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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第三章 第一話 土星猫への威嚇(いかく) ~The Hisses to the Saturn-Cat~
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第三章第一話(五)右手の指し示す先

 夜、ジュニアはダイラトリーンの宿屋の一室に居る。

 部屋は清潔でそこそこ広い。

 狭いベッドが二つと簡易ベッドが一つある。

 対面になった一人がけソファの間にテーブルが置かれていて、ジュニアはそのソファに座って作業をしている。

 チャトラとサビが二つのベッドでそれぞれくつろいでいる。

 二人とも美味おいしいものを腹いっぱい食べて機嫌が良い。

 部屋は二部屋借りていて、女性陣、男性陣に分かれて泊まる予定だが、テオとラビナ、ミケの三人は酒場に長居している。

 残る三人は付き合いきれず宿屋に戻っている。

 サビは呑兵衛のんべえたちが戻るのを男性陣の部屋で待っているわけだ。


 ジュニアはテーブルの上に四角い箱のようなものを置いている。

 箱の上面には画面が有り、光点が明滅している。

 しかしジュニアは箱を見もせず、なにやらを作っている。


「なんで猫耳を作っているのにゃ?」


 サビはジュニアが作っているものに興味を示す。


「うん、先ほどは猫耳を馬鹿にしてしまったので心を入れ替えようと思ってね」


 ジュニアは真顔で返す。

 サビは、にゃはは、と笑う。

 ジュニアは猫耳を頭に付ける。

 猫耳の色はジュニアのくり色の髪によく馴染なじむ。

 そして横を向けたり倒してみせたりする。


「すごいにゃ、本物みたいに動くのにゃ」


 サビがジュニアの猫耳に驚く。


「ジュニアは地球猫だったのかにゃ?」


 チャトラは目を丸くする。


「君らのそのノリの良さはなんなの?

 でも良くできているだろう?

 脳波に感応して動くんだ」


 ジュニアは笑いながら説明する。

 猫耳無き者への猫耳の贈り手さ、ジュニアは続ける。

 サビは目を細めて、ふふふん、と笑う。


「それはそうと、ジュニアはシャワーを浴びてきたほうがいいにゃ」


 サビは鼻をヒクヒクと動かしながらジュニアに言う。


「うん、君が部屋に戻ったら入ろうと思っていたのだけれど、におう?」


 ジュニアは袖のにおいを嗅ぐが自分ではにおいが分からない。


「そうにゃ。

 黒いガレー船の臭いが移っているにゃ。

 ラビナからもしてたにゃ。

 このにおい苦手なのにゃ」


 サビは笑顔ながらも冷たい口調で言う。

 そうにゃそうにゃ、とチャトラも口を合わせる。

 くさいと言われてジュニアは少し悲しい気持ちになる。


「あの黒いガレー船はなんなのだろうね?

 ぎ手が大勢居るはずなのに誰一人としておかに上がってこない。

 おかにあがって商談をしている船員も一切食料品を買わないし飲食店にも来ない。

 宿泊もしない。

 交易しかしない」


 ジュニアは道具や作ったものをキャリバッグにしまいながら猫たちに訊く。

 テーブルの上には画面の付いた箱のようなものだけが残る。


「知らないけれど禍々(まがまが)しい者たちにゃ。

 あの黒いガレー船が来るたびに行方不明者がでるにゃ。

 関わり合いにならないほうがいいのにゃ」


 チャトラは心底嫌そうに言う。

 確かに禍々(まがまが)しいね、と言いながらジュニアは着替えを持ち、シャワールームに向かう。

 シャワーは温度が上がらずぬるい。

 あまり泡の出ない石鹸せっけんがあり、それで体を洗う。


 ジュニアが体を拭き、着替えてシャワールームから出ると、チャトラとサビは画面の付いた箱のようなものをのぞきこんでいる。


「どうしたの?」


 ジュニアはれた髪をタオルで拭いながら二人の地球猫に訊く。


「なんか赤い点がビカビカ点滅しだしたにゃ」


 チャトラがジュニアに応える。

 ジュニアは、ふぅん、と言いながら箱の画面を眺める。


「黒いガレー船が動きだしたね」


 ジュニアはキャリバッグを開きながら言う。


「なんで分るのにゃ?」


 サビは訊く。


「黒いガレー船の船員にプレゼントした蓄音機に電波ビーコンを仕込んでおいたんだ」


 ジュニアはサラリと応える。

 サビは、悪者にゃ、と言って、にー、と笑う。

 ジュニアはサプリメントロボットを取り出し、床に置く。


『やっと出番かしら?』


 サプリメントロボットは両手を腰に当てるポーズをとる。


「にゃにゃ?」


 チャトラがサプリメントロボットの前に飛びつき、顔を近づける。

 サビも同様にサプリメントロボットの近くまで駆け寄り目をキラキラ輝かせながら見つめる。


『な、なに?

 この子たち』


 サプリメントロボットはややおびえたように右足を退く。


「しゃべったにゃ、生きているのにゃ」


 チャトラは右手でサプリメントロボットをはたく。

 サプリメントロボットは、ひぃ、とおののきながら壁を背に両手で顔を覆う。


いじめないでやってくれよ」


 ジュニアはチャトラとサビからサプリメントロボットを守るように分け入り、サプリメントロボットに猫の付け耳を付ける。


「猫のロボットにゃ。

 珍しいのにゃ」


 チャトラは猫耳を付けたサプリメントを見て驚嘆きょうたんするように言う。


「サプリ、お願いするよ」


『分ったけど、この子たち邪魔させないでね』


 サプリメントロボットは両眉をハの字にたれ下げ、懇願こんがんするように言う。

 そして窓に向かい、窓枠に立ち、海のほうに右手をかざす。

 そしてゆっくりと右手を右に動かす。


『早いわね。

 十秒で一コンマ三デシベルの割合で減衰していくわ。

 更に加速している』


 サプリメントロボットは右手で方向を示しながら報告する。

 方角としては西だ。


『ありえない。

 計算上秒速七十メートルを超えているわ。

 ガレー船の速度ではないわね。

 空でも飛んでいるのかしら?』


 サプリメントロボットの報告は続く。


「そっちの方向はおかがあるのにゃ。

 黒いガレー船は空を飛んでいるのにゃ」


 チャトラは納得できないといった体でつぶやく。

 心なしかサプリメントロボットの腕は仰角をもって指し示されている。


『どんどん減衰してゆくわ。

 もう方向しか分らない』


 報告するサプリメントロボットの右手は徐々に上に持ち上がってゆく。

 にゃにゃにゃ? とチャトラはサプリメントロボットの指し示す腕の角度に驚く。

 サプリメントロボットの右手は時間をかけ、上へ上へと持ち上げられてゆく。

 そしてついに南西の空に輝く月を指し示し止まる。


「あー!

 あいつら月から来ているのにゃ!」


 チャトラは髪の毛を逆立てて唸る。

 サビも同様に髪の毛を逆立てている。


「ちょっと月まで偵察に行ってくるにゃ!

 サビは応援を頼むのにゃ」


 チャトラはそう言うが早いか、窓から跳び降り、地面に立つ。

 そして四這よつんばいになったかと思うと、にゃーん! と叫び大きくジャンプをする。

 チャトラは月に吸い込まれるように消えてゆく。

 サビは、にゃーご! にゃーご! と大きな声で窓の外に鳴く。

 すると遠くから同じように、にゃーご! にゃーご! と鳴き声が呼応する。

 にゃーごの声は連鎖するように遠くから多数聴こえ鳴りやまない。

 どこからか、うるせー! という怒鳴どなり声も混じる。

 それでも猫の鳴き声が街中に響き渡る。


 空中から何かが降ってくる。

 それは地面に四這よつんばいに着地する。

 ジュニアの見知らぬ地球猫だ。

 更に幾人かの地球猫が空中から降ってきて、見る間に数十人を超える数となる。


「なにが起きているの?」


 ジュニアは状況に圧倒され、サビに訊く。


「月の台地を守りに行くのにゃ!」


 サビは大声で窓の外に叫ぶ。

 窓の外の地球猫たちは、にゃー! と鳴き片手を天に突き出す。

 分けが分からないものの、緊急時であることはジュニアにも理解できる。

 ジュニアは画面の付いた箱とサプリメントロボットをキャリバッグにしまい、今後に備える。


 更に天から何かが降ってくる。

 地球猫たちは天から降ってくるものの着地点あたりを円形に空ける。

 今度の落下体は他の地球猫たちに比べて早い。

 地面を丸く陥没させながら四這よつんばいで着地したのはチャトラだった。


「黒いガレー船が月獣たちの元に行っているのにゃ!

 やっつけるのにゃー!」


 立ち上がるなりチャトラは叫ぶ。

 再び地球猫たちは、にゃー! と呼応する。

 チャトラは四這よつんばいに身を屈め、続くのにゃ! と叫び、にゃーん! と言いながら月に向かってジャンプする。

 他の地球猫たちもチャトラに続き、にゃーん! と叫びながら次々と月に向かってジャンプしてゆく。


「なんか圧巻だね」


 ジュニアは次々に飛び立つ地球猫たちを見ながら独りごとのように言う。


「何を他人事ひとごとのように言っているのにゃ?

 一緒に行くのにゃ!」


 サビはそう言い、キャリバッグを抱えるジュニアを両手で天に差し上げるように持ち上げる。


「ええぇ?!」


 あまりの事にジュニアは驚愕きょうがくする。

 サビはそのまま窓から跳躍ちょうやくし、地面に降り立つ。

 着地の衝撃でジュニアは、ぐぇ、と情けない声をあげる。

 そんなジュニアに一切の斟酌しんしゃくなしに、サビはジュニアを両手で差し上げる。

 そしてそのまま腰を低く落としたかと思うと、にゃーん! と叫び跳び上がる。

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