噂になるのも仕方がない
目覚めた。
宿の天井が見える。
即座に起き上がって窓から外を眺めた。
いい朝だ。
部屋はかなり狭いけど、藁のベッドとかじゃなく、一応毛布もあった。
清掃も最低限はしているらしく、埃はないし、ある程度は清潔だ。
四畳半程度の部屋だが、寝るだけなら問題ない。
シャツ姿で寝ていたので、どうも寝覚めはよくない。
制服のまま寝ると、なんか気持ちが悪いんだよな。
寝巻というか、もっと着心地のいい服を買った方がいいかもしれない。
所持金は銀貨三枚銅貨二枚。
大事に使わないといけないな。
まずはお金を貯めよう。
俺は上着を羽織り、部屋を出た。
下流街西側にある住宅街の安宿。
ギルドと提携している分、サービスは悪くはない、良くもないけど。
食事は出ない。ただ泊まるだけだ。
店員はほとんどおらず、受付に座っている恰幅のいいおばさんだけだ。
俺は廊下を進み、階下に降りる。
俺の部屋は二階。この建物は三階建てだ。
ラウンジには何人かの冒険者らしき人達がいた。
俺と同じで駆け出しっぽい人が多いな。
受付に行き、鍵を取り出した。
「出かけます」
「あー、はいはい。えーと……201号室の、誰だっけ?」
「累です。神奈累」
「ああ、そうそう、カンナさんね、はいはい、確かに受け取りましたよ。
気を付けていってらっしゃいね」
言葉だけでもかなりおざなりだが、彼女の顔を見れば顕著だ。
なぜなら受付の女性は一度も俺を見ていないからだ。
おい、会話する時くらいは顔を見ろ。
できないんじゃなくて、しないんなら尚更だ。
そう思うが、ギルドと提携している宿で騒ぎを起こせばマールさんに迷惑をかけるので言わない。
お客様は神様だ、なんて思ったことはないが、供給側も消費者側も対等だ。
店はサービスを提供し、客はお金を払う。
過剰なサービスを要求したり、ぼったくり価格で売り払ったりしたら関係性が破綻する。
それをわかっていないというのは、いかがなものか。
まあ、出入りが激しそうな宿だから、そういう適当な対応になるのかもしれないけど。
格安だし、ここは割り切ろう。
俺は嘆息し、宿を出た。
時代背景とか住んでいる人とか、文化レベルとか色々と差はあるけど、住み心地は悪くないな。
もっと殺伐とした環境なのかと思っていたけど。
盗賊が出たり魔物が出たり、たまに絡まれるくらいなら、問題はないしな。
さて。
今日も張り切って頑張りますかね。
俺は軽い足取りでギルドへと向かった。
◆◇◆◇
それはギルドに入った時のことだった。
妙にギルド内が騒がしかった。
何か浮き足立っているような、そんな雰囲気がギルド内に漂っていた。
俺は気にしながらも、Eランクの掲示板の前に移動し、依頼書を確認していた。
うーん、討伐依頼は昨日のゴブリンの依頼と、後はちょっと遠い場所へ遠征が必要な依頼ばかりだな。
準備が必要そうだ。お金もかかりそうだし。
護衛はまだ状況が把握できていないし、時間がかかる。
特殊依頼は……おい、なんだこれ。『一日中罵ってくれる人募集【ただし美少女に限る】』とか。
馬鹿じゃないのか。
誰が行くんだよ。
あ、でも報酬がすごく高い。
大白金貨一枚だってさ。
俺なりに調べた結果、貨幣価値は『鉛貨』『半銅貨』『銅貨』『銀貨』『金貨』『白金貨』『大白金貨』の七種類あるらしい。
各十枚で上位通貨と同価値がある。つまり鉛貨十枚と半銅貨一枚は価値が一緒。
かなり適当だけど、鉛貨一枚で一円程度の勝ちだと思う。
下から『鉛貨は一円』『半銅貨は十円』『銅貨は百円』『銀貨は千円』『金貨は一万円』『白金貨は十万円』『大白金貨は百万円』って感じ、らしい。
もちろん、貨幣価値の変動はあるから、品物の価格は上下する。
ギルド提携の宿の値段は銅貨六枚程度。六百円。破格の値段だ。
ただし食事は出ないし部屋は狭い。
しかも一か月しか住めないし、今だけ。
新人じゃなくなれば利用できなくなる。
よほどのことがあれば、貸してくれるかもだけど、条件は厳しそうだ。
さて、それはそれとして。
あんまりいい依頼はないな。
やっぱり昨日と同じ依頼を受けるか?
