冒険者ギルドに行くと、やられキャラに絡まれるもの
掲示板は壁一面に備え付けられており、上部にEランクからAランクのプレートがぶら下がっている。
俺はEランクの掲示板まで移動した。
途中で、俺にぶつかってきた男三人衆がいたが、無視した。
なぜか俺を睨んでいたが、気にしない。
面倒事はごめんだ。
俺は早くお金を稼ぎたいんだ。じゃないと野宿なんだよ!
掲示板を見るといくつかの分類がされていることに気づく。
依頼には『討伐依頼』『護衛依頼』『調達依頼』『雑用依頼』『特殊依頼』があるらしい。
討伐、護衛、調達はそのままの意味だ。
雑用は、危険性が低いが、正に雑用。
家の掃除とかペットの世話とかそんな感じだ。
簡単だが、報酬は低い。大体銅貨三枚から八枚程度だな。
特殊依頼は名前通り特殊な内容だ。
『魔術の実験体になって欲しい』とか『一日奴隷になって欲しい。屈強な男性限定』とか『マンドラゴラの悲鳴を聞いた人間がどうなるか見たいので、目の前で引き抜いてほしい』とか、よくわからないが危険だったり、明らかに近づきたくない内容ばかりだ。
その分、報酬はかなりいいみたいだ。
金貨八枚、とか白金貨三枚とか。
多分、白金貨は金貨の上位通貨だよな……相当な高額報酬のようだ。
でもやりたくない。
Eランクでもこれだけの報酬ってことは、それだけ誰でもできて誰もやりたがらない仕事ってことだ。
俺はすべて見なかったことにした。
初心者の俺は雑用をする方がいいんだろうが、それだけだと一日の宿泊分しか稼げない。
食事もしないといけないし。
護衛、調達は時間がかかる。
朝からとかなら別だが、今は午後一、二時くらいだと思うし。
時間的に無理がある。
となると討伐、か。
うーん、腕に自信はあるけど、素手で倒せるものなんだろうか。
というか、討伐って殺すってことだよな。
討伐対象は魔物、か。
鹿くらいなら素手で仕留めたことはあるんだけど。
小型なら首の骨を折れば倒せるかな。
人相手でなければ加減はしなくていいだろうし、抵抗もあまりない。
ま、いけるか。
俺は近くにあった難易度の低そうな依頼を手にした。
●討伐依頼【依頼主:冒険者ギルド】
・ランク :E
・依頼対象:ゴブリン三体
・依頼条件:特になし
・依頼期限:特になし
・依頼報酬:銅貨八枚。
・目的地 :王都リオリザ近くにあるラランの森
・概要 :街近辺に増えてきたゴブリンを討伐して欲しい。
ゴブリンの討伐数によって、報酬を増額する。
これでいいだろう。
ゴブリンっていうのは、どうやらファンタジー世界では雑魚な魔物らしい。
最初の相手としては悪くない。
三頭分だと雑用と同じくらいの報酬だけど、討伐数を増やせば報酬も増える。
ある程度戦って、いけそうなら討伐していけばいいし。
俺は依頼書を何度も確認し、問題ないとわかると、依頼受諾受付へ行こうとした。
と。
「おやおやぁ? Eランクの底辺冒険者がゴブリン討伐かぁ?
雑魚の魔物を狩るなんて、しょっぼいことしてんなぁ?」
俺にぶつかってきた男達が俺の行く手を遮った。
明らかに俺よりも体格がいいが、明らかに小物じみた行動だった。
あ、これもテンプレっぽいな。
まあ、どうでもいいけど邪魔だなぁ。
俺は男達を無視して受付へ行こうとした。
だが回り込まれた。
俺達の様子を見て、周りが注目し始める。
困ったな。
登録初日で問題を起こしたくはないんだけど。
俺は嘆息し、視線を逸らした。
その行動が気に食わなかったのか、先頭の男の額に青筋が立った。
「てめぇ、舐めてんのか? あ!? Eランクごときの、異人が俺様を無視するな!
