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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第二章 第一話 夢で逢えたら ~When We Meet in My Dream~
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第二章第一話(九)夢の中に降る雨

 ソニアとアムリタは夢幻郷の認証の門をくぐり、階段を下る。

 ソニアが先を行き、アムリタが後を追う。

 天井が低いため段をとばして駆け下りることはできない。

 それでも二人の歩は早い。

 やがて階段は尽き、平坦へいたんな通路となる。

 その先に門があり、紫色の光が差し込んでいる。

 あれが夢幻郷へのゲートか。


 二人はゲートをくぐり、紫色の空の下、夢幻郷に立つ。


「あれー?」


 ソニアは紫色の空を見上げる。


「どうしたの?

 ソニー?」


 アムリタは後ろで立ち止まるソニアに振り向き、訊く。


「人工衛星が一つだけ飛んでいる。

 ジャックが打ち上げたのかな?」


 ソニアは目を細めて言う。


「うわー、変な世界だ。

 物理法則を完全に無視している感じ……。

 て言うか、なんか来るよ」


 ソニアが見上げる空の一点を指差して言った直後、上空から巨大な黒い物体が軽やかに激しく地面に降り立つ。

 うろこで覆われた体に蝙蝠こうもりの羽根、馬の頭を持った巨大な鳥、シャンタク鳥である。


「うわ、いきなり化け物が降ってきた!」


 アムリタは叫び、跳び退き、シャンタク鳥から距離をとる。

 ソニアもアムリタとは別な方向に跳んでいる。


「あれ?

 ソニア?

 アムリタも……」


 シャンタク鳥の上からジュニアが声をかける。

 ジュニアの表情は暗い。


「ジュニア!

 助けに来たわ!」


 アムリタはジュニアに声をかける。


「え?

 ああ、うん。

 後で話を聞くよ」


 ジュニアは低いトーンで応え、動かないラビナを抱えて地面に降りる。


「君、ありがとう」


 ジュニアはシャンタク鳥に声をかける。

 シャンタク鳥は、ビィーッ、とひときすると、大きな翼を羽ばたかせ、地面を離れ、空を舞う。

 暫く上空を旋回したのち遠くの空に消えてゆく。


「あの、ジュニア、今の馬の頭の鳥についても後で話をきかせてちょうだい」


 アムリタはジュニアに乞う。

 ジュニアは、うん後でね、と短く応える。

 ジュニアのいつになく固く冷たさを感じる態度にアムリタは声をかけられなくなる。

 ソニアは終始黙ってジュニアを見つめる。


「ジュニア、キャリバック、私が背負うよ」


 アムリタはやっとのこと、そう声を絞り出す。

 ジュニアはラビナを抱えたまましゃがみ、キャリバックをアムリタに預ける。

 ソニアは無言でラビナの小銃とポシェットを受け取る。


 ジュニアは両手で動かないラビナを抱え、階段を上る。

 ソニアとアムリタが続く。

 三人は無言である。

 登り階段は長く感じられる。

 アムリタは不安そうにジュニアとソニアを交互に見る。

 七百段を登りきり、ジュニアは石像の前の石板に手を添える。

 石の扉は四メートルほどり上がり止まる。

 ジュニアは赤く光る空洞に足を踏み入れる。


「帰ってきたよ、ラビナ」


 ジュニアはラビナにつぶやく。


「お帰りなさい」


 動かなかったラビナが微笑み両手を広げ応える。

 これは夢か?

 ジュニアはラビナを抱きしめる。

 ジュニアの腕の中、ラビナには確かな体温がある。

 ジュニアの両目から涙がこぼれ落ちる。


「生きていてくれた、生きていてくれた、ありがとう、ありがとう」


 ジュニアは泣きながら固くラビナを抱きしめ続ける。

 ジュニアの涙はラビナの顔にこぼれ落ちて流れる。

 ラビナは戸惑った表情で視線を泳がせる。

 ラビナはアムリタを見る。

 アムリタはなにやら困ったような顔をしている。

 続いてソニアを見る。

 ソニアはなにやら怒ったような顔をしている。


「うわーん!」


 いきなりラビナの背後から泣き声が聞こえる。

 小さな少女の泣き声のように思えた。

 ラビナは思わず泣き声のするほうに振り向く。

 そこには大粒の涙を大きな目に一杯にめ、表情を変えずに泣くエリーが居る。


「こんなのは嫌だー!」


 エリーは尚も泣き続け、きびすを返し階段を駆け上ってゆく。


「ちょっと、エリー!

 エリーってば!

 待って!」


 アムリタが慌ててエリーを追うべく階段を駆け上る。

 ラビナは呆然ぼうぜんとした表情でエリーとアムリタが去ったほうを見る。

 ジュニアもラビナを抱きしめたまま、キョトン、とした表情で同じ方向を見る。

 ソニアは両手を腰にあて、階段を見上げる。


「あの、ちょっと離してもらえるかしら?」


 ラビナはジュニアに言う。

 ジュニアは、あ? ああ、と言ってラビナを離す。


「ややこしいことになっているけれど、私が悪いんじゃあないのよ?」


 ラビナはおびを直しながら自信のなさそうな声でジュニアに言う。


「そうだねー。

 ジュニアがモテ過ぎるのがいけないんだよね。

 ジュニアのくせに生意気よ」


 ソニアが真顔でラビナの言葉を引き継ぐ。

 ジュニアは、は? と怪訝けげんそうな顔をする。


 ジュニアとラビナ、ソニアの三人が階段を上り、『浅き夢の世界』に戻ったとき、既にエリーとアムリタの姿は無かった。


 風景は雨の森に変わっていて、雨が三人をらす。

 夢幻郷への最初の旅は一先ず全員無事に帰還したことになる。

 雨が地面をたたく音だけが続く。

第二章 第一話 夢で逢えたら 了

続 第二章 第二話 私の為の弔鐘ちょうしょう


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