と考えていたら、後方から話し声が聞こえてきた。
「――おい、聞いたか? パステル様の話」
「ああ、やっと帰国なされたらしいな。
アリストに留学していたとか聞いてたけど、いやぁ、喜ばしいことだ」
「違いねぇ。じゃなくて! 確かにパステル様が帰ってきたことは良い知らせだけどよ。
パステル様が帰国なさる前、王都近くで賊に襲われたって話だぜ?」
「な、なんだと!? それは本当か!? あ、あのパステル様が……。
ま、まさか盗賊に襲われて、あんなことやこんなことをされて……!?
こここ、殺してやるっ! どこだその盗賊は!?」
「落ち着け。おまえがパステル様のファンだってのはわかってるから、叫ぶな。
とにかくパステル様は無事だったらしい。無傷で、何もなかったんだと」
「な、なんだ脅かすなよ。しかしよく無事だったな。
ディートヘルム様が護衛についていたのか?」
「いや、姫様の親衛隊は傍にいなかったらしい。
アリストから帰る途中、大量の暗殺集団に襲われて、足止めすることで精一杯だったんだと。
それで姫様と新兵の御者だけで逃げて、盗賊に襲われた、と」
「なんだよそれ。完全に罠じゃねぇか。親衛隊は何してたんだ」
「仕方ねぇさ。どうやら暗殺集団はあのウロボロスの連中だったみたいだしな。
しかもかなりの数。対して親衛隊はたった三人。むしろよく戦ったと言うべきだろうぜ」
「……親衛隊達は無事だったのか?」
「ディートヘルム様だけは無事だったらしい。他の二人は殺された。
身体中傷だらけで血だらけで帰ってきたんだと。しかも徒歩で。
大したもんだけど、姫様を護衛するって役目は果たせたかは微妙だな」
「どうしてだ? 盗賊を倒したのはディートヘルム様じゃないのか?」
「違うらしい。どうやら見ず知らずの冒険者が颯爽とあらわれ盗賊を倒し、颯爽と立ち去ったとか」
俺は肩をぴくっと震わせた。
というか手も震えてきた。
「冒険者? 冒険者がパステル様の窮地を救ったのか?」
「ああ。ただパステル様はその冒険者の顔を見ていないとか、何とか。
上流層正門の兵士にパステル様が話しているところを、見た奴が言っていたぜ」
なぜ門衛に話しちゃったんだろうか。
誰かに聞かれる状態でそんな会話したら噂になるのに。
パステルはそういう部分に気を避けるような性格ではなかったように思える。
なんというか、純真無垢というか。
だから責められない。
「で、その冒険者を探そうとしてるみたいだぜ」
「パステル様が?」
「いや、王様が。パステル様は、すぐに立ち去ったということは素性を知られたくない方だと思う、とおっしゃって、冒険者の捜索には反対してるらしい。
王の立場からすれば、娘を助けた人間を探さずにはいられないだろうな。体裁もあるし」
「確かに、恩を受けておいて放置なんて、人格が疑われるだろうな。
最低限の報酬を与えないとおさまりがつかんだろ」
俺は内心で怯えていた。
これはまずい。
俺が思っていたより、王族に関わると面倒事が増えるようだ。
誰かが助けてくれたよかったね、じゃ終わらないのか。
どうしよう。
このまま捜索が続けられると、見つかるかも。
「しかし、なんでララン森にいたんだろうな……。
冒険者だとしたら、かなりランクが低い奴か、東に向かおうとしている奴くらいしか行かないだろうに」
「アリストか、どこかの街に行こうとしてたんじゃねぇの?」
「しかし、パステル様の話しぶりからすると冒険者は一人だろ?