俺はCランクのグラートス様だぞ!?」
異人? ああ、そうか。
俺は黒髪黒目で、周りから浮いているし、服装も学校の制服だからな。
目立って当然だし、異人と言われるのも当然だ。
自分が外国人だと言われる経験がなかったから新鮮だった。
俺が何も言わないで頷いている姿を見て、更に男の表情がひきつる。
まいったな。別に挑発してるわけじゃないんだけど。
馬鹿だなとは思うけど。
ランクは俺よりは上か。
この調子だとCランクも大したことなさそうだな。
「し、新人の癖に生意気な野郎だ! おい、てめぇ、冒険者のルールを教えてやるぜ」
男が腰から剣を抜いた。
喧騒が生まれる。
受付の方を見ると、マールさんが顔を青ざめて、こっちに来ようとしたが、俺は手で来ないように指示した。
マールさんは足を止め、同僚の女性に下がるように促されていた。
俺の行動を見て、更に更に男が激昂する。
「て、てて、てめぇ、今のなんだよ!? あ!?
なんであんな風にできてんだよ! マ、マママ、マールさんに、な、何をしやがった!?」
「何もしてないけど」
「う、嘘をつけ! マールさんはな、俺達の天使なんだよ!
それを今日来たばかりの上に、たった数分話しただけでなんであんなに親しくなんだ!?
あああ!? なんかしたんだろうか!? したんだよな!?」
なるほど。こいつは嫉妬してたんだな。
別に、彼女と何があるわけでもないのに。
一方的に恨まれても困る。
というか、こっちは入り口でぶつかられた過去があるから、ちょっとイラついている。
「いや、普通に話しただけだって」
「ふっざけんな! マ、マールさんがあんな風に笑うなんて今までなかったんだよ!
し、し、しかも、い、一緒に帰る約束するなんて!」
どうしよう。むかつくけど、ちょっと憐れに思えても来た。
人間性は最悪だけど、恋心は理解できる。
……いや、だからってこんなところで騒ぎを起こせば、マールさんに迷惑かけることくらい気づけとは思うけど。
「許せねぇっ! てめぇはボッコボコのギッタギタのザックザクにしてやる!
死ね、このボケぇぇっ!」
男が泣きながら剣を振り下ろしてきた。
後方の男達も何とも言えない複雑な顔をしていた。
かなり、むかつくけど、ちょっとかわいそうに思えた。
なので。
手加減してやろうと思う。
頭上から下りてくる白刃を半身になり避ける。
同時に、男の脇の下から左手を入れ、顎を押す。
体勢を崩し、僅かにのけ反った男の足を、蹴った。
すると、大男は後方に見事に転倒する。
受け身も取れないので、後頭部を強かに打ち付け、昏倒した。
男はまったく動かない。
こっちの世界でも人の強さってのはあまり変わらないみたいだ。
やっぱり普通の人間くらいなら勝てそうだな。
うん、これなら魔物討伐くらいならできるだろう。
多少武器も扱えるけど、今日は素手で行くか。
どれくらいやれるか確かめておきたいし。
「すげぇ……なんだ、今の?」
「い、今何が起こったんだ? あいつ、何かしたのか?」
「見えなかったぞ……凄まじい早業だ」
どよめきが治まらない中、俺はスタスタと受付まで行き、
「これ受けたいんですけど」
そう言うと、受付の女性が泡を食ったように対応してくれた。
「じゅ、受諾しました。それでは依頼遂行をお願いします」
「はい、頑張ります。あの、討伐したら何か証拠とか持って帰るんですか?」
「い、いえ、専門の分析術士がいるので、必要ありません。
彼らがいれば特定情報の真贋がわかりますので。
ですので、冒険者登録も署名だけで問題ないのです」
「なるほど、わかりました。それじゃいってきます」
「い、いってらっしゃい」
すっかり静まり返ったギルド内を俺だけが移動している。
俺が近くを通ると、冒険者の数人が道を開けた。
失礼な。
そんな汚いものを避けるみたいにしなくてもいいじゃないか。
俺は不愉快に思いながらも、床で気絶している男を素通りして、外に出た。
ふと思った。
ああ、確かにあいつは『やられキャラ』だったな。
テンプレという運命からは逃れられなかったのか……憐れ、えーと、ギャ○ドスだっけ?
ま、いいか。
俺はさっきまでの出来事を忘れ、街の正門まで向かった。




