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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第三章 第一話 土星猫への威嚇(いかく) ~The Hisses to the Saturn-Cat~
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第三章第一話(八)サルナト、三度目の復興

「ここがサルナトの街か」


 ジュニアは白い石造りの建物の街を見上げ、感慨深そうに呟く。

 街は周囲をとりでで囲まれ、中には幾つもの尖塔せんとう、丸い屋根の寺院のような建物がある。

 そしてその周囲に町並みが続く。

 街の門は大きな木の扉が有ったのであろうが今は朽ち落ちていて、大きな石のアーチが有るだけである。


「見るからにかなり高い文化レベルにあったみたいだね。

 外灯は発光ダイオードだ。

 電化されていたようだ。

 どこかに発電設備があるのかな?」


 ジュニアはキャリバッグの中から茶色の筒のようなものを取り出す。

 筒には半円形の頭と手足がついている。

 ジュニアのサプリメントロボットだ。

 ジュニアはサプリメントロボットを地面に置き、小声でささやく。

 サプリメントロボットは眉毛をキリリと吊り上げ、判ったわ、と応える。

 そしてスタタ、と駆け出し、街並みの中に消える。


「どうでも良いけど、早く寝るとこ決めないと直ぐに暗くなってしまうわよ」


 ラビナが言う。

 ラビナは野宿を苦にしない。

 草むらの上、森の下生えの上、どこでも寝られるようだ。


「うん、判っている。

 比較的まともそうな寝所を今探しているところ」


 ジュニアは四角い箱のようなものを手に持ち、上面には画面をのぞいている。

 画面には緑色の文字が下から上にスクロールしてゆく。


「うん、素材はたっぷり有るようだ。

 レプリカを作る」


 ジュニアは画面を見ながらつぶやく。


「ジュニア、何をしているのにゃ?」


 サビが訊く。


「この街は廃墟はいきょだけれど、破壊にあったわけでは無いんだ。

 単に老朽化しているだけで。

 だから修復すればある程度は使えるようになる」


 ジュニアは箱の画面を見たままサビの問いに応える。

 周囲が騒がしくなる。


「にゃにゃ?」


 チャトラはつじの向こうに動くものを見つけ跳びつく。

 そこには茶色の筒に手足を付けたものが二足歩行している。

 ちょうどジュニアのサプリメントロボットの頭を無くした形をしたようなものが自律歩行している。


「頭がなくなっているのにゃ?」


 チャトラは慌てる。

 しかし周囲に多数の同じものを見つける。


「にゃにゃにゃ?

 なんか大量に出てきたにゃ!」


 チャトラは再び戻ってきてラビナの後ろに隠れる。


「発電機を見つけた。

 けど、かなり老朽化している。

 一応修理するけれど、作り直す必要があるね」


 ジュニアはつぶやく。

 遠くで、溶接の音や板金のつちの音が響き渡る。

 頭のないレプリカロボットたちは、各々(おのおの)外灯に、建造物の中に、建造物の外壁に取り付き、作業を行う。


「石炭が大量にある。

 当面の燃料は石炭を加工したものを使う。

 あとは鉄・銅・マグネシウム・アルミニウムが比較的潤沢(じゅんたく)

 金・銀もそれなりにある。

 白金・パラジウム・ネオジム・イットリウムも少ないなりにあるね。

 これは凄い。

 何でもありだ。

 燃料棒だって作れる」


 ジュニアはうれしそうにいう。

 レプリカロボットたちにより外灯が磨き上げられ、路面や建物は掃除されてゆく。

 もともと白かった街並みは実はくすんだ灰色であったようで、今や輝くばかりの白さになってゆく。


 山陰やまかげに夕日が落ち、周囲は茜色あかねいろに染まっていく。

 するとジュニアたちが立つとおりの外灯がジワリと灯る。

 続いて周囲の外灯が次々に灯ってゆく。


「おお!

 凄い!

