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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第一章 最終話 あなたの右目をください ~I'd Like Your Right Eye~
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第一章最終話(一)お任せあれ

 ――崩壊歴六百三十四年の五月十六日十五時


 風の谷の祭殿さいでんからの帰路、一行はジュニアのバギーに揺られている。

 バギーは街道をゆっくりと揺れながら走る。

 運転しているのはジュニアで、その隣、助手席にエリーが座っている。

 運転席の後ろの席にはアムリタとラビナ、アルンが窮屈そうに座っている。


「ラビナ、足、大丈夫?」


 アムリタはラビナの足の怪我について気遣う。


「ええ、今朝には黒いかたまりも取れて痛みもなくなったわ」


 ラビナは応える。


「骨が折れていても三日で治っちゃうんだね。

 エリーって本当に凄いお医者様なんだ」


 アムリタはエリーの治癒魔法に感心する。

 ラビナも嫌そうな顔をするものの、そうね、と返す。

 エリーは、チラリ、とアムリタを見る。


 アムリタはぐにもっと興味のある話題に移る。


「ねぇ、ジュニア。

 このバギーの運転って難しいのかしら?」


 アムリタは運転席の背もたれに引っ付きながら、興味津々のていでバギーを運転するジュニアに訊く。


「特に難しくないよ。

 アクセルを踏むと速度があがる。

 ブレーキを踏むと止まる。

 それにハンドル操作だけだね。

 速度も時速三十キロほどしか出ないようになっているし」


 ジュニアはどうでも良さそうに応え、この砂利道じゃあ、時速三十キロも出せないけどね、と付け加える。


「じゃあ、じゃあ、私にも運転させてくれる?」


 アムリタは目を輝かせてジュニアにお願いする。

 ラビナとアルンは、ギョッ、とした顔でアムリタを見る。


「ん?

 じゃあ、ちょっとやってみる?」


 ジュニアはあっさり承諾し、バギーを停止させる。

 エリーはアムリタの座っていた席に移り、助手席にジュニアが座る。

 ジュニアはアムリタに一通りバギーの運転についてレクチャーする。


「急の付く動作はしちゃだめだよ。

 急ハンドル、急加速、急停止。

 動作の結果を予測することが肝心。

 で、危ないときは直ぐに止まる。

 いいね?」


 ジュニアはアムリタに念を押す。

 アムリタは、了解です、と言いながらバギーを発車させる。

 意外と滑らかにバギーは走り出す。


「おお!

 これはなかなか……」


 アムリタは満面の笑顔で運転する。


「いい感じだね。

 歩行者がいるから減速して、距離をとって追い抜く」


 ジュニアは前方を歩く旅人を指さしながらアムリタに指示する。

 了解でーす、と言いながらアムリタは指示どおり減速し、旅人と距離を取って追い抜く。

 追い抜き際に旅人にニッコリ笑いながら手を振る。

 旅人は怪訝けげんな顔をしてアムリタを見る。


「いや、凄く上手だね。

 初めてとは思えない。

 余裕あるし。

 このままカルザスの街まで任せようかな」


 ジュニアは助手席に深くもたれてくつろいだ格好をする。

 アムリタは上機嫌で、お任せあれ、と応える。

 後部座席の面々の緊張感も多少緩和されているようだ。


「そう言えば、ずいぶん長い間、風の谷の祭殿さいでんに居たけれど、何か判ったの?」


 アムリタはジュニアに訊く。


「うーん、思っていたのと少し違っていたよ。

 君のここに来る前の情報とか、もう少し判りやすい形で残っていると思ったのだけれど」


 ジュニアは申し訳なさそうにアムリタに応える。


「でも、二百年前に石になって眠りについた少年が十年ほど前に白銀の魔法使いによって目覚めさせられたらしいよ。

 アムリタ、君と同じころの少年が……、もう少年じゃないかも知れないけれど、今も居るかもしれない」


「――!」


 アムリタとエリーは共に驚く。


「石化魔法か?」


 エリーはジュニアに訊く。


「どうもそうらしいんだよね。

 なぜ二百年前に眠りについたか、なぜ十年前に目覚めたかは判らなかった」


 ジュニアは申し訳なさそうに二人に応える。


「その子の名前は判るのかしら?」


 アムリタも訊く。


「『乳母サリー』は眠っていた子、とかお弟子さん、とか言っていたな。

 名前は出てこなかった。

 多分白銀の魔法使いの弟子なんだと思うよ」


 ジュニアはそう言うが、どうも風の谷の思考機械の言うことは要領を得ない。

 アムリタは、ふーん、と言いながら運転する。


「後、風の谷の思考機械の長期記憶はどうも夢幻郷にあるらしい。

 風の谷の祭殿さいでんでは記憶を引っ張り出すだけで凄く時間がかかって現実的ではない。

 夢幻郷に行けるといいのだけれど……」


 ジュニアは誰ともなしに独りちる。

 ラビナは視線を泳がせる。

 アルンはラビナの顔を見る。


「まぁ、多少はサプリにコピーした人格が知っているはずだから帰ったらサプリに訊くといいよ。

 サプリは今、燃料切れだし、長期記憶まではコピーできていないけれどね」


 ジュニアのサプリメントロボットはキャリバッグの中に居る。

 キャリバッグは彼らの荷物と一緒に後ろの荷台に積んである。


「アルンとラビナはカルザスの街までで良いの?

 近くならば送っていくよ」


 ジュニアの問に、ラビナはアルンを見ながら、え? ええ、と曖昧に相槌あいづちを打つ。

 ジュニアは怪訝けげんそうにラビナを見る。

 アムリタは、お任せあれ、と上機嫌で応える。

 バギーは街道沿いの街ダッカを通り過ぎる。

 この調子ならば小一時間でカルザスの街に帰れるだろう。


「ところで、ジュニアは飛空機に乗ったことがある?」


 アムリタは突然話題を変える。


「空賊の女の人が乗っていたんだけれど、凄く速かった。

 私も乗ってみたいのよね」


 アムリタは夢見るようにつぶやく。

 エリーはジュニアを見る。


「飛空機ならうちの店にも一機あるよ。

 配達に使っている」


 ジュニアはエリーの視線に気付かず軽く応える。


「えぇ!

 本当?

 今度配達に連れていって!

 お願いよ」


 アムリタは破顔してジュニアにねだる。


「配達先にもよるかなぁ。

 ま、そのうちね」


 ジュニアはさして興味無さそうに応える。

 アムリタはジュニアの応えに満足し、更にニコニコしながら運転する。


「私も飛空機の操縦できるかしら?」


「練習次第だね。

 上手くなったら配達お願いするよ」


「うふふ、お任せあれ!」


 アムリタは楽しみでたまらないという顔になる。

 ジュニアは眠そうに目をつぶり、やがて反応しなくなる。

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