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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第二章 第一話 夢で逢えたら ~When We Meet in My Dream~
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第二章第一話(六)天空の標的

「そのもの言いは変わっていないね」


 ジュニアはそう返す。

 ラビナは尊大なもの言いをしながらも、細かく震えている。

 斜面はもはや登るというよりい登らなければならない角度となっている。


「テンションあげなくちゃ!

 今からアレを撃ち抜かなくちゃならないんだから!」


 二十メートル先の山頂の更に上空、黒雲の渦の中心に銀色に発光する六芒星ろくぼうせいが浮かび、中に赤い巨大な眼球のようなものがのぞいている。

 高さは山頂から二百メートルくらいであろうか。

 風に揺れて位置は定まっていない。


「アレがゲート?」


「そうよ!

 未だ開ききっていない!

 今なら壊せる!」


 ラビナは山頂に向かって歩を進める。

 山頂付近は強風が吹き、雨も強くなっている。

 ラビナは山頂付近の岩に腰かけ、小銃を真上に構える。

 ラビナは勇ましく言っているが自分が震えていることを自覚する。

 未完成のゲートから見える赤い眼球、そのおぞましい姿は邪神のものだ。

 この不安定な足場で、この強風。

 この仰角。

 自分の射撃の腕で、はたして撃ち抜くことができるのだろうか?

 ラビナは不安にさいなまれる。

 ゲートは今にも完成しようとしている。

 震えが止まらない。

 怖い、怖い、怖い……。


 ――ダーン!


 ラビナの小銃が火を噴く。

 的を外す。

 続けて撃つ。


 ――ダーン! ダーン!


「風が強いうえに足場が悪いわ……」


 ラビナは外した理由を足場のせいにする。

 しかしラビナは本当の理由を知っている。

 この震えを止めなくては当たるものも当たらない。

 どうしよう、どうしよう。


「ジュニア、私を支えてちょうだい」


 ラビナは薬莢やっきょうを詰めなおす。

 そして山頂のほうを向き、ジュニアに背を向ける。


「支えるって、こう?」


 ジュニアはラビナの両脇の下に手を挿し入れる。

 キャー、とラビナは跳退とびのき叫び両腕を抱える。


「違うわよ!

 後ろを向いてかがんで踏ん張ってよ!」


 ラビナはジュニアを怒る。

 ジュニアは言われたように谷方向に体を向け、前屈みになって踏ん張る。

 ラビナはジュニアの背中に自分の背中を預け、る。

 ジュニアは、げぇ、と言いながらラビナの体重を支える。

 自分の震えがジュニアに伝わってしまうことを心配する。


 しかし悪くない。

 ラビナはジュニアの体温を感じる。

 ジュニアの背は意外と広くそして温かい。

 ああ、これは良いかもしれない。

 ラビナは震えが治まってくるのを感じる。

 小銃の照準を天空に向ける。


「動かないで!」


 震えは止まったもののラビナはジュニアの動きを気にする。

 ジュニアは、こう? と言いながら身を固める。


「駄目よ、動いちゃ!

 呼吸を止めて!

 心臓も止めて!」


 ラビナはジュニアに命じる。

 そんな無茶な、とジュニアはつぶやく。


「判ったよ、呼吸を合わせよう。

 スー……、ハー……、スー……、ハー……」


 ジュニアは大きくゆっくりと呼吸をする。

 ラビナはそれに合わせて照準を合わせる。

 ラビナはジュニアの呼吸だけを意識する。

 黒雲も風も雨も赤い眼球も気にならなくなる。


 ――スー……、ハー……


 ――ダダダーン!


 息を吐ききったところで、三発の銃声が発せられる。

 天空に浮かぶ銀色に光る六芒星ろくぼうせいを構成する二つある正三角形の一つの各頂点が破壊される。

 ラビナは再度薬莢(やっきょう)を詰めなおし、小銃の照準を天空に合わせる。


 ――スー……、ハー……


 ――ダダダーン!


 更に三発の銃声が発せられ、残りの正三角形の各頂点も破壊される。

 黒雲は渦巻きながら霧散してゆき、後には明るい紫色の空が広がってゆく。


「ヒャッホー!」


 ラビナは奇声をあげる。


「やったわ!

 私はやったわ!

 ゲートを撃ち抜いてやった!」


 ラビナはハイテンションのまま叫ぶ。

 ラビナは背中をジュニアの背中に預けたまま、クルンと顔を右にじらせ、ジュニアの横顔を見る。

 ジュニアも右側のラビナの小さな顔を見る。

 二人の視線は至近距離で合う。

 ラビナはそのままの状態でジュニアに口づけをする。


「どう?

 私は素敵でしょう?

 夢幻郷を護ったのよ。

 めてよ」


 ラビナは、はははは、と笑う。


「人の男の上に乗っかって、世界を救うなんて最高!」


 ラビナは笑う。

 ジュニアは、そろそろ降りてくれないかな、とつぶやく。


め称えてくれないと降りないわよ」


 ラビナは上機嫌で言う。

 ジュニアは、君はすごいね、偉い偉い、とつぶやく。

 それに満足したのか、ラビナは上体を起こし、ジュニアから離れる。

 ラビナはジュニアのほうを向く。

 斜面の上からなのでほぼ顔の高さが同じになる。


「さっきの話、考えてよ。

 下僕というのは冗談としても、私のパートナーになって光の谷を取り戻すのを手伝ってよ。

 私たち息がぴったり合っていたわ。

 私と貴方ならきっと合うわ。

 貴方の目的も私の目的もかなうし」


 ラビナはジュニアの首に腕を回し、目を閉じ、唇を合わせる。

 ジュニアはラビナの細い腰に手を回し抱きしめる。

 ジュニアはラビナの唇から離れ、ラビナの顔の右側からラビナの首筋を見る。


「あの娘から貴方を盗ってやったわ!」


 ラビナは恍惚こうこつとした表情でつぶやく。


「ちょっと訊いて良い?」


 ジュニアは訊く。


「なにかしら?」


 ラビナは小さなささやくような声で問い返す。


「なんで君の首筋から黒い煙のようなものが出ているの?」


「黒い煙?」


 ラビナは自分の首筋に手をやり、視線を思いっきり左下に向けて確かに黒い煙のようなものが出ていることを確認する。


「え?

 ええぇ (えぇ)?」


 黒い煙は当初くすぶったような、少ない量であったが、瞬く間に激しく噴出し、ラビナの顔を覆う。

 そしてラビナは意識を失う。

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