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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第一章 第三話 きみが生まれた日 ~The Day You've Been Born~
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第一章第三話(六)暗闇に蠢(うごめ)くもの

「夜、外になにかがうごめいている」


 朝食の後エリーはそう言う。

 ある場所からそれは来て消えてゆくらしい。

 いくつかがエリーの魔法のわなに掛かったとのこと。


「どこから来ているというの?」


 エルザは恐るおそる訊く。


「ここから五百メートルくらいだな」


 エリーは指さしながら言う。

 エルザはその方角にあるものに心当たりがあった。

 三人はその場所に出かける。

 トニーは犬を三匹連れていく。


 エリーは歩きながら空中に光る文字で文をつづる。

 文は銀色に輝き、すぐに消える。

 その作業を延々と繰り返す。

 書いている文は様々に変化していく。

 エルザが見るに、目的の場所に魔法を飛ばしているようだ。


「この先に穴がある」


 エリーはエルザに確認するように言う。

 エルザは、ええ、と応える。


「君の開けた穴か?」


 エリーは歩みを止めず、空中に文字を書きつらねつつエルザに訊く。

 ここでいう穴とは直交空間と通常の空間をつなぐゲートの事だ。


「そうよ。

 私たちはそこから入ってそこから出ていくつもり」


 エルザは正直に応える。


「今まで私が見た穴と少し様相が違う」


「どのように?」


 エルザはエリーの不審なもの言いに抗議するように訊く。


かすかに活性化している」


「ええ?」


 エルザはおどろく。

 そんなはずはない。

 確かにエルザの開けた穴はエルザが確実に不活性化させた。

 そうでなければ危険極まりない。


 大きな木の前の微かな空間の歪み。

 その前にエリーとエルザ、その夫のトニーは立つ。

 エルザはその空間に手をかざすと銀色に光る二重の円に接する五芒星ごぼうせいが浮かび上がる。

 二重の円の間には状にかすれた文字が浮かぶ。


「なるほど、かすかに活性化しているわね。

 確かに不活性化させたはずなんだけれど」


 エルザは認めざるを得ない。

 自分がこのようなミスをすることが信じられなかった。

 このサイズの穴では虫程度しか移動できない。

 しかし危険であることには変わりがない。


「君たちはここに来たあと、自分たちが通ってきた穴を必ず不活性化する。

 合っているか?」


 エリーは訊く。

 エルザには耳の痛い質問である。


「うん、いつもはそうなんだけれど失敗したかもしれない」


 エルザは納得いかないながらも自分のミスであると考える。


「君たちは、空間の魔女は、そんな失敗はしない。

 生死がかかっているのだから」


 エリーはエルザに優しく語りかける。


「このかすかな穴は、この穴が不活性化されたあと、再び開けられたものだよ」


 エリーはそう言って五芒星ごぼうせいに触れる。


「みてごらん、みだしてくる」


 エリーが言うと、五芒星ごぼうせいの裏、空間のひずみからポトリと黒い『なにか』が落ちる。

 その『なにか』は地面に落ち、カサカサと走り出す。

 しばらく走った後、地面に亀裂が入り、禍々しい沢山の歯が生えたあぎとが現れ、その『なにか』を飲み込み閉じる。

 跡にはなにも残らない。


「え!

 今、何か落ちてこなかった?」


 エルザは驚きエリーに訊く。


「古きものの一部、だね。

 私のわなに掛かった。

 この穴は不活性化したほうが良くないか?」


 エリーはサラリととんでもないことを言う。

 古きものの一部だと?

 それがこっちの世界にみだしてきていると言うのか?

 エルザは混乱する。


「も、もちろん不活性化するわ」


 エルザは右手を光る五芒星ごぼうせいに当て、人差し指で光る五芒星ごぼうせいの周りの二重の円の間にある弧状に書かれた文字を消していく。

 全ての文字が消えた後、五芒星ごぼうせいは光を失い、灰色になりやがて消える。


「古きものがこの空間にみだしてきている。

 用心が必要だ」


 エリーはエルザに向き直る。


「この穴の向こうに古きものが居るということ?」


 エルザはあまり考えたくない想像を口にする。


「恐らく。

 この穴は一度閉じられた後にじ開けられている。

 ここが再び開けられたら判るようにしておこう」


 エリーは穴のあった付近の空間に光の文字で文を描く。

 文字は銀色に輝き、書かれては消え、書かれては消える。

 暫く書き続けた後、エリーは文字を書く作業を止める。

 エリーが言うには、文字は古代ルーン文字のアラビア語転写であるという。

 文字は右から左につづられ、銀色に光り、直ぐに消える。

 エリーの魔法は、一つひとつは弱いものであるが、重ねることにより強い護りになるという。


「この穴はもう使わないほうが良いのかしら?

 困るなぁ、元の時に戻れないじゃないの」


 エルザはトニーのほうを向いてつぶやく。

 トニーも険しい顔でうなずく。

 エルザはにおちない。

 直交空間と現実世界では時間の相関が無い。

 相関が無いがゆえに現実世界で直交空間への穴を開けた場合、その穴は閉じようが開かれたままであろうが、現実世界では十秒ほどしか維持されない。

 その数秒の間に、何者かが現実世界から直交空間に入ってくることが危険である。

 そのため、穴は不活性化されなくてはならない。

 それはこの空間に来るものの常識だ。

 それは良い。


 しかしだ、この穴はエルザにより不活性化されている。

 それが再度、微かといえども活性化されている。

 エルザたちがこの穴を通過して、エルザがこの穴を内側から不活性化した数秒の間に古きものは現れ、穴を外側からじ開け、自分の体の一部を滑りこませていることになる。

 つまり、外側に居る古きものは、異常な速度で一連の作業をしている。


 古きものを呼び寄せてしまったのはエルザが使った、直交空間に穴を開ける魔法の行使だ。

 禁呪の行使によりエルザは古きものに追われることとなってしまった。

 だから、妊娠している今、出産するまでの身動きの取れない期間、この直交空間で暮らすことを夫に提案し、同意を得たのだ。

 ここはエルザ達にとって安全な場所のはずだった。


 しかし一部とは言え、古きものがこの空間にみでてきているという。

 それも一度ならず幾度も。

 忌々(いまいま)しき事態と言わざるを得ない。

 この直交空間を古きものに、彼らの眷属けんぞくに渡すことはできない。

 彼らの手に渡れば、過去封印された古きものたちを解き放たれてしまう可能性があるからだ。

 そうなれば、現実世界を含め、人間の版図はすべて古きものに蹂躙じゅうりんされてしまうだろう。


「エリー、ここにみでてきたものたちはどこに行ってしまったの?」


「判らない。

 一つひとつならばたいしたことはないが、数が集まれば危険だ」


 エリーは何か考えるように霧の奥を見つめる。


「いずれにしろ対策を考えなくてはならない」


 エリーはそう言って、帰路につく。

 エルザとトニー、更に犬たちがそれに続く。

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