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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第二章 第一話 夢で逢えたら ~When We Meet in My Dream~
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第二章第一話(五)長身の女

 ラビナが丘という岩山は四百メートル程度の高さであろうか、さほど苦労せずに登れる。


「ゲートがあるここら辺は『魔の荒野』というの。

 はるか以前は『魔の森』と呼ばれていたらしいけれど、木々が無くなって久しいわ」


 岩山を登りながらラビナはジュニアにレクチャーを続ける。


「西方にムナールという廃墟はいきょがあって、その向こうに夢見の山脈があるの。

 この丘からも見えるはずよ」


 もう少しで岩山の山頂に辿たどりつく。


「何かおかしいわ!」


 ラビナは岩山の向こう遠くの異変に気付く。

 ラビナは駆け出して岩山の頂上に立ち、風景を見る。

 西方に見える山に黒い雲がかかり、稲妻のような光が明滅している。

 その黒雲の山は距離にして数キロ、高さはラビナたちが立っている丘より千メートルほど高くみえる。


「何よ、あれ!

 ゲートが開こうとしているわ!」


 ラビナは黒雲の山に向かい駆け下りてゆく。

 ジュニアも慌てて駆け下りる。


「ちょっと待って、説明してよ」


 ジュニアはラビナの手をつかみ、止まらせる。


「夢幻郷の外から、夢幻郷への入り口をじ開けようとしているものがいるのよ。

 そんなことができるのは邪神しかいない。

 いまのうちに閉じなければ夢幻郷に復旧不可能な変化がおきる」


「夢幻郷が邪神に蹂躙じゅうりんされるということ?」


「そう!

 最悪の場合、人は人でいられなくなるわ!」


「それは一大事だけれど、邪神に対抗する手段はあるの?」


「ゲートは未だ完成していない。

 完成する前にゲートを壊せば侵入を防げる」


「どうやって壊すの?」


「この小銃で!」


 ラビナは左手に持つ小銃を目の高さまで差し上げ、ジュニアに示す。


「判った。

 ちょっと待ってて!」


 ジュニアはそう言って、キャリバックを地面に下し、中からサプリメントロボットを取り出し、電子計算機をしまう。

 キャリバックは変形し、四本の金属製の足を伸ばし、歩行モードになる。

 キャリバックはヨタヨタとふらついたのち安定して四本の足で歩き出す。

 

「付いてきておくれ」


 ジュニアはサプリメントロボットを抱えながらキャリバッグに声をかける。

 キャリバッグは、判った、というように心持ち本体を傾ける。


「行こう!」


 二人は岩山を黒雲の山のほうに向かって駆け下りる。

 後からキャリバッグはワシャワシャと追随する。


 ラビナとジュニアは駆け続ける。

 魔の荒野の岩山を降り、いくつかの低い丘を越え、黒雲の山のふもと辿たどりりついたとき、遠くに人影があるのに気が付く。

 近づくと異様に身長が高く黒い布で全身を覆っていることが判る。

 人物は振り向き、ジュニアたちを見る。

 身長は二メートルを越えている。

 布からは白い肌の顎から口元だけが見える。

 その唇、顎のラインを見るかぎり女性に見える。


「おお、夢見の王女とあやつの末裔まつえいか。

 危機に際して適切な駒が現れる。

 これだから人間は面白い」


 長身の人物は低い女性の声で楽しげにつぶやく。


「あなたは?」


 ジュニアは長身の女に訊く。


「この世界を憂いているものだよ」


 長身の女の口元は怪しくり上がる。

 ラビナは身をすくめる。


「この世界の滅びを見届けるのも一興であると思ったが、お前たちの足掻あがきにつきあってもよい。

 足を貸してやろう」


 女は空に向かい、手を差し出す。

 すると黒い周辺から黒い点があらわれ、みるみるうちに大きくなる。

 現れたそれは、印象でいえば巨大な鳥。

 しかし鳥とは全く別のものだ。

 馬の頭、うろこに覆われた体に蝙蝠こうもりの羽根を付けた巨大な生物である。

 鳥は地面に激しい音とともに降り立ち、長身の女の前に首を下げる。


「乗っていくがよい」


 長身の女は鳥を指さす。

 ジュニアはラビナの手をき鳥に近づく。

 鳥は羽を下ろし、大人しくジュニアとラビナが背に乗るのを待つ。

 ジュニアとラビナが背に乗り込み、羽根の付け根をつかむと、鳥は羽ばたき宙に舞う。

 鳥は旋回しながら高度を増してゆき、黒雲の下を山頂めがけて飛んでゆく。


「キャリバックを連れてこなくて良かったの?」


 ラビナは振り落とされないように羽根に必死につかまりながらジュニアに問う。


「うん、いいんだ。

 この距離なら後から追いついてきてくれる。

 空を飛ぶとジャイロが狂うから自力で登ってもらうよ」


 ジュニアも左手でサプリメントロボットを抱え、右手で羽根の付け根をつかみ、応える。

 鳥は山の斜面に沿って滑るように登ってゆく。


「貴方は不思議な人ね。

 ここまで多くのものを夢幻郷に持ち込めた人は少ないわ。

 貴方とここに初めて来て、ゲートがじ開けられようとして、『蕃神ばんしん』に出会い、シャンタク鳥に乗る。

 全て初めて尽くしよ。

 貴方が手伝ってくれればジャックのあの忌まわしきガードを解くことができるかもしれない」


 ラビナはうれしそうに笑う。

 黒雲の中がときどき激しく光り、ラビナの笑顔を怪しく照らす。

 ジュニアは奇妙な感覚に襲われる。


「この大きな鳥はシャンタク鳥というの?」


「そうよ、『蕃神ばんしん』が使役する魔獣よ。

 普通はこんなに大人しく人を乗せたりしない。

 人の前に現れるのもまれよ」


 シャンタク鳥は山の斜面に降り立つ。

 どうも黒雲の中を飛ぶのを嫌がっているようだ。

 ジュニアは地面に降り、ラビナが降りるのを助ける。

 木々は全く生えておらず、ごつごつとした岩肌が延々と続く。

 シャンタク鳥は二人が降りるのを待ち、再び山の下に向かって飛び立つ。

 ラビナは空を見上げる。


「上よ。

 登りましょう」


 ラビナは急斜面を登ってゆく。

 ジュニアはサプリメントロボットを抱え、ラビナに従う。

 斜面は起伏が激しく歩き辛い。

 風が強く吹き、時折雨のしずくが降る。

 それでもラビナは登るのを止めない。


「夢幻郷でのラビナって、現実世界と印象が違うね」


 ジュニアはラビナの後ろ姿を見てそう声をかける。


「なあに?

 れた?

 下僕にしてあげても良いわよ」


 ラビナはジュニアを振り返りながら笑顔で応える。

 笑う顔は確かに現実世界でのラビナとは違い、大人びた美しさがある。

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