 綺麗きれいだ!」


 テオは街並みを見て叫ぶ。

 暗くなる街並みにくらい外灯の明かりが、建物の明かりが灯り、白磁の街をあでやかに幻想的に浮かび上がらせる。

 ミケもサビも大きな目を見開き、街の明かりを見る。


「まるで魔法のようにゃ。

 ジュニアは凄いにゃ」


 サビも大きな目をクリクリと見開き、感嘆の声をあげる。


「この先のつじに適当な民家がある。

 今夜はそこに泊まろう。

 柔らかい布団は無いけれど、湖に生えている麻を加工して何かしら用意するよ」


 ジュニアは、こっちだよ、と言って歩きだす。

 一行はジュニアに続く。

 ジュニアは十字路の角にある大きな建物の前に立つ。

 中から光が漏れてくる。


「ここだよ」


 ジュニアは建物のドアを開け、皆を中にいざなう。

 中には電灯がともされ、レプリカロボットが二体、忙しそうに働いている。

 テーブルと椅子を作っているようだ。

 見るみるうちに出来上がる。

 続いてキッチンを作り始める。


「まあ、とりあえず座ろうよ」


 ジュニアは着席を勧める。

 そして背負袋の中から干し肉、魚の干物、パン、茶葉を取り出し、テーブルに置く。

 ガチャリとドアが開き、別のレプリカロボットが入ってくる。

 頭の上に水の入ったバケツが乗っている。

 手にはヤカンとカップを六つ持っている。

 ジュニアは、ありがとう、と言って受け取る。

 ジュニアは出来たてのキッチンでヤカンに水を入れる。

 このキッチンは火がなくてもヤカンで湯を沸かせるようだ。

 ヤカンとは別に鍋にも水を入れて沸かす。

 皆はそれぞれ食べ物をとって頬張ほおばる。


「ここに根城ねじろを構えるよ。

 他に気に入った所があればそこを整備するから言ってね」


 ジュニアはパンを取ってかじりながら言う。

 ラビナは干し肉をくわえながらうなずく。


 ジュニアはお茶をれ、ラビナとテオの前に置く。

 あら、ありがとう、とラビナは言い、有り難い、とテオも言う。

 ジュニアは鍋でキウイのツルを煮出してカップに注ぐ。

 そしてミケ、チャトラ、サビの前に置く。

 サビも、ありがとうにゃ、と言い、にゃー、と笑う。

 ミケは、フンフン、とカップの臭いを嗅ぐなり、ふにゃー、とテーブルに顎をつけてへたり込む。

 チャトラも、助かるにゃ、と言ってチビリチビリとカップの中の液体をめる。


「この水は川のものなんだ。

 湖の水は飲めないね。

 かつては川の水がサルナトまでひかれていたらしいのだけど、川の流れが変わってしまっている。

 治水工事が必要だね」


 ジュニアは気軽に言う。


「ここの物資で光の谷の奪還はできそう?」


 ラビナは足を組んで椅子に優雅に座り、カップのお茶をすすりながらジュニアに訊く。


「ここだけの物資ではかたよっているね。

 どこかで交易は出来ないかな?」


 ジュニアはラビナに訊く。


「何が必要なの?」


 ラビナは訊き返す。

 綿花とか、とジュニアは応える。


「いやそれ、寝床の為だし。

 光の谷の攻略全然関係ないし」


 ラビナは楽しそうに茶化す。

 ジュニアは、食料も、と言って笑う。


「光の谷奪還に必要なのは火薬類かな?

 出来合いの火薬を仕入れられればいいけど、無ければ材料から造るしかないね。

 硝石、硫黄、木炭、その他諸々。

 硝酸、硫酸があれば話が早いのだけれど。

 最初はもっとささやかに、隠密行動で光の谷に行こうと思っていたけど、ここの物資を見ると欲がでてくるね。

 ジャックのおもちゃを、ラビナの制御下にある別のおもちゃで置き換えるのもいいかもしれない」


「ふーん、よく分からないけれど、交易をしようにもこの辺の街なんて南の山を超えたナイ・マイカくらいしかないわよ。

 凄くしょぼくれた街よ」


 ラビナはナイ・マイカの住人が聞いたら怒るであろう感想を述べる。


「でも、任せなさい!

 私とミケで買い付けてくるわ。

 手数料は上がりの一割ね」


 ラビナは拳で胸をドンとたたき、笑う。

 双方から一割ずつピンハネしそうだね、とジュニアはいぶかしげにつぶやく。

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