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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第五章 最終話 空中庭園の迷(まよい)子 ~The lost Child in Orbit-Space Hanging Garden~
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第五章最終話(十四)どんどん消えてゆく

「どんどん消えてゆくのね」


 ソニアは(つぶや)く。

 場所は魔の荒野の地下、地下鼠(ちかねずみ)たちの洞窟にある会議室。

 部屋は地下鼠(ちかねずみ)体躯(たいく)にしては広く、彼らのサイズにあった会議用のテーブルがある。

 天井は人間の感覚では低いが、それでもソニアの身長ならば余裕がある。

 テーブルには地下鼠(ちかねずみ)の族長であるガンメタル、マロン、その他数人の地下鼠(ちかねずみ)たちが着席している。

 ソニアはテーブルの横、毛の長い絨毯(じゅうたん)の上に足を流して座っている。


「ええ、最初はテオとミケ、チャトラ、ホワイトヘッドさんを探していたのですが多重遭難の様相を呈してきました」


 マロンは、まったく世話の焼ける話です、と続ける。


「完全に行方不明、というわけでもないんだよね?」


「ええ、少なくともサビとアオは吟遊詩人のアンシュさんと一緒に南海の島に向かっているはずです」


 マロンの言葉にはなにやら冷たい感情が見え隠れする。


「話、聞いているとそのアンシュっていう吟遊詩人、男の人なのにそんなに美人さんなの?」


 ソニアは躊躇(ためら)いがちに訊く。


「ええ、それはもう!」


 マロンは間髪入れず即答する。


「へえー、私も会ってみたいかなー」


 ソニアは頭を掻きながら笑う。


「ああ、ソニアも好きなほうなんですね。

 私も付いていけるものならば一緒に行きたかった……、なんてことは……、ないですけれど……」


 マロンは途中までかなりの勢いであったが、途中からガンメタルが居ることを思い出してか声が小さくなってゆく。

 ガンメタルはマロンの義祖父だ。


「アンシュさん一行が目指しているのはネナイライ山。

 南海の果てにある宇宙にまで届くと言われている巨峰。

 なのに辿(たど)り着けない幻の山なのです」


 マロンは、コホン、と空咳(からせき)をして、真面目な口調で説明する。


「幻の山?」


 ソニアは胸の眼で南海の地形を探る。

 ソニアの人工衛星は大陸の上を東西に回っている。

 南海の島々はかなりの角度となっていてよくは分からない。

 しかしなるほど、冗談のように高く鋭い塔のような山々が林立している。


「確かに針みたいに(とん)がった山がいくつかあるわね。

 一つは非常識なほどの高さがあるわ」


「あ、見えますか?

 一つだけ別の島にあって他を圧倒するほど高い山なのですけれど?」


「んー? 全部同じ島にあるように見えるけれど……」


 ソニアの胸の眼が、より遠くを見るように細められる。


「ああ、それならバハルナ島です。

 一番高い山はヌグラネク山、バハルナ島にある霊山です。

 ヌグラネク山もとんでもなく高い山なのですがネナイライ山はヌグラネク山よりも圧倒的に高い山だと言われています。

 バハルナ島よりも南の奥に見えます。

 南方に行くと見えるんですけれど、辿(たど)り着けないので幻の山と言われています」


辿(たど)り着けないの?」


 ソニアは感情の無い口調で問う。

 ソニアは人工衛星の画像記録から南方の島々を眺める。

 一つの島、恐らくはバハルナ島に冗談のような高い山々が見える。

 他の島にも同様の山は有るがバハルナ島ほどに高さと密度を有している島は無い。

 ネナイライ山はソニアの胸の眼、人工衛星の画像に写っていないことになる。


「伝説ではそうです。

 でも、行き方さえ知っていれば辿(たど)り着けるようです。

 少なくともアンシュさんはそう言っていました」


 マロンはアンシュの説明を力説する。

 ネナイライ山は常在する暴風雨圏の下を(くぐ)り抜ければ辿(たど)り着けるらしい。

 逆に言えば空を飛んでネナイライ山に行くことはできない。


「暴風雨圏?」


「ええ! 凄い暴風雨です。

 アンシュさんのヨットを追っかけて行ったのですけれど無理でした。

 結局私たち、アオにサルナトまで帰してもらいました。

 そのあとサビとアンシュさん、サビの後を追っかけたアオとも連絡が取れなくなっています」


「ふうん? 地球猫の二人が同行しているのね?

 じゃ、そのアンシュって人を含めて無事といえば無事ということね?

