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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第一章 最終話 あなたの右目をください ~I'd Like Your Right Eye~
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第一章最終話(八)生物の弱点

「でもね、ジャック!

 生物を模倣もほうしているのならば生物と同じ弱点がある。

 今からそのゴーレムを滅ぼすよ」


 ジュニアはそう言うと、ロボット重機は左右にトリッキーなステップを踏み、ゴーレムの懐に飛び込んでゆく。

 ロボット重機の右腕がゴーレムの胸板中央に突き刺さっている。

 ゴーレムはロボット重機を捉えようと両方のかいなを閉めるが、ロボット重機は身をかがめ、腕を避け、しゃがみ、後ろに跳び退く。


 ゴーレムは胸をてのひらで押さえるような仕草をする。

 見る間にゴーレムの胸が盛り上がってくる。


「――!

 何をした、ジュニア?」


「自己複製機械を埋め込んだ。

 周りの素材から自分と同じ機械を作るだけの機械さ」


「なるほど。

 ガン細胞か……」


「さすがジャック、ご明察。

 生命活動に必要な空間を奪う毒。

 修復機能と自己増殖機能のレースが始まる。

 修復機能は複雑であるから速さだけならば単純な自己増殖が勝る。

 自己増殖はゴーレムの各部が正常に機能するための空間を奪い、ゴーレムとして成り立たなくする」


 ゴーレムの胸はいびつゆがむ。

 ゆがみにより生じた胸の穴からは、サプリメントロボットが作った金属球と同じものがポロポロとこぼれ落ちてゆく。

 ゆがみはゴーレムの体躯たいく全体に広がっていく。

 ゴーレムはひざまづき両手を地面に付ける。

 ゴーレムの全身から金属球があふれ、ゴーレムは形を失い地面にくずれ落ちてゆく。

 後には大小様々な金属球の山が残る。

 ジュニアはロボット重機から地面に降り立ち、転がっていた機械の卵を拾い上げる。


「ジャック、俺の勝ちだよ。

 マリアには、ジュニアに負けました、と報告してね」


 ジュニアは意地悪そうな顔を作り、機械の卵を握りこんでいる手の人差し指で上空を指さしながらジャックに声をかける。


「……そうだな、時間切れか。

 僕に勝てたご褒美ほうびにその卵はあげよう」


 ジャックもジュニアの背後、山側の空に現れた大きな空飛ぶ船を見る。

 アムリタは、飛空機と呼ぶには大きすぎる空飛ぶ船を、口を開けて眺める。


「ちょうどマリアも来たことだし」


 大きな空飛ぶ船から、飛空機らしきものが飛び出してくる。

 飛空機は投光器でジャックの周りを照らしながらまっすぐ斜面の広場に向かい、減速して着地する。

 操縦席右側部分が開き、中からほっそりとした体形の髪の長い女性が出てくる。


「はーい、ジャック。

 久しぶりね」


 女は柔らかな笑みでジャックに近付く。

 女は年齢が判りにくいが、おそらく三十台は超えているように見える。

 真赤な髪を腰まで伸ばし、体形が判る薄手の襟の無いシャツに長手の腰巻スカートを着ている。


「やぁ、マリア。

 最近連絡していなくてごめんよ。

 色々取り込んでいてね」


 ジャックも笑顔で応える。

 エリーも知っているのか、マリアに会釈をする。


「うん、貴方が生きているのが判れば良いわ。

 それはいいんだけれど、最近ソニアが難しい年ごろでね。

 ジャックが女の子と逃げたと言って怒って手が付けられないのよ」


 マリアはチラッとアムリタのほうを見る。

 アムリタは、だ、誰? と小声でエリーに訊く。


「ジャックの妻、マリアよ」


 マリアはニッコリ笑いながらアムリタに自己紹介する。


「ついでに言うなら、俺の母ね」


 ジュニアもアムリタに言う。

 アムリタはおどろく。


「と言うと、ジャックはジュニアのおとうさん?」


「うんそう。

 俺、本当はジャック・フライヤー・ジュニアという名前なんだ。

 誰一人そうは呼ばないけれど」


 ジュニアは言いにくそうにアムリタに説明する。

 どうもジュニアはジャック・フライヤー・ジュニアとは呼ばれたくないようだ。


「ところでこちらのおじょうさんは?」


 マリアはジャックにアムリタのことを訊く。


「アムリタだ。

 フォルデンの森で会った。

 二百年前の過去から一人で来たらしい。

 だから後見人になったよ」


 ジャックはこれ以上短くできないという説明をする。