複数人いたら冒険者達って言うしよ。一人で盗賊二十人以上を倒したって聞いたぜ?」
おい、人数増えてる!
正しくは八人だから!
「そんな腕に覚えがある冒険者なら、ランクは高いんじゃねぇか?
ララン森にいたということは、王都を出たばかりか、王都に着く直前だったかのどちらか。
ってことは、昨日の夕刻に王都に到着したか、夕刻前に王都を出た冒険者を探せば……」
「そいつが見つかるかもしれねぇってことか。別に探さなくてもいいだろうに」
「こいつは、噂だけどよ、どうやらその冒険者を探すようにお触れが出るらしい。
しかも情報提供にはそれなりの報酬が支払われるとか」
「おっとそれは聞き捨てならねぇな。情報を提供するだけで報酬がもらえるのか?」
「しかも大白金貨五枚とか」
「……情報屋に伝手がある。すぐ行こうぜ」
「ああ、賛成だ」
会話をしながら男二人はギルドを出ていった。
なんてことだ。
あの話が本当なら、俺を探そうとみんなが行動し始めてしまう。
金目当ての連中は多いだろう。
昨日の俺の行動を知っている人も少なくない。
それにパステルが口を割ってしまう可能性もある。
事が大きくなればなるほど、その可能性は高くなるのだ。
しかもあいつら、俺にも聞こえるくらいに大きめの声で話してた。
必然、
「おい、今の聞いたか?」
「ああ、小耳には挟んでたんだけど、本当に――」
「俺達も――」
「情報屋に、いや実際に見に行って確かめるか」
「だったら、ギルド内で調べて」
なんて会話がそこら中で聞こえ始めた。
なんだこれ。
俺は目立ちたくないんだ。
意味なく目立ちたくないわけじゃない。
目立ったら、文字通り目をつけられるからだ。
王様を謀ったという嫌疑をかけられ、それはいまだに払しょくできていないし、今後もできることはないだろう。
もし俺の所在がバレれば。
牢獄に入れられかねない。
あの王の言動を見れば、自分のプライドを優先して、俺に疑いの目を向けるかもしれないからだ。
というか手の平を返すことはできないだろう。王様としての立場があるし。
召喚時、いろんな人が立ち会ったわけだし、その言葉や行動を撤回し、謝罪しなければならなくなってしまうからだ。
ああ、こじれてきた。
あれか。
今が、祖父ちゃんの言っていた戦う時なのか。
いや違うだろう。
今は逃げる時だろ。
とにかく、できるだけ目立たないように、ひっそりと過ごそう。
少なくともしばらくは。
ということで、今日の依頼はこれだ!
●雑用依頼【依頼主:レミ】
・ランク :E
・依頼条件:特になし
・依頼期限:昼前ならいつでも
・依頼報酬:銀貨三枚
・目的地 :王都リオリザ中流街西通りの住宅
・概要 :最近、身体を動かすのが大変なので、家事を手伝ってほしい。
二時間程度でお願いします。
雑用依頼なら目立たないし、地味だし、多少はお金も入る。
二時間で銀貨三枚とは、ちょっと少ないけど。
時給換算だと悪くはない。
ただ一回限りだし、中途半端に時間を費やすことになるので、他の仕事はできそうにない。
そのためか誰もこの依頼を見てもいない。
俺以外のEランクの冒険者達は、大概が討伐、護衛、調達依頼を手にしている。
まあ、中には特殊依頼を見て、ものすごく悩んでいる人もいるけど。
やめとけ、それはやめといた方がいいよ。
お金の代わりに色んなものを捨てることになるから。
俺は憐憫の視線を件の冒険者に向け、依頼受諾受付へ向かった。
「ん? 今日はマールさんですか?」
受付に座っていたのはアメリアさんではなく、マールさんだった。
マールさんは笑顔のまま答える。
「あら、アメリアの方がよかったですか?