 その幻の山、ネナイライ山って言ったっけ? に着いたということじゃない?」


 ソニアは空中を見ながら訊く。


「ええ、恐らくは……、ずるいです!」


 マロンは悔しそうに言う。

 サビがアンシュに同行できていることが羨ましいらしい。


「えっと、サビたちの状況は分かったとして、アルンたちは?」


 ソニアは目下、最大の関心事を訊く。

 先ほど少し話したが……、とガンメタルが説明を引き継ぐ。


「五日ほど前、アルンが夜中にやってきた。

 これはいつものことだ。

 アルンは情報交換のために毎週やってくるがたいていは直ぐに帰る。

 ただそのときは、明日知り合いが来るかもしれない、と言って泊まっていった。

 言葉通り次の日、アルンの友人、人間の女性がやってきた。

 ただの人間ではない、魔女だ。

 金髪の若い美女であったと聞く。


「魔女は自動人形を引き連れてゲートから現れ、東の森でウッドゴーレムを創り、アルンと孫二人、パールとシメントを乗せてダイラトリーンに向かった。

 ダイラトリーンで食料や物資を仕入れた後、ウッドゴーレムに乗って南方の海に向かったところまでは確実だ。

 そのあとは海賊と交戦して打破したであるとか、暴風雨のほうに向かって行っただとかの未確認情報があるが真偽は不明だ。

 (わし)らが(つか)んでいる情報は以上だ」


「魔女……、金髪の若い美女……。

 名前は分かりますか?」


 ソニアは腕組みをして考える。

 眉間に(しわ)がよっている。

 ソニアにとって金髪の魔女とはアムリタだ。

 しかしアムリタは今、自分の代わりにリフトのパイロットとして頑張っている。

 四五日前であるならばアムリタは無関係であろう。

 ウッドゴーレムを創るなど(おぞ)ましい所業を行うならばエリーなのかとも思うが、エリーはエリーでジュニアと一緒に居るはずだ。

 アルンの知り合いの魔女で金髪の若い美女……、ソニアには思い当たるフシがない。


「申し訳ない……、パールとシメントは知っていたようだが、(わし)らは訊くことを失念していた。

 我らのエージェントがダイラトリーンでパールと接触した際、パールは行き先をバハルナであると思い込んでいたらしい。

 ならばバハルナで情報交換すれば良い、そう考えていた。

 だが、彼女らの行く先はバハルナではなかったのだろう」


 ガンメタルは苦渋の表情を浮かべている。

 彼にしても孫二人が行方不明になってしまったのだ。


「それでガンメタルさんはパールたちの行方が、サビたちと同じネナイライ山ではないかと予想しているのですね?」


 ソニアはガンメタルの眼を見て確認する。


「左様……、根拠はないがの。

 だがしかし、南海の島、人探し、それに暴風雨、偶然にしては一致点が多すぎる」


「確かに……」


 ソニアとしても認めざるを得ない。


「場所が南海の諸島ですので、地下鼠(ちかねずみ)の苦手な地域です。

 情報ネットワークが薄いのです。

 エージェントは居ることは居ますが、密な情報交換はできません。

 地球猫のキジシロたちに依頼してサビやアオの行方を追ってもらっているのですが、(いま)だ暴風雨圏を超えることができていません」


「ふうん? 幻の山は伊達(だて)ではないというところかしら?」


 ソニアは乾いた口調で言う。

 あまり関心があるようには聞こえない。


「ってソニア、アルンが心配ではないんですか?」


 マロンは不思議そうに訊く。


「アルン? 若い美人の魔女と一緒なのよね? 金髪の?

 なら大丈夫なんじゃないかな?」


 ソニアの口元は笑みを作る。

 眼は笑っていない。


「ソニア、もしかして怒っています?」


 マロンはやや(おび)えた顔でソニアを見る。

 ソニアは、別にー、と視線を右上に泳がせる。


 暫し沈黙が訪れる。


「……あ、でも心配なんでしょ?

 探しに行かれるんなら御供しますが……。

 キジシロたちにと合流すればなんとかなるかも知れませんよ?」


 無言に耐えられなくなりマロンは愛想笑いを浮かべて提案する。


「え? えっと……、今は(まず)いんだ、現実の私の体が。

 宇宙旅行中なのよ。

 ほったらかしにしていると死んでいた、ということになりかねないの」


 ソニアは気まずそうに応える。


「へえ? 宇宙空間ですか?

 良く分からないですが取り込み中ということですね?」


 マロンは、理解できない、という表情を示すが深くは訊いてこない。


「うんそう、いつでも現実世界に帰られるようにしておかなければならないの。

 二週間もしたら地球に戻るからそのときにお願いできるかな?」


 ソニアは、にー、と笑いながら胸の前で合掌する。


「はあ、二週間も先ならいくらなんでも皆、帰ってきているとは思いますが……」


 マロンは(つぶや)く。

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