 アムリタはこの説明じゃあ判らないだろうと思い、追加の説明をしようと口をあけた瞬間――。


「――そう。

 なら私も貴女の友達になりましょう。

 よろしくね、アムリタ」


 マリアは優しくアムリタに微笑みかける。

 アムリタは暫く絶句し、よろしくお願いします、と辛うじて返す。


「まあ、とりあえず船にのりましょう。

 サンタマリア号というのよ。

 ソニアがしびれをきらしているわ」


 マリアは皆を飛空機のほうに誘導する。

 ジュニアはジャックの足枷あしかせひもを解き、後ろから連行するようにジャックに付いていく。

 ジュニアはジャックの上半身の枷紐かせひもは外すつもりはないようだ。


「もう逃げないんだけれどなぁ」


 ジャックはぶつぶつ文句を言いながらも飛空機に乗り込む。

 一行は飛空機でサンタマリア号に移動する。

 ジュニアのロボット重機も別の飛空機で回収されているようだ。


「色々新事実が出てきてビックリしたわ」


 アムリタはエリーに言う。


「すまない。

 別に隠すつもりは無かった。

 ジュニアの身内の話なので、てっきりジュニアがそのうち説明するのだろうと思っているうちに時間が過ぎてしまった」


 エリーは弁明する。


「そうね、ジュニアが説明するべきよね」


「とは言え、アムリタ、君がもっと積極的に訊いても良かったとも思うが……」


 ジャックはさもあきれたというようにつぶやく。

 ジャックに痛いところを突かれ、アムリタは、てへへ、とごまかす。

 確かにアムリタは人の事情に踏み込んで訊かないことが多い。

 情報不足の原因の一端はアムリタにもある。


 飛空機はサンタマリア号の中に入り、停まる。

 一行はハッチを通り、通路を経て、居室に入る。

 広めのリビングのような空間である。


「あら、一番先にソニアが迎えにくると思ったけど、いないわね」


 マリアは口で言うほど、さして気にもしていないのか皆を座らせ、お茶でも用意させるわね、と言って部屋をでてゆく。


「そろそろこの枷紐かせひもを解いてくれよ」


 ジャックは立ち上がり、離れて座るジュニアに催促をする。

 ジュニアは面倒くさそうに、判ったよ、と言って立ち上がろうとしたとき、ドアが開いて、赤い髪の少女が現れる。


「ジャック、お帰りなさい。

 待っていたわ。

 あげたいものがあるの」


 赤髪の少女はジャックの首に抱き付く。

 娘が父親にするように、少女が恋人にするように、ごく自然な動作に見えた。

 だから誰もその仕草に反応しなかったしできなかった。

 ジャックは少女の体重に耐えかねたように腰を床にストンとおろし、押し倒されるように仰向けになる。

 少女は倒れるジャックに馬乗りになる形になり、ジャックの頭を床から守るように抱え、自分の顔をジャックの顔の間際に寄せ、ささやく。


「だから、その前に右目をもらうわね」


 赤毛の少女は壮絶な笑みを浮かべ、言う。

 そして右手に持つ金属製のカップのようなものをジャックの右目にあてる。

 ジャックのモノクルは床に落ち、転がる。


「うわっー」


 ジャック声をあげる。

 金属製のカップを外した後には眼窩がんかは落ち込んでいる。

 眼球を外されてしまったのだ。


「大丈夫、ちゃんとした眼を作ったんだから」


 赤髪の少女は背後からもう一つの金属製のカップを取り出し、ジャックの右目にあてる。

 しばらく押し当てた後、ゆっくり金属製のカップをジャックの顔から外す。

 ジャックの右目には眼球がはまっている。


「最初は違和感があるでしょうけれど、前の眼に比べてはるかにまともな視界になるはずよ」


 赤髪の少女はジャックの血を返り血のように浴びながらゾッとするような笑顔を浮かべ、言う。

 ジャックは右目を押さえ下を向き、うなる。


「そしてこの眼はもう私のもの」


 赤髪の少女は着ているブラウスのボタンを胸半ばまで開け、押し広げる。

 胸の谷間心臓の上あたりに皮膚が大きく落ち込むへこみがある。

 赤髪の少女はジャックの右目の入っているカップを胸の谷間に押し当てる。

 しばらく押し当てたあとカップを外すと、胸の中央付近に眼球がはまっている。

 眼球は左右上下に動き、瞬きをする。

 動くたびに胸の眼窩がんかから血が流れ、まるで血の涙を流しているようだ。


「ソニア、その眼は危ない。

 返しなさい」


 ジャックは優しく、しかし断固とした口調で赤髪の少女、ソニアに言う。


「もう遅いわ。

 もう私のものだから」


 ソニアは微笑み、しかし意思の強そうな口調で言い返す。

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