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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第五章 第一話 宙(そら)から降ってきた少年 ~The Boy Who's Come Fallin' down from the Skies~
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第五章第一話(十二)一緒にやろうぜ

 ――崩壊歴六百十五年の八月四日午前九時


「じゃ、本番行こうか」


 ヨシュアはジャックに声をかける。

 ダッカの飛空場、だだっ(ぴろ)い広場の中央だ。

 ヨシュアは操縦士席に座り、レバーを操作している。

 飛空機の四つあるジェットエンジンのノズルはすべて下を向いている。


「よろしく。

 前の二つは二万二千、後ろは二万で釣り合うはず」


 ジャックは後部座席に機材を広げ、ダイヤルを操作している。

 機材にはコンソールとメーター類、多くのボタンやダイヤル、レバーがある。

 そしてそれらはケーブルを介して黄色いサポートロボットに(つな)がっている。


 ヨシュアは、了解、と言いながら左手の指四本で四つのレバーを引く。

 四基のエンジンはそれぞれ独立して出力を変えられる。

 それを左手のみでコントロールするために、複数の小さなスライドレバーの付いた大きなレバーがある。

 ヨシュアとジャックはそれらの調整を行っているのだ。

 作業は早朝から始められ、今では最終段階に入っている。


「右後ろが重たい……四ポイント上げてくれ。

 左前は少し落として……、一点五ポイントくらい、ああそれくらい……。

 出力を上げるぞ。

 後ろ二つを少し上げて……」


 ヨシュアはジャックに指示をだす。

 ジャックは機材のコンソールを細かく調整してゆく。

 四基のエンジンが(うな)る。


「どう? バラツキは許容範囲内だと思うけれど」


 ジャックはコンソールを見たまま訊く。


「そうだな、じゃあこの設定でいったんホールドしよう。

 いくぞ!」


 ヨシュアはエンジンの出力を上げる。

 エンジンは激しい回転音に変わる。


「前方ヨー(前後への回転)方向補正……、そのまま上げて」


 ジャックは言う。

 ヨシュアはそのまま出力を上げ続ける。

 飛空機は地面を離れ、宙に浮く。


「いいね、そのままホールド……、設定を保存した。

 エンジンを倒しながら出力を上げて……、そう後ろが先行するように……、さすがに上手い。

 これも保存、っと。

 しかしよくこんなものを練習もせずに操縦できるなあ」


 ジャックはブツブツと(つぶや)く。

 ヨシュアは思わず笑う。


「自分で作っておいてよく言うな。

 俺らの飛空機のどれも、この飛空機ほど洗練されていないぞ?」


 ヨシュアは飛空機を微速前進させながら言う。


「そろそろ良いか?」


 ヨシュアは後ろを振り向きながら訊く。


「そうだね、先ずは慣らし……、上限三万五千回転、三Gまででよろしく」


 ジャックもヨシュアを見返し、サムアップしながら言う。

 ヨシュアは、ニヤリ、と笑い、サムアップで返す。

 エンジンの音は更に甲高いものになる。

 飛空機は滑らかに速度と高度を上げてゆく。


「出力安定、地表までの高度三百五十」


 ジャックは計器を見ながら言う。


「この高さからならパラシュートが使えるからな」


 ヨシュアは笑う。

 ジャックはコンソールから目を離し、窓の外を見る。

 ダッカの街は(はる)か後方となり、河と街道が下に見える。

 両側には緑多い山々が見える。


「うわー良い眺め……、生まれてきて良かったって思うね」


「まったくだ。

 この翼に感謝だな」


 二人は笑いあう。


「この機体は良いな」


 ヨシュアは言う。

 ジャックは(うれ)しそうに笑う。


「性能が悪いところが良い」


 ヨシュアは振り向き、ジャックの顔を見る。

 ジャックは(おどろ)いた顔をする。


「わざとだろう?」


 ヨシュアは悪い笑顔でジャックを見る。


「えーとね、ハリーが乗るんなら安全重視のほうが良いかな、って思ってね」


 ジャックは弁解口調で応える。


「安全方向に振りすぎなんじゃないか?」


 ヨシュアは笑う。


「まあ、白状するとね、練習したとしても僕じゃこの程度しか操縦できる自信が無いんだよ」


 ジャックはバツの悪そうな顔で言う。

 ヨシュアは、わははは、と笑う。

 ヨシュアは無造作にスロットルレバーを引く

 エンジンは三万五千まで回される。

 飛空機は高度と速度を増してゆく。

 山々の木々、野原、街道、川、下界はジオラマのようにすべてが小さく見える。

 ジャックは窓に張り付いて風景を見つめる。


「遠慮することないさ、最高のものを作ってくれよ。

 俺はお前の全力の機体を飛ばしてみせる。

 それに俺がお前に操縦を教えてやるさ」


 ヨシュアは前を見たまま言う。

 しかし口調には笑いが含まれている。

 ジャックは、ヨシュアの後頭部を見る。


天垂(てんすい)の糸近くの基地、制圧してきた。

 そこにはな、古い飛空機がダースであったんだよ。

 一緒にやろうぜ、マリアのカンパニーを。

 全部を復活できれば、西域の制空権は俺たちのものだ」


 ヨシュアは左肩を引き、背もたれを超えて振り向く。

 顔は笑っている。

 ジャックは笑顔で(うなず)く。


「ああ、やろう、そのカンパニーとやらを」


 ジャックは破顔する。

 ヨシュアは左手でサムアップし、ウインクする。

 ジャックもサムアップした右(こぶし)を、ヨシュアの伸ばす左(こぶし)に合わせる。

 飛空機は大きな弧を描き、中原の空を飛ぶ。

 飛空機の作る飛行機雲が空に模様を描いてゆく。

第五章 第一話 (そら)から降ってきた少年 了

続 第五章 第二話 天垂(てんすい)の糸を見上げて

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