお気の毒なことだな」


 二人目のエリフは笑いながら言う。

 ヨシュアは、まったくだ、と他人事ひとごとのように笑う。


「ジャックは今、くしゃみをしているな。

 さすがのジャックも上からじゃ、この会話は把握できないだろうけれど」


 ヨシュアは人の悪い笑みを浮かべる。

 空は曇天ではないものの薄雲が広くかかっている。

 ジャックの人工衛星から可視光ではここの状況は判らない。


 ヨシュアは飛空機の荷室から小さなリュックサックを取り出し、イリアに渡す。

 イリアはリュックサックを背負う。

 続けてヨシュアは大きなバックパックを取り出し、背負う。

 準備はできているようだ。


 一人目のエリフもログハウスから布袋を二つもってきて、一つを二人目のエリフに渡す。

 そして魔導書を自分の布袋に収め、背負う。


「では、始める。

 二つの五芒星ごぼうせいを描くので修飾していってくれ」


 二人目のエリフは左手で二重の円を空中に描く。

 そしてその中にゆがんだ五芒星ごぼうせいを内接させるように描く。

 図形は銀色に輝き始める。

 そして二人目のエリフは右にずれ、二つ目の二重の円を空中に描き始める。


 一人目のエリフは最初の二重の円、その間を文字と細かい図形で埋めてゆく。

 そして更に右側にあるもう一つのゆがんだ五芒星ごぼうせいの周りの二重の円も文字と細かい図形で修飾してゆく。

 エリフは、ゆがんだ五芒星ごぼうせいを凝視し、記憶する。


「このゆがみは写像か?」


 一人目のエリフは、二人目のエリフに問う。


「そうだ」


 二人目のエリフは短く応える。

 エリフはこのゆがんだ五芒星ごぼうせいを十五年後の時間軸で再現しなければならない。

 ゆがみの意味を把握したうえで。


 二つの五芒星ごぼうせいは時間差で輝き、空間をひずめて二つのゲートを現出させる。


「では私は先に行かせてもらう」


 一人目のエリフは、左側のゲートをくぐる。

 一人目のエリフの体は空間に消え、そして空間のひずみがき消える。


「我々も行きましょう」


 ヨシュアは残るゲートに向かう。


「本当に良いのだな?

 帰れる可能性は低いぞ?」


 二人目のエリフはヨシュアに問う。


「だからこそ、イリアは先生と行かなければならないのですよ。

 私は先生からもらった命です。

 イリアと先生と共に生きますよ」


 ヨシュアはそう言い、ゲートの中に消える。

 二人目のエリフがそれに続き、最後にイリアがゲートをくぐる。

 残った空間のひずみはすぐに消え、何も無い空間となる。

 秋の風が吹き、空には鱗雲うろこぐもが薄く広がっている。

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