ちょっと傷ついちゃいますねぇ」
「い、いえそういう意味ではなく、受付場所が変わるんだなー、と思って。
俺は嬉しいですよ。マールさんが受付してくれて」
「ルイさん自然にそういうこと言うと、いつか大変な目にあいますよ」
「どういう意味です?」
俺は彼女の言葉の意味がわからず、首をかしげた。
マールさんは苦笑しているだけだ。
「自覚なしですか。これは困りますね。色々と苦労しそう」
「……よくわからないんですが」
「ふふ、わからなくていいですよ。私は何となくルイさんのことわかってきましたから」
上品に笑うマールさんを前に、俺は戸惑いを隠せない。
うーん女の人ってたまに、こういうこと言うんだよな。
なんか色々と含みを持たすというか、二歩、三歩先回りしているというか。
「依頼書ですか?」
「あ、ええ、そうです。これを」
「あら、雑用依頼ですか」
驚いた様子のマールさん。
俺は思わず問いかけた。
「受けない方がいいです?」
「いえいえ、すみません、そういう意味ではなく、単純に驚いたと言いますか。
雑用依頼を受ける人はとても少ないですから。
みなさんどうしても報酬のいい依頼を受けるので。
かといって特殊依頼を受ける人も少ないですけどね」
「まあ、あれは、そうでしょうね……」
「雑用は個々人の依頼が主です。
ちょっと手伝ってほしいみたいな内容が多いので、冒険者さんはあまり引き受けないんですよね。
やっぱりその……荒事を率先してする人が多数派なので」
確かに、俺に絡んできた男とか、他のいかつい冒険者が、おばあちゃんの手伝いとかしてる姿は想像できない。
「たまに、若い新人さんが受けたりもしますけど、雑用をするなら普通にお店で働いた方が収入や待遇は良いですし、実績にもなりますから」
「それで雑用依頼を受ける人が少ない、と。
でもだったらどうしてギルドで依頼を仲介しているんです?」
「他に斡旋所がないので、なし崩し的に受けているんです。
一応、まったく依頼を受ける人がいないというわけでもないので。
雑用依頼自体の仲介料は依頼達成時にしか頂かないので、依頼主に負担はあまりない、というところが唯一のメリットでしょうか。
ただ、あまり評判はよくないので、ちょっと困ってはいますね……」
何となく想像はつく。
冒険者が雑用依頼を受ける状況を想像すると、かなり未熟な人、暇つぶし、あるいは冷やかし、とかだろう。
対価を考えればわざわざ雑用依頼を受ける必要はないし。
特殊な事情がなければ受けないと思う。
俺も、今のような状況でなかったら受けなかっただろうし。
「この依頼を受けるということでよろしいですか?」
「ええ、お願いします」
俺は冒険者カードを差し出した。
カードを受け取ったマールさんはテキパキと受付作業をこなす。
「はい、ではこちらをお返ししますね」
「どうも」
カードを受け取りポケットに入れた。
「依頼者さんのお宅は中流街西通りの住宅街にあります。住所は依頼書に。
迷ったら、中流街のギルドで聞いてください」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、その……もしかしたら、ちょっと大変かもですけど、がんばってください」
「え? はい、頑張ります」
なぜか心配そうな顔をされてしまった。
まさかこの依頼に何かあるんだろうか。
うーん、さっき冒険者の評判は良くないとか言っていたし。
依頼主も冒険者に悪印象を持っているとか?
イヤな予感がしてきた。
でも、受けたからには放棄するわけにはいかない。
死にはしないし、大丈夫だろう。
楽観的に考えていた俺は、中流街に向かった。
●リンクログ
▽ログ
…100:女性キャラ一人と仲良くなる【好感度:友達レベル】
…350:女性キャラ五人と出会う【全員美女か美少女:300pt加算】
…300:目立ちたくないと言いつつ、目立つ行動をとる
…150:主人公の存在が噂になる【噂レベル:冒険者の極一部】
…10 :一般的な冒険者がとらない行動をとる【限定的:雑用依頼受諾】
●テンプレポイント